名店のまかないレシピ

山田耕之亮 / 玉ひで たっぷり吸ったつゆのうまさ 鳥ひき肉・焼き豆腐・白滝のどんぶり

日本橋人形町の、お昼時に行列が絶えない名店といえばここ。「親子丼」発祥の店と知られる鳥料理「玉ひで」です。創業の宝暦10年(1760年)以来、250年以上続く伝統の味と技を守りながら、支店オープンや新店開発など時代に合った革新に挑み続けるのが八代目主人、山田耕之亮さん。「まかない」に対しては、江戸時代から続く老舗の主人ならではの信条があるそうです。

まかないは料理人が作っちゃいけない

まかないは料理人が作っちゃいけない

ごめんね、最初にいきなり言っちゃうよ。まかないは料理人が作っちゃいけない。「若手の修業のためにまかないを作らせる」という店が多いみたいだけど、うちはそんなことはしない。驚きますか?でも、考えてみればわかります。

なぜなら、料理人の仕事は、お客様にお金を払って食べていただく料理を作ること。修業するならば、お客様にお出しする料理の腕を磨くべきであって、自分たちが食べる料理の練習をしてもしょうがない。お金をいただく料理と、タダで食べさせる料理とじゃ、気持ちの入り方がやっぱり違う。違うどころか、料理人としての自覚が薄れる、と私は思うんです。いい職人を育てようと思ったら、店の料理づくりに徹してもらわなきゃ。

ついでに言うと、「まかない」ってのは関西の言葉で、東京では自分たちで食べる食事のことは「お惣菜」って言ってきたんだよね。「まかない」というと、「まかない婦」に作ってもらう食事のことで、自分たちが作って食べる料理は「お惣菜」って言うんだ。お客様にお出しする料理を作る人、料理人が食べる料理を作る人っていうのが、本来は完全に分かれていたということ。うちの店でも小さい頃からずっと「お惣菜」って聞かされてきた。まぁ、今日は「まかない」というコーナーの企画らしいから「まかない」と言うけれど。江戸時代の武家社会から続く言葉は「お惣菜」なんだって知っていてほしいですね。

もうひとつ、「店の食材の余り物をまかないに回す」っていう習慣はうちにはないね。なぜって、「余ったら自分たちの食事に」という前提があると、いい食材を余計に残す意識がどうしても働いてしまいませんか。倹約しているつもりが、かえって逆効果になるんです。一流の料理人であれば、「お客様にお出しするいい食材を、お客様のためだけに余すところなく使い切る技を磨く」というのが本流だと私は思う。

いい食材をいかに使い切るか。これは、鳥だけで勝負してきた「玉ひで」の哲学にも通じることです。例えば、お客様にお出ししているスープ。これはあえて鳥と塩だけで作っています。鳥以外に野菜や他の食材を混ぜたほうが複雑なうまみが出てうまいに決まっている。でも、それならば他の店で飲める。うちはあえて鳥だけで勝負しよう。私の代からそう決めたんです。

味見はせずに、評価は委ねる

味見はせずに、評価は委ねる

ということで、うちの店ではお客様に出す食材には手を出さないし、若手の料理人にまかないを作らせていない。じゃ、誰が作るのかって?普段は、私の知り合いの弁当屋に頼んで作ってもらっています。専門の人に外注しているんです。そしてたまにだけど、私が作る。下っ端じゃなくて、あくまで主人が作るということね。多い時期には月に2、3回作っていた頃もありましたよ。一度に大勢の分を作りやすい煮込み料理とか、ちょっと試してみたい実験的な料理を作ることが多いかなぁ。水と油を一切使わない野菜炒めを作ってみたりとか、圧力鍋など使う道具の具合を確かめたりね。

今日は久しぶりに作ってみたけど、店のみんなにも好評でよかった。普段はやんないんだけど、あえて店の残り物で挑戦してみましたよ(笑)。

味見は一切しない主義。だって、料理人の仕事は作ること。食べてみて、うまいかまずいか判断するのは、食べる人に委ねるものだと思っているからさ。自分で作ったんだから、自分の好みの味に決まっている。

確かな腕を磨いて、評価は食べていただいた人に委ねる。そして、必ず「おいしい」という言葉をいただく。それがプロの料理人が目指すべき道だと思っています。

鳥ひき肉・焼き豆腐・白滝のどんぶり と 手羽の時雨煮

鳥ひき肉・焼き豆腐・白滝のどんぶり と 手羽の時雨煮

コツ・ポイント

鳥ひき肉・焼き豆腐・白滝のどんぶりは、3つの食材を一緒に煮るのではなく1つずつ順番に煮て味を含ませる。しょうゆとみりんは1対1が黄金律。好みで豆板醤、ごま油でアクセントを。

手羽の時雨煮は、お店で出しているスープを取った後の手羽を利用。手羽の身をほぐし、生姜・ねぎとともにたれで煮る。

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  • 文:宮本恵理子
  • 写真:平瀬夏彦