シェフごはんコラム

素朴ながらどこか懐かしい「基本のポルトガル料理」

ユーラシア大陸最西端の国、ポルトガル。大西洋に面し、8世紀から800年にわたってイスラーム支配を受け、その後、海上帝国としてスペインと世界を二分するほどの強大な勢力を誇っていました。その大航海時代に世界中の植民地から集められた多種多様な食材と、伝統的に食べられてきた海産物やオリーブオイルなどの食材、キリスト教文化が影響し合いながら育まれてきたのがポルトガル料理です。複雑かと思いきや、歴史とは相反して、それは至ってシンプル。今回は「ヴィラモウラ赤坂サカス店」池田富夫シェフに、食材の味を生かしたやさしさが日本人の口に合う、現地で学んだポルトガル料理を教えていただきました。

魚介カタプラーナ

魚介カタプラーナ

ポルトガル最南部のアルガルヴェ地方に伝わる“カタプラーナ”という鍋を使った名物料理。この鍋、ただの鍋ではなく、独特のドーム型を合わせた銅鍋で、ふたをして密閉状態にすることで、少ない水分で食材の旨味を逃さず蒸しあげる魔法の鍋。食材の旨味がそのまま味になるので、魚介類は複数種類をミックスして、味に奥行きをもたせましょう。カタプラーナがない場合には、原理と調理法、歴史的背景から異母兄弟と言える“タジン”鍋を使ってもいいでしょう。それもなければしっかりと密閉できる蓋付きの鍋を。鍋ごと食卓に出せば、おもてなしの一品に。

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バカリャウ・ア・ブラーシュ(塩ダラのスクランブルエッグ)

バカリャウ・ア・ブラーシュ(塩ダラのスクランブルエッグ)

ポルトガルでもっとも食べられているといっても過言ではない食材が、このバカリャウ。塩漬けにしたタラを乾燥させたもので、冷凍技術が発明される以前の中世の頃から現在に至るまで、保存食として重宝されています。バカリャウ料理のレシピなら、どんな家庭でも365日分レシピがある、と言われるほど。なかでももっともポピュラーなのが、この卵炒め。バカリャウの塩味とだしが味のベースになるので、塩を抜きすぎないように戻すことが肝心です。約8時間ごとに身をつまんで、塩加減をみながら水を替えるといいでしょう。卵を入れたら手早く、ふわとろに仕上げます。

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パォン・デ・ロー(ポルトガル菓子 半熟カステラ)

パォン・デ・ロー(ポルトガル菓子 半熟カステラ)

ポルトガル北部発祥の伝統菓子で、日本のカステラの原型といわれています。修道院の尼僧によって作られていたもので、16世紀の文献にもレシピが残る歴史深い焼き菓子です。現在はポルトガル全土で親しまれていますが、16世紀当時は卵も砂糖も貴重なものだったので、ハレの日の特別なお菓子とされていたそう。日本のカステラとは違い、丸い型で半熟に焼き上げます。卵は卵黄を多めに使い、しっかりと泡立てます。カソナードはさとうきび100%のブラウンシュガーのこと。はちみつも加わってコクのある甘味に仕上がります。ふわふわの食感がポイントなので、焼きすぎないようにご注意を。

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世界の海をまたにかけてきたポルトガル。ヨーロッパで日本に最初に足を踏み入れたのもポルトガル人でした。ゆえに、かつての植民地だけでなくポルトガル人が関わったさまざまな国々で、ポルトガル料理の影響が見られます。初めての味だけどなぜか懐かしく感じるのは、そんな歴史があるからかもしれませんね。  

文:一杉さゆり
写真:平瀬夏彦

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