シェフごはんコラム

野菜だけなのに、この美味しさ!「基本の精進料理」

はるか古の飛鳥時代、仏教とともに伝来した精進料理。それは、仏教の戒律に基づき動物性の食材を禁忌とし、野菜や豆類、穀物など植物性の食材を調理していただくもの。本来は、僧侶のための食事でしたが、仏教が広まるにつれて料理店や一般家庭にも浸透。野菜や豆類といったごく淡白な食材を、いかに飽きずにおいしく調理するか……そのために重ねられた工夫は、日本料理の発展にも大きな影響を与えてきました。そんな精進料理をより高みへ導くために日夜邁進する「shojin 宗胡」野村 大輔シェフに、新感覚の精進料理のレシピを教えていただきました。

玉葱ステーキ

玉葱ステーキ

まるで洋食!という声が聞こえてきそうな美しい一皿。本来、精進料理では五葷(玉ねぎ、ねぎ、ニラ、にんにくなどのネギ科ネギ属の野菜)は避けるべき食材とされていますが、旬の食材をありがたくいただく、という意味で新玉ねぎは欠かせない食材。一度蒸してから焼きつけることで、甘味と香ばしさの絶妙なバランスが楽しめます。また、これまでの精進料理には使われてこなかったバルサミコ酢を使うことで、ソースにコクをプラス。国を問わずさまざまな食材を取り入れた結果生まれた、従来の精進料理のイメージをいい意味で裏切る一品です。

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胡麻酢和え

胡麻酢和え

練り胡麻を使った胡麻酢は、濃厚なコクがありながら後味はさっぱり。淡白な味の野菜でもしっかりと満足感が得られます。特筆すべきは野菜それぞれに対する丁寧な下ごしらえ。きゅうりは種をとってしっかり水気を切る、椎茸は香ばしく焼く、カリフラワーは下茹でして水にとらずにザルにあげておく、こうした手間を惜しみなくかけることも精進料理の特長のひとつ。大根の「剣」とは、大根をかつらむきにしてから極千切りにしたもののことを言います。

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イチジクのみぞれあん

イチジクのみぞれあん

「果物を天ぷらに?」と驚かれるかもしれませんが、イチジクは、デザートだけでなく和え物や蒸し物など、和食では珍しい食材ではありません。揚げることによって、余分な水分や酸味が飛び、甘味がギュギュッと凝縮。その甘さをみぞれあんが優しく包み、繊細ながら絶妙な甘じょっぱさを楽しめます。カリッとした衣と、ジューシーな果肉との食感の違いも心地よく、ぜひ、揚げたて和えたてを味わいたい一品。イチジクは生でも食べられるので、中まで火を通す必要なし。揚げものが苦手な人でも挑戦しやすいこともうれしいポイントです。

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食材をありがたくいただき、その恵みに感謝すること。食材だけでなく道具へも愛情を込めて扱い、手間と工夫を惜しまないこと。そして食べる相手を思いやる心配り。「食」に対する心構えは、精進料理がいかに進化しようとも変わらないもの。そんな思いも込めて作り、野菜のおいしさを楽しんでくださいね。  

文:一杉さゆり
写真:平瀬夏彦

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