お酒と料理

目黒浩太郎 / Abysse(アビス) 魚のフレンチに寄り添う、エスプリ漂う日本酒

外苑西通りを1本入って、階段を上がると魚のマークが見える。レストランフリークなら「元フロリレージュ」でピンとくるはずだ。店内のレイアウトもほとんど変わらない。なのに確かに、新しい風がこの店には流れている。料理は“魚介フレンチ”である。

シェフの目黒浩太郎さんは「カンテサンス」で修業後に渡仏し、マルセイユのミシュラン三ツ星店で働いた。そのときに魚介を使ったフランス料理に魅了されたことが、今の原点になったという。店名は「深海」を意味する。料理の海に深く潜っていく、目黒さんの思考のスタイルが形になったようだ。

「帰国してからは、お寿司屋さんや日本料理店から勉強することが多いですね。今日も夜に大好きなお寿司屋を予約しているんです」と嬉しそうに語る目黒シェフ。日本酒は、帰国してからよく飲むようになったという。

海外で日本酒の価値を上げるという造り手の想いが、ピュアな味わいにあらわれる

海外で日本酒の価値を上げるという造り手の想いが、ピュアな味わいにあらわれる

プライベートでもよく飲む日本酒は「醸し人九平次(かもしびと・くへいじ)」。萬乗醸造という名古屋の酒蔵で、九平次というのは15代目当主のお名前です。熟した果実味のような上品な味わいと、気品のある酸のバランスが九平次の特徴ですね。

九平次シリーズの中でも、特に「EAU DE DESIR(オー・ドゥ・デジール)」をよく飲みます。フランス語を直訳すると「希望の水」です。

僕がこのお酒を知ったのは、ごく最近です。日本酒を海外で飲んでもらおうと頑張っている蔵があると知って、興味を持ちました。造り手の想いに共感する形で飲んでみたら、ピュアで洗練された、綺麗な味わいに惹かれました。

1.たこの甘みと日本酒のほの甘さが繋がる『真だこのベニエ』

「醸し人九平次 EAU DE DESIR」に合わせたのは、柔らかな食感が特徴のたこのベニエ(揚げ物)。口の中に残った油のニュアンスを、日本酒がリセットしてくれます。

1.たこの甘みと日本酒のほの甘さが繋がる『真だこのベニエ』

この「醸し人九平次 EAU DE DESIR」は、白ワインと同じくらいの温度帯、つまり冷蔵庫から出して、徐々に室温に近づいていくような温度帯で楽しめるお酒だと思います。今回は足のないワイングラスを使いました。真だこには衣を薄くつけて、外はカリッと仕上げます。洗練されたピュアな味わいの日本酒には、シンプルな料理が合いますね。

たこの甘みと日本酒のほの甘さが繋がり、お酒と料理の相性の良さを楽しんでいただけると思います。

2.きゅうりのおいしさを引き出す『きゅうりのヌイユ』

きゅうりでいちばんおいしい部分は、皮の少し下にある、滑らかな身の部分。皮と種の近くを取り除き、締まった身質の部分だけをピーラーでヌイユ状(平麺のような状態)に長くスライスして、イカと合わせます。

2.きゅうりのおいしさを引き出す『きゅうりのヌイユ』

イカとピーカンナッツの組み合わせは、南仏の修業時代に知った味です。きゅうりの爽やかさ、イカの甘さ、ナッツの香ばしさ、バジルの香りがバランスよくまとまり、「醸し人九平次 EAU DE DESIR」の果実的な香りや味わいにしっくりと寄り添います。僕の好きな組み合わせです。

造り手のストーリーに魅せられて

日本酒については、造り手について書かれた本をよく読みます。造り手のストーリーから興味を持って、味見をするということが多いですね。お店でも日本酒を少し置いています。これはソムリエに任せていますが、日本酒だと、ワインとのマリアージュのように魚介の生臭みが強調されることがないんです。魚介と日本酒の相性の良さにハズレがありませんね。

真だこのベニエ と きゅうりのヌイユ

真だこのベニエ と きゅうりのヌイユ

コツ・ポイント

真だこは冷凍することで細胞を壊し、ごく弱火で40分間茹でることが、柔らかな食感に仕上げるコツ。茹で過ぎると身が溶けてしまい、香りも飛んでしまうので注意。

きゅうりのヌイユ風サラダは、鮮度の良いきゅうりを使うことがポイント。皮と種の間のおいしいところだけを贅沢に使って、半生のイカと合わせます。

醸し人九平次 山田錦 EAU DU DESIR(希望の水)

醸し人九平次 山田錦 EAU DU DESIR(希望の水)

分類:純米大吟醸

原材料:米、米こうじ

米の品種:原料米(山田錦)

精米歩合:50%

アルコール分:16~17%

萬乗醸造/愛知県名古屋の酒蔵。15代目の蔵元・久野九平次氏が、同級生の杜氏・佐藤彰洋氏を中心とした蔵人たちと日本酒の革新に取り組む。2010年からは米作りにも取り組み、兵庫県西脇市黒田庄町にスタッフを派遣し、山田錦を栽培。海外への進出へも積極的で、パリの星付きレストラン「ギィ・サヴォア」では唯一の日本酒としてリストに掲載されている。2015年、仏ブルゴーニュ、サン・ドニに醸造所を購入し、ワイン醸造も行うなど、イノベーティブな活動で注目を集める酒蔵だ。

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  • 文:柿本礼子
  • 写真:牧田健太郎