理をはかる

岸本直人 / ランベリー ナオト キシモト 『栗』についての理

食材は、適した調理法によって最大のおいしさを発揮します。プロの仕事に学ぶ、基本の理(ことわり)。

素材が育ってきた風土、その情景を描き、エッセンスを極限まで引き出す美しいひと皿。渋谷「ラ・ロシェル」坂井宏行氏に師事し、現地フランスの名店で研鑽を積んできた岸本直人シェフの料理は、並々ならぬ努力に裏づけされた味と香り、感動があります。ミシュランガイド東京では2008年の初版から連続で星を獲得し続け、名実ともに優れた人気店が今回の舞台。食材と真摯に向き合い、多彩な手法で本来の風味を表現する岸本シェフに、教えていただく素材はなんと「栗」。10~11月、季節の味を目当てに訪れるゲストも多いという栗料理には、さまざまなテクニックが隠されていました。

栗は、異なる手法を組み合わせて味を組み立てます

調理法1. 栗料理を楽しむシーンを考える

白ワインとバターで甘酸っぱいソースに

POINT.1 -白ワインとバターで甘酸っぱいソースに

料理を作るときは、食べるときのシチュエーションを思い浮かべ、どんな味と装いのひと皿がよいか考えていきます。そこで今回は、白ワインとともに楽しめるメインに行く前の一品として「フリカッセ」を。そうなると、ソースは白ワインをベースとしたものが合いますね。秋から冬は、しっかりしていて甘酸っぱいロワール産のワインを料理に使います。これを煮詰めて風味を濃縮させたらバターを少しずつ加えて溶かし、なめらかに。バターを加えることでリッチな味わいになります。

蒸して揚げることで、栗の味を膨らませる

POINT.2 -蒸して揚げることで、栗の味を膨らませる

栗は入荷したら冷蔵庫に3~4日入れておくと甘みが増します。それを蒸すことで、さらに甘みをアップ。蒸したら熱いうちにむいて素揚げします。190度で香ばしく揚げ、すぐにソースの鍋へ入れて手早く絡めるのがポイント。揚げて熱々になった栗の表面にソースがジュッと吸いついてキャラメリゼされ、その香ばしさの中に栗のほっこりとした甘みが充満します。蒸しただけだと味がぼんやりしてしまいますが、揚げることで味が幾重にも広がり、甘さを引き立ててくれます。

栗のフリカッセ

栗のフリカッセ

コツ・ポイント

生栗は冷蔵庫に3~4日入れておくと甘みが増します。それを蒸して甘さを補強し、素揚げして白ワインとバターの甘酸っぱいソースで絡めます。すると栗の表面がキャラメリゼされ、香ばしさの中に栗のほっこりとした甘みが充満。揚げることで栗の風味が幾重にも広がり、甘さを引き立ててくれます。

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調理法2. 生、蒸し、揚げ、ペーストの栗を重ねる

それぞれのニュアンスを引き出す

POINT.1 -それぞれのニュアンスを引き出す

生のままだと少しモヤっとしてぼやけた味の栗を、どうやっておいしいスープにするか。地味な食材ほどやりがいがあります。栗の個性を余すことなく引き出すには、単に茹でたり蒸したりするだけでは難しい。生には生の、蒸しには蒸しの栗の風味があり、それぞれの役割を合わせることで、口に含んだときに“栗”を全身で感じられるような味が完成します。まず、甘さは控えめだけど旬ならではの風味がある生栗を玉ねぎと炒め、ブイヨンを加えて柔らかく炊いたら、蒸すことで甘みを増した栗を加えます。蒸し栗の役割は甘みの補強です。

加える順番とタイミングが大事

POINT.2 -加える順番とタイミングが大事

次に蒸し栗を高温で素揚げして加えます。揚がったらすぐに鍋に入れて香りを封じ込める。ここで香ばしさも加わります。最後にパテ・ド・マロン(栗のペースト)を溶かしてコクを出します。煮詰まっているようであれば水で調整してください。栗の個性を消さないのは水ですから。すべて煮えたらミキサーにかけ、ブイヨンや生クリームで濃度やとろみを調整し、塩と黒胡椒で味を決めます。黒胡椒はしっかりきかせて味を引き締めて。栗の火入れ方法、その加える順番とタイミングが噛み合って、栗そのもの以上の味が完成します。

栗拾いと栗のポタージュ

栗拾いと栗のポタージュ

コツ・ポイント

旬ならではの風味をもたらす生栗、甘みを補強する蒸し栗、香りを封じ込めた揚げ栗、コクを増すパテ・ド・マロン(栗のペースト)をひと鍋に重ねて、栗の個性を調和します。栗の火入れ方法、その加える順番とタイミングが噛み合うことで、本来の栗以上の香りと味が完成します。

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見えない調整や知識の積み重ねで、素材以上の味を

見えない調整や知識の積み重ねで、素材以上の味を

毎年10月になると、茨城から旬の栗が届きます。粒が大きくしっかりしていて味も濃厚。ご紹介したフリカッセを目当てにいらっしゃるお客様も多いですね。今回のフリカッセはトリュフの風味をプラスしましたが、サーモンの燻製や香ばしく焼いたベーコンもよく合います。黒胡椒をきかせるとおいしいので是非試してみてください。

「栗」そのものは、茹でたり蒸したりしてもまだ味がぼやけています。でも、蒸し栗や揚げ栗を組み合わせることで個性が重なり、存在感のある味になります。調理の過程自体は見えなくても、料理という結果に表れる。ポタージュは生、蒸し、揚げ、ペーストの4つの栗を合わせていますが、できあがりを見て4種類入れていると気づく人はそういないでしょう。一つひとつのテクニックは決して奇抜なことではない、けれど見えない調整や知識の積み重ねが素材以上の味を引き出すことに繋がります。栗のポタージュの場合は、火入れ方法、加えていく順番、タイミングが噛み合うことで「これぞ栗!」と感じさせる個性が折り重なった深い味ができあがります。

栗のシーズンは、ランベリーのクグロフも栗バージョンになりますよ。これは本当に人気で、和三盆との相性もとてもいい。ぜひ季節の味覚を味わいにいらしてください。

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  • 文:須永久美
  • 写真:キッチンミノル