理をはかる

柿沼進 / 聖林館 『ピッツァ』についての理

食材は、適した調理法によって最大のおいしさを発揮します。プロの仕事に学ぶ、基本の理(ことわり)。

約30年前、ナポリで初めて食べたとき「どこか懐かしく感じた」というピッツァ。その味を独学で編み出した柿沼さんのマルゲリータとマリナーラは、私たち日本人に感動を与え、いつしか中目黒はピッツァの聖地といわれるまでになりました。「SAVOY」から「聖林館」へと名前を変えた後も、音楽への愛と味への探究心は色あせることなく、居心地よい店内で幸せの1枚を提供し続けてくれます。今回の食材はなんと、その「ピッツァ」。生地の作り方から冷凍でも楽しめる方法まで、惜しみなく教えてくださいました。必見です!

ピッツァは、常温に戻すことでおいしく焼き上がります

調理法1.生地:しっかり捏ねて冷蔵庫で発酵、常温に戻して焼く

30分以上かけて、やさしく捏ねる

POINT.1 -30分以上かけて、やさしく捏ねる

粉に塩を合わせ、生イーストを溶かした水を混ぜていきます。ひとまとめになり、ボウルの内側に粉がつかなくなったら台に出して捏ねましょう。親指と手の平をやさしく押し当てながら回す感覚で、伸ばしてはまとめる作業を繰り返します。疲れたら休んでOK(生地が乾かないように濡れ布巾をかぶせて)。休み休みでいいので、合計30分以上は捏ねてください。生地がなめらかになり弾力が出たら小分けにし、濡れ布巾をかけて冷蔵庫で1日発酵させます。

発酵後、焼く1時間前に常温に戻す

POINT.2 -発酵後、焼く1時間前に常温に戻す

発酵中、濡れ布巾は生地に直接触れないように。巻きすをかけて、その上に布巾をのせるといいでしょう。生地が膨らむためには空気が必要なのでラップはしません。布巾はたまに見て、濡れている状態をキープすること。1日寝かせて膨らんだら、焼く1時間前に冷蔵庫から出します。これは生地をやわらかくするため。常温に戻すか戻さないかで、火の通り方(=焼き上がり)が変わります。柔らかくなったら打ち粉をして生地を平たくし、片手で生地の真ん中を押さえつつ、もう一方で引っ張りながら生地を回して、円形に広げます。

ピッツァ生地

ピッツァ生地

コツ・ポイント

休み休みでいいので、生地は合計30分以上かけて捏ねてください。表面がなめらかになり弾力が出たら小分けにして、濡れ布巾をかけて冷蔵庫で1日発酵させます。焼く1時間前に冷蔵庫から出し、生地がやわらかくなったら打ち粉をして、平たい円形に成型しましょう。

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調理法2. 焼く:具をのせたらすぐに高温で焼く。冷凍法にも秘訣あり!

できるだけ高温で、全体を焼き上げる

POINT.1 -できるだけ高温で、全体を焼き上げる

生地を広げたらすぐに具をトッピング。トマトは最後にのせると、香ばしく焼き上がっておいしいです。焼成はオーブントースターで十分。いちばん高い温度に設定してください(今回は280℃)。生地が柔らかいので、最初はフォークなどで穴を開けたアルミ箔にのせて焼きます。穴を開けるのは、下からもしっかり熱を入れるため。途中下側がかたくなったらアルミ箔を外し、全体に焼き色が付くまでカリッと香ばしく焼きましょう。

冷凍ピッツァは、焼く前に必ず常温に

POINT.2 -冷凍ピッツァは、焼く前に必ず常温に

すぐに全部食べられないときは、焼いたあとそのまま冷まし、ぴっちりラップをして冷凍保存できます(日持ちはしますが、できるだけ早く食べることをおすすめ)。食べるときは焼く前に必ず常温に戻すこと。これも火の通りを均一にするためです。常温に戻ったらラップを外し、オーブントースターの高温で数分、温まるまで焼けばOKです。戻すことで生地のふんわり感が復活し、短時間の焼成でカリッとおいしく仕上がるのです。

マルゲリータ

マルゲリータ

コツ・ポイント

生地を広げたらすぐにモッツァレラ、バジル、トマトを散らし、穴を開けたアルミ箔にのせて最高温度に設定したオーブントースターへ。途中下側がかたくなったらアルミ箔を外し、全体がカリッとなるまで焼きあげます。冷ました後ラップして冷凍保存もOK(食べるときは常温に戻してから焼きます)。

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常に進化し続けることで、「変わらぬおいしさ」が生まれます

常に進化し続けることで、「変わらぬおいしさ」が生まれます

うちのピッツァは20年前からマルゲリータとマリナーラの2種類。天気が毎日変わるように粉のコンディションや水の温度も変化するので、状態を鑑みながら日々生地と向き合っています。材料だけじゃなくて、その時代が求める味覚、おいしさも追求していて。2種類であることは変わらないけれど、実は少しずつ内容は進化しています

この間、10年振りに来店してくださったお客様がいて「まったく変わってなくておいしい」と言ってくださった。うれしかったです。10年の間、いろいろな味を経験されて前より舌が肥えているはずですよね。同じく、僕も進化することを絶えず実行してきたから、「おいしい」というまるで変わっていないような感動を与えられた。成長がなければ生まれない言葉だと感じたのです。

うちの生地は至ってシンプル、今回ご紹介した材料の配合は店と同じです。粉は新鮮なもの、塩はできれば自然塩がいいですね。いちばん大事なのは、捏ねる時間。これが生地のおいしさを左右します。店では1時間半捏ねています。もうひとつ、震災の時に思い当たったことがありまして。いつでも温かいものを食べてほしいと考えたら、冷凍してもいいんじゃないかと。焼いて、一度寝かせた生地も結構おいしいんですよ。ポイントは焼く前に常温に戻すこと。これは、市販の冷凍ピッツァも同じです。生地が柔らかくなってから、全体をカリッと香ばしく焼いてください。焼きたてのおいしさは、格別です。

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  • 文:須永久美
  • 写真:キッチンミノル