理をはかる

成田直己 / ラ・ベットラ・ダ・オチアイ 『パスタ』についての理

食材は、適した調理法によって最大のおいしさを発揮します。プロの仕事に学ぶ、基本の理(ことわり)。

リーズナブルに楽しめる本格イタリアンコースで人気を博し、今なお日本一予約が取りにくいといわれる有名レストラン。オーナーシェフ落合務氏のもと、ラ・ベットラの感動の味を作り出すのはオープン当初から総料理長を務める成田直己シェフ。彩り豊かな前菜、「新鮮なウニのスパゲッティ」など絶品ソースで心揺さぶるパスタ、食べごたえのあるメイン料理まで、数々のメニューを演出しています。今回、成田シェフに教えていただく“理”食材は、ラ・ベットラの肝ともいえる『パスタ』。ソースによって、どうやらパスタをおいしく仕上げるポイントが異なるようです。

パスタは、ソースによって仕上げ方が変わります

調理法1. オイル系ソースの決め手は“乳化”

あさりの蒸し汁とオリーブオイルを一体に

POINT.1 -あさりの蒸し汁とオリーブオイルを一体に

オイル系のソースは、乳化させるのが最大のポイント。乳化とは、本質的には混ざらない水と油が均一に混ざり合った状態のこと。分離したままだとパスタに絡まず、味がほやけたり偏ったりしてしまうんです。作り方はまず、にんにくの香りをオイルに移したところにあさりと白ワインを加え、ふたをして加熱します。殻が開いたらあさりは出しましょう。残ったソースはあさりの蒸し汁が大半で、まだシャバシャバの状態。煮立ったら火を弱めてフライパンを揺すりながらオリーブオイルを加えていきます。水分が飛び、白濁してとろみが出たら乳化の合図!

パスタを少し煮て味を含ませる

POINT.2 -パスタを少し煮て味を含ませる

うちでは、湯量に対して1.5~2%、やや多めの塩を入れてパスタをゆでます。パスタに下味をつける意味もありますが、そうすることでソースのなじみもよくなるんです。乳化したあさりソースをパスタにしっかり絡ませたいので、ゆで時間の30秒前にパスタを上げて、すぐにフライパンへ。味を含ませるように絶えず混ぜながらフライパンを揺すって煮絡めます。パスタ一本一本にソースが絡まったら最後にあさりを戻し、ひと混ぜしてできあがり。この時点でアルデンテが目標なので、煮ると言っても”手早く”ですよ。

ボンゴレ ビアンコ(あさりのスパゲティ)

アサリのボンゴレスパゲティ

コツ・ポイント

オイル系ソースは乳化が決め手。あさりの蒸し汁にオリーブオイルを加え混ぜ、白濁してとろみが出たらOK。パスタを少し煮て味を含ませながら仕上げます。これは春から初夏限定の味。冬場のあさりは塩気が強いので、ソースにホールトマトやトマトジュースを加えた「ボンゴレ・ロッソ」がおすすめです。

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調理法2. トマト系ソースは“火加減”で味を調える

トマトジュースを煮詰めて味を濃縮

POINT.1 -トマトジュースを煮詰めて味を濃縮

トマトソースというと、ホールトマト缶を使って作る人が多いですが、無塩の100%トマトジュースのほうが実をつぶしたりする手間がなく、味も均一にまとまるのでおすすめです。ポイントはフライパンに線が描けるようになるまでしっかり煮詰めること。にんにくを炒めたところへジュースを注いだら、「中火」で絶えず混ぜてください。耐熱性のゴムべらがやりやすいです。フライパンの縁についたエキスも拭って混ぜ込み、3分の2量くらいになるまで煮込むと水分だけが飛んで味が凝縮。ここへ香ばしく焼きつけたフレッシュトマトを加えて、コクをアップします。

手早く味を絡めて火を止める

POINT.2 -手早く味を絡めて火を止める

パスタは、完成してすぐがいちばんおいしいとき。ソースを煮詰めるのは数分かかるので、パスタはソースができてからゆで始めるのがベター。表示時間のほんの少し前にパスタを上げます。ここからは時間勝負。パスタにソースを「強火」でさっと絡めたらフライパンを火からはずし、パルメザンチーズ、バターを順に加えて混ぜ、最後にモッツァレラを散らしてひと混ぜ。チーズが溶けきってしまうと違うソースになってしまいますから、形を残してトマトが主役の味に仕上げます。

トマトソースのスパゲティ モッツァレラチーズ入り

トマトソーススパゲティ

コツ・ポイント

トマトソースは、ホールトマト缶よりトマトジュースで作るほうが手軽。3分の2量くらいになるまで煮詰めると水分だけが飛んで味が凝縮します。ソースができたらパスタをゆで始め、仕上げは手早く。最後のモッツァレラは溶けると違うソースになってしまいますから、形を残してトマトが主役の味に。

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ソースによってパスタを使い分けて、できたてのおいしさを

ソースによってパスタを使い分けて、できたてのおいしさを

パスタは、ゆで始めたら時間との戦いです。皿に盛りつけて食べ始めるとき=ゆで時間(アルデンテ)と考えて、表示のゆで時間より少し前に上げ、手早く仕上げます。そして、できたてを食べるのもおいしさを逃さない秘訣! 今回、レシピは2人分で紹介していますが、ソースができたら仕上げは1人分ずつ作るほうがおいしくできます。量が多いとソースに絡めたり盛りつけたりする時間が倍になってしまって、アルデンテのはずが残念な食感になることも・・・。量が増えれば増えるほど難しくなるので、店でもできるだけ少なめの人数分で仕上げるようにしています。

写真のパスタは、店と同じ1.4mmのスパゲッティーニと呼ばれる細めのものを使いましたが、1.6mm程度の一般的なスパゲッティにも合うので、好みの太さで作ってください。迷ったら、アーリオオーリオなどのオイル系やあっさりしたソースには細めのロングパスタ、じっくり煮込むラグーソースや生クリームなどを使ったこってり系は太めや平たいロングパスタ、またはショートパスタを使うといいでしょう。

ソースは混ぜ方や火加減で味が幾重にも変わっていきます。まずはシンプルなものからチャレンジして、パスタとの相性や好みを探すのもいいですね。パスタのゆで時間を見極めて、できたてのおいしさを味わってください!

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  • 文:須永久美
  • 写真:キッチンミノル