食材と生きる

青森県弘前市 オステリア エノテカ ダ・サスィーノ オーナーシェフ 笹森通彰

ピエモンテで見た景色を、弘前でも見られるように

イタリア修業時代に、ワイナリーが併設されているアグリツーリズモを見てきたこともあり、ワイン造りは自分の目標でした。

ワイン用ブドウの栽培は2006年に開始。野菜畑に続く15アールの畑では実験的に、欧州系品種のブドウ11種類を栽培し、適応品種を見つけていった。

▲ワイン用ブドウの栽培は2006年に開始。野菜畑に続く15アールの畑では実験的に、欧州系品種のブドウ11種類を栽培し、適応品種を見つけていった。

家の脇にあるブドウ畑は元々、田んぼだったところ。だから水はけはよろしくないですね。ここに2006年から数十本単位でブドウを植えていきました。ブドウの仕立ても分からないから、本を読みながら。手探りでした。今は、この畑から年間約300リットルのワインができています。ここには、世界的に代表的なワイン用の品種、カベルネ・ソーヴィニヨン、シラー、メルロー、ピノ・ノワール、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブランなどを植えました。イタリア品種ではバルベーラ、ネッビオーロ、サンジョベーゼ、マルヴァジア、トレッビアーノ。弘前でワイン用品種を栽培している人はいなかったので、どれが完熟まで行けるのか、病気に強いのか、まずはやってみないと分からない。3年目から少しずつブドウが採れるようになっていきました。でも日本には酒税法で年間最低生産量が決められていて、自分はその規準をクリアできそうにないと分かっていました。どうしようと思いながらも、ブドウを栽培したいという思いが先走った形でできた畑です。

列ごとに品種が違うんですが。樹間(じゅかん)もまちまちだし、作業効率が非常に悪い。ここは最終的にはなくすつもりです。

自宅の畑から歩いて3~4分のところ、田んぼの先に突如ブドウ畑が見える。2012年に土地を購入。広さは約1ヘクタール。すでに900本が植わっているが、まだ1/4しか植栽していないという。全部植えると、2,000リットル程度のワインができる予定。笹森さんは畑に立つと、少しだけ饒舌になる。

▲自宅の畑から歩いて3~4分のところ、田んぼの先に突如ブドウ畑が見える。2012年に土地を購入。広さは約1ヘクタール。すでに900本が植わっているが、まだ1/4しか植栽していないという。全部植えると、2,000リットル程度のワインができる予定。笹森さんは畑に立つと、少しだけ饒舌になる。

先ほどの実験畑(家の脇の畑)で試したことをふまえ、新しい畑を作りました。今はネッビオーロが700本、シャルドネが200本植わっています。樹間も今度はきっちり揃っているでしょう。ネッビオーロはこの辺りではいい出来なんです。

シャルドネを植えたのはスパークリングワインを造りたいから。ピエモンテに行ったとき、ネッビオーロを植えている人はシャルドネも植えていた。ならば、ここでもシャルドネは行けるのではと期待しています。バルベーラも今後植えたいですね。

周りが田んぼということで分かるように、ここも自分が買い取る前は田んぼでした。だから水はけが非常に悪いんです。実験畑の教訓を生かして、ここには地中に排水パイプを入れています。これをしないと、降水量が多いときには痛い目に遭います。収穫前に降ると、水はけが悪いからブドウが膨れてしまう。地面が乾きにくいとカビや病気もつきやすいのです。

水はけのよい斜面があれば、それに越したことはなかったのでしょうが、自分には「移動距離の短さ」が何よりも大事でした。自宅と店の距離は車で10分。往復だと20分かかります。毎日の20分が、実は惜しい。これだけ時間があれば、あれもこれもできる……って。自分の中で、徐々に農業のウエイトが大きくなっていて、“畑”寄りになっているんです。

ワインも自家製100%を目指したい

ワイナリーは自宅を改装。元々は座敷だった空間だ。熟成庫は作業場を兼ねる。「笹森」の焼きごては、納屋を整理しているときに出てきたもの。これをコルクに焼き付け、栓をする。醸造用のステンレスタンクは調理用寸胴鍋で代用。コンパクトでシンプルな醸造所だ。

▲ワイナリーは自宅を改装。元々は座敷だった空間だ。熟成庫は作業場を兼ねる。「笹森」の焼きごては、納屋を整理しているときに出てきたもの。これをコルクに焼き付け、栓をする。醸造用のステンレスタンクは調理用寸胴鍋で代用。コンパクトでシンプルな醸造所だ。

ここは30年前に我々家族が住んでいた家を改造したところ。作業場と熟成室の2カ所がワイナリーの全てです。今は2013年のネッビオーロが熟成中です。タンクは寸胴鍋、瓶詰めをする際には透明チューブを使って、瓶に移します。プレス機もコルク打ちも、手動のシンプルなもの。ラベルはスティックのりで1枚ずつ手貼りです。

ワイン醸造への夢はありましたが、ワイナリーで修業をしたり、教育機関で学んだりはしていません。醸造免許が降りる前に、山梨大学のワイン研究室の先生にアドバイザーとして数回来てもらって、基礎中の基礎や、税務署への申請方法などを教えてもらったくらいです。チーズ作りもそうでしたが、自分はこういうのを全て本から学んでいます。だから、ワイン醸造は全然まだまだ。添加する亜硫酸の量も方法も知らない中でのスタートでした。

先にも触れましたが、ワインを醸造し、販売するには、最低生産量以上を造らなければなりません。規制緩和でできた「ワイン特区」でも、最低醸造量は年2,000?以上。当時の自分にとっては、到底できる量ではありませんでした。

そんなときに新聞か何かで「どぶろく特区」について知ったのです。これですと生産量の縛りはありません。そこで弘前市役所に、これをワインにも適用できないものかお願いに行きました。

この「ハウスワイン特区」の規定は、量の制限はない代わりに、全て自分の栽培した果物を使い、自分の醸造所で酒にし、自分の経営するレストランや民宿でのみ販売できるという内容です。弘前市では、自分が初めて適用してもらいました。

新しい畑を購入したので、いずれ年間2,000リットルの、通常のワイン特区でクリアできる量を造れるようになります。そうなると一般に販売もできますが、自分が畑を増やした理由は販売が目的ではなくて、レストランのワインを100パーセント自家製にしたいからです。ワインメーカーならば、自分の店のワインは、泡も、白も、赤も、自分が造ったワインで揃えたいですね。

「ダ・サスィーノ」では、チーズもハムも全て自家製。2010年、市内に「ピッツェリア ダ・サスィーノ」を作り、2階をチーズ工房にしました。

ワインも同じようにありたいのです。

理想はコップでガブガブ飲むスタイル。リストランテでは不向きかもしれませんが、ピッツェリアや食堂ならば圧倒的にカラフェとコップが似合いますよね。

次の10年は、もっと畑に近づきたい

次の10年は、もっと畑に近づきたい

今、自分の生活はかなり畑の比重が高まっています。いずれ畑が中心になったら、「ダ・サスィーノ」を週末だけ営業するとか、畑の隣にある自宅を改造して小さな食堂をつくるとかいうスタイルがいいかなと。かっちりとしたリストランテのスタイルは、10年間やってきて一応はできたかなというか、ちょっと飽きてきて(笑)、もういいかなと。

子どもが生まれたというのも大きいでしょうね。しっかりしたものを食べさせてあげたいという気持ちも強くなりました。

食堂のイメージとしては、お客さんがきたらグラスにスプマンテを注いで、畑を見ながら料理を決めるスタイル。畑のルーコラやトマトをもいでサラダを作ったり、パスタソースを作ったり、なんていいでしょう。注文をもらってから畑で考える、そういうのが好きなんです。

作る料理は、この10年間でぐっとシンプルになりました。手の込んだ料理より、例えばカプレーゼとか、メインは馬肉のTボーンの炭火焼などに魅力を感じます。カジュアルにしたいわけではなくて、素材の力強さをそのまま生かしたいという気持ちが強くなっているのでしょうね。これからの10年間では、その方向を追求していくことになるでしょう。 (終)

シンプル極うまティラミス

シンプル極うまティラミス

コツ・ポイント

自分が飼っている烏骨鶏の卵を使ったティラミスは、「ダ・サスィーノ」の定番デザートです。これをお子さんと一緒でも作れる、簡単でおいしいティラミスにアレンジしました。コツはスポンジケーキを器のサイズより一回り大きめにカットすることと、冷蔵庫でしっかり冷やすこと、この2点です。

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オステリア エノテカ ダ・サスィーノ

オステリア エノテカ ダ・サスィーノ

〒036-8203

青森県弘前市本町56-8 グレイス本町2F

TEL 0172-33-8299

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  • 文:柿本礼子
  • 写真:牧田健太郎