ピックアップシェフ

武田 健志 Liberte a Table de Takeda 固定観念に囚われないLiberte(自由)な料理で楽しませたい。

和のテイストを全面的に出し、オンリーワンを目指す。

ジャック&ローラン・プルセルから学んだ料理への自由なアプローチ。

フランスから帰国した後は、再び『レストランひらまつ』に復職し、丸ビルにある『Sens & Saveurs(サンス・エ・サヴール)』で、6年間勤務しました。2年ぶりの日本、私と同じようにフランス帰りの人も多く、料理人、スタッフのレベルが相当上がったと感じました。『Sens & Saveurs』では肉部門のシェフを皮切りに、全ての部門シェフを経験しました。またその間の半年、南仏モンペリエの『Le Jardin des Sens(ル・ ジャルダン・デ・サンス)』に出向させてもらい、双子のシェフ・ジャック氏とローラン・プルセル氏のもとで修業できたことは、とてもいい経験になりました。最初はあまり乗り気ではなく、2度目だったのでしぶしぶ行ったというのが正直なところでしたが(笑)、当時のジャックとローランはものすごく勢いがあり、様々なことを学ぶことができました。彼らの料理は自由すぎるほど自由、それに尽きますね。例えば、いまではもう普通の手法ですが、フルーツをソースに使うというのは当時とても斬新でした。クラシックなフランス料理にも「鴨のオレンジソース」など果物を使うものがありますが、それよりもっとピュアにダイレクトにフルーツを酸味として多用するんです。彼らは“シュクレ・サレ”=甘じょっぱい、が常にテーマ。それに加えて酸味もすごく重要なものだったので、その使い方はとても勉強になりました。実は自分の店をオープンする前、店名として考えていた二つの候補“リベルテ=自由”と“ユニック=唯一”をローランに打ち明け、どちらがいい? と聞いたら「リベルテがいいよ」と言われたので、それで店名に決めたんですよ。研修中はデシャップを任され、全ての料理の最後の仕上げを担当できたのは、とてもいい経験になりました。
その後再び『Sens & Saveurs』に戻り、31歳のときに退社しました。縁あって2009年より『Restaurant-I(レストラン アイ)』のオープニングから1年間シェフとして働いたのち、いよいよ独立に向けて動き始めました。

ジャック&ローラン・プルセルから学んだ料理への自由なアプローチ。

店に関する全てのことに“自由”が息づいている。

それまでは独立してオーナーシェフになることは、全く考えていない“選択”でした。決心したのは、まさに大きな人生の分岐点でしたね。しかしすぐにオープンできるわけもなく、2年間は店舗探しの日々。希望していた場所は日本橋か麻布十番でした。どちらも古き良き風情と、新しさがうまくミックスした町の個性が好きだったからです。その間、アルバイトをしたり、メニュー開発を請け負ったりしながらお金を貯め、様々な物件を見ましたが、全く見つかりません。もう無理なんだろうか、諦めようかと思っていた矢先に出会ったのが、ここです。最初にイメージしていた石と木の質感の店、という条件にもぴったりで、まさにビビッと来て、ひと目惚れでした。
2010年4月にオープンした『リベルテ・ア・ターブル・ド・タケダ』。最初の3カ月は予約もまばらで、いつつぶれるか、と毎日ドキドキでした。まぁ、当時の僕はまだ無名でしたし、宣伝もほとんどしていなかったですからね。正直、苦しかったですよ。やっと雑誌などに取り上げられるようになり、予約が増えてきました。それでもコース構成や値段は、現在とそれほど変わっていません。店名に“リベルテ”とつけたのは、店の全ての根本は“自由”でありたい、という気持ちがあります。フランス料理にカテゴライズされる中でも、自分らしくありたいし、カテゴリーに囚われたくない。とはいえ、自由って追求すればするほど、本当に難しいんですよ。食べた方に「どこが自由なんだ」と言われることもありますが、そういう感想も含めて自由、でいいじゃないかと思っています。オープンした年の年末に『ミシュラン』の星が付き、来てくださる方も増えましたが、星がついても料理に対する姿勢は、なんら変えることはなかったですね。たまたま軌道に乗った、と思っています。

店に関する全てのことに“自由”が息づいている。

「あの店のフレンチは面白いね」と言われる店を作りたい。

『リベルテ・ア・ターブル・ド・タケダ』は、今年3周年を迎えました。振り返れば、長くて早い時間、でしたね。もう少しこの店でやりたいこと、形にしたいことがあるので、それがちゃんとできたら、また次のステップに行くと思います。もう既にここでやっていることですが、料理に和のテイストを全面的に出したいと思っています。食材もフォアグラなどを除けば、野菜も肉も魚も全部日本のものを使っています。とくにうちの店で使うような西洋野菜の発展は目を見張るものがありますからね。味もクオリティの高さも世界に誇れるものですし、日本の農家さんはすごい、と頭が下がる思いです。
この店をオープンしたときから「和の要素が強い料理だ」という嬉しい評価をしていただきました。それが僕の個性、強みであるなら、もっと全面的に出すべきだ、と思うんですよね。日本人だけでなく海外からいらっしゃるゲストにも、「あの店のフレンチは面白いね」と言われる店を作りたい。つまりそれこそ“日本人らしさ”だと思うんですよ。例えば和風のだし、味噌や醤油などを使うと、日本人の方には「なんちゃってフレンチじゃないか」と言われる可能性はあります。そう言われても僕は別に構わない。そう叩かれても、言い続けたい。自分が一生かけて表現できること、そこを大事にしながら、自分に課せられたミッションとしてちゃんと形にしていきたい。それを信じてやっていけば、やらなくてはいけないことが形になるだろうし、逆に不必要なことは排除していくでしょう。どんどんシンプルになり、残った形がオンリーワンなものになれる、と考えています。自由で面白いフランス料理が食べたいとき、『リベルテ・ア・ターブル・ド・タケダ』に行こう、と望んでいただけるような店になれたら嬉しいですね。  (終)

「あの店のフレンチは面白いね」と言われる店を作りたい。

フレッシュなアスパラガスのうまさを味わう「柑橘香る ホワイトアスパラガスのコンフィ仕立て」。

これからおいしくなる旬のホワイトアスパラガスを使って、ご家庭でも本格的な味を楽しんでいただける一品をお教えしたいと思います。最近はスーパーでも手に入るようになったホワイトアスパガスに、柑橘系の風味とバターのリッチなコクを閉じ込める料理です。伝統的な手法だと、アスパラガスといえば卵黄がベースの「ソース・サバイヨン」などと一緒に食べるのが定番になりますが、これはその現代版ですね。アスパラガスをじっくリ湯せんにかけて真空調理の手法で加熱するので、定番のアスバラガス料理よりもずっと軽い仕上がりになり、サラダ感覚で食べられます。柑橘類はオレンジと柚子の皮を使いましたが、そのほか伊予かん、ポンカン、タンカンなどの柑橘でもおいしく作れます。ホワイトアスパラガスのしゃきっとした食感こそ、おいしさの秘訣なので、とろ火の湯せんでゆっくり熱を加えて調理するのが、いちばんのポイントです。グリーンアスパラガスでも同じようにできますが、長時間加熱すると緑色が抜けてしまうので、その場合は湯せん時間を短くしてください。
日本人にとってホワイトアスパラガスと言えば缶詰のものがなじみ深いかもしれないですが、最近は国産のものでも太く味が濃いものが出てきています。私も新人時代に初めて生のホワイトアスパラガスに出会い、そのおいししさに感動して以来、大好きな食材になりました。今回使ったものは輸入物ではなく、佐賀産のホワイトアスパラガスです。ぜひフレッシュなホワイトアスパラガスの魅力を、この料理で楽しんで欲しいと思います。

柑橘香る ホワイトアスパラガスのコンフィ仕立て

柑橘香る ホワイトアスパラガスのコンフィ仕立て

コツ・ポイント

ホワイトアスパラガスと澄ましバター、柑橘の皮を一緒に耐熱袋に入れて湯せんで密封調理します。アスパラの食感がおいしさの決め手なので、お湯の温度に気を付けながら、常にとろ火で加熱します。袋の中にお湯入らないよう、口はしっかりと密閉すること。

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