名店のまかないレシピ

脇屋友詞 / Wakiya一笑美茶樓 自慢のスープが主役 白菜と肉団子・春雨の煮込み

15歳で厨房に立ち、料理一筋40年。上海料理をベースに、伝統と創作が融合した体に優しい中国料理が国内外から高い評価を集める脇屋友詞シェフ。東京・赤坂「Wakiya一笑美茶樓」「トゥーランドット臥龍居」など4店舗のオーナーシェフとして、また“アイアンシェフ”の一人として多方面で活躍をしています。多忙な中でも大事にしているのが、スタッフと共にする食事のひと時。鍋をグツグツと火にかけて、体も心も温まるようなまかないの時間が始まりました。

料理人としてのセンスをまかないで磨く

料理人としてのセンスをまかないで磨く

まかないは朝10時と夕方16時の1日2回。だいたい1年目から5年目までの見習いが自分で献立を考えて作ります。残った葉野菜、肉の筋、魚の骨なんかを活用できるもの、メインになるもの、麺など温かいものの3品くらいで、中国料理がほとんどですね。私もほぼ毎日、みんなと一緒に食べていますが、その日のゲストの情報を共有したり、落ち込んでいる奴がいたら励まし合ったり、貴重なコミュニケーションの時間にもなっています。

料理人の命はセンス。どんな食材をどう工夫して提供したらお客さんに喜んでもらえるかを常に考え、形にしていける力が常に問われます。まかないは、料理人としてのセンスを磨く絶好の機会ですね。食べるのはみな料理のプロですから、当然、厳しい目と舌にさらされるわけで、その時の忙しさやスタッフの人数、食材の状況に応じて柔軟に段取りを計算できる頭も必要。まかないで店の味を再現できていることがわかれば、「じゃ、任せてみよう」ということになります。私も若い頃にまかないを作っていた時には、いつも「先輩にうまいと言ってもらいたい」と気持ちを込めて作っていました。よく作っていたのは煮込み料理。残さず食べてもらった時はうれしかったですね。

まかないを通じて学べる「料理のセンス」。センスが問われるのは、組織のリーダーとしての信頼を得る姿勢についても同じなのだと脇屋シェフは続けます。

上に立つ人間が持つべきは「思いやり」

上に立つ人間が持つべきは「思いやり」

気づけば料理の道に入って40年が過ぎました。店をまとめる立場になってから大事にしていているのは「思いやり」ですね。相手がしてほしいことを気づいてやる。もちろん味の指導には厳しいかもしれませんが、厳しい中にも優しさは必要です。例えば、後輩がずっと鍋洗いをやっていて疲れていると分かれば手伝ってあげる気持ち。そんな思いやりの心は、先輩から後輩へと、きっと受け継がれていくものだと思います。手取り足取り何でも教えてもらえる世の中ではないかもしれませんが、ふとした時に感じる先輩の温かさから多くを学べる。そんなセンスも料理人として上に立つには欠かせないと思いますね。

私が日頃よく伝えているのは「すぐやる、必ずやる、できるまでやる」ということ。「ハイ、わかりました!」と返事だけよくて、すぐに取りかからないのではダメですね。物事は何でもやってみないとわからない。やる前から、あぁでもないこうでもないと考え過ぎていては何も身につかないんですよ。縄跳びだって繰り返し練習することでやっとできるようになるわけでしょう。料理も同じで、自分の十八番をつくるには、何度も何度も練習してやっと教えられたとおりにできるようになって、そこから初めて自分なりの工夫ができるようになるんです。

私自身も、数え切れないほど手を切ったし、火傷をしてきました。手元を見なくても均等に野菜を切れる、鍋の持ち方一つで味がどう変わるといった感覚を獲得するには、地道な努力の積み重ねがありました。

鍛練千日、勝負一瞬。大げさではなく、中国料理の炒め物の味はほんの一瞬で決まります。その一瞬のための鍛錬の価値を、これからも伝えていきたいものです。

白菜と肉団子・春雨の煮込み

白菜と肉団子・春雨の煮込み

コツ・ポイント

豆腐は凍らせることで水分が抜ける。スープを吸っておいしくいただくためのひと手間。味が凝縮されて、栄養価も高まる。

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  • 文:宮本恵理子
  • 写真:平瀬夏彦