名店のまかないレシピ

茂出木浩司 / たいめいけん 酸味と甘みとコクの トマト麻婆豆腐

東京・日本橋に昭和6年に創業して親から子へと伝承され、守られてきた「日本人のための洋食」。ランチタイムに行列が絶えない、時代を超えて人気を誇る名店が「たいめいけん」です。テレビ出演も多くお茶の間でも親しまれる三代目・茂出木浩司シェフは、自ら腕をふるってまかないを作る日もよくあるのだとか。陽気な笑顔の奥に秘められた、料理人としての哲学も語ってくださいました。

ご飯に合う甘みと塩みのさじ加減

ご飯に合う甘みと塩みのさじ加減

まかないは店のみんなが元気に働いてくれるための活力の源になるから、ちゃんと栄養のあるものであることが第一。でも、あまり重たいものだと動きが鈍くなってしまうからね。特に昼の15時頃に食べるまかないは、適度に軽いものがいいと思っています。

今日のまかないはまさにそんな献立で、トマトの麻婆豆腐。麻婆豆腐といってもトマトベースで甘みとコクを引き出しているから、辛くないんですよ。個人的にもヘルシーでダイエットにもいい豆腐料理が好きなんです。

こだわっているのは味付けのさじ加減ですね。たいめいけんの歴史を遡っていっても、“甘みと塩みのバランス”をいかにお客さんの舌やトレンドに合わせていくかというのが永遠のテーマなんですよ。僕が子どもの頃は甘さが高級感の象徴だったから、今よりうんと味付けは甘かった。それがだんだんと甘くなくなって、また振り戻しがあって・・・と、微妙に変化してきました。

変わらない軸として代々守ってきたのは「日本人が好きなご飯に合う洋食」であるということ。今はフレンチもよりシンプルな味付けや盛り付けにするのがトレンドで、和食に近くなっていますね。だったら、洋食を食べにくるお客さんは分かりやすい“こってり感”を求めるのかなと思ったりね。今の時代にとってベストな味は常に模索しています。

いろんな味付けを試してみる機会として、まかないを作っている部分はあるかもしれないですね。テレビ出演の機会も多いので、レパートリーを増やしたいという“ネタ作り”も兼ねてね(笑)。だってやっぱり食べた人に喜んでもらいたいから。最近も、沖縄のアグー豚だけを使ったハンバーグとか試作しましたよ。

若手にまかないを任せる時は、トレーニングの場として真剣に作るように言っています。コロッケを上手に揚げるようになるのも回数がものをいいますからね。半年くらいオムライスが続いたこともありましたっけ。

食べた人の心に残る感動ある料理を

食べた人の心に残る感動ある料理を

店にいる時は基本的にみんなと一緒にまかないをいただきます。ケチをつけるのが好きなんで(笑)。いや、本当に。僕自身があまり褒められて育ってこなかったんで、人を褒めるのが苦手なんですよ。

初代、二代目が丁寧に味を守って信頼を獲得してきた味を受け継いで三代目になったのが27歳の時。当時は「大丈夫かよ」って小突かれながらやってきましたけれど、なぜか僕のことを大事に守ってくれる人たちがいたから今の僕があるんです。本当に感謝しかないですね。

料理人って芸術家だと僕は思っていて、つまり、いかに感動を与えられるかという存在。でも、音楽は心に残るけれど、料理はなかなか心に残らないでしょう。残ることもありますか?もしそうだとしたら、そういう料理を目指したいなと思っているんです。僕、生意気に見えて、意外と謙虚でしょう(笑)。

トマト麻婆豆腐 と マッシュルームとにんにくのスープ

トマト麻婆豆腐 と マッシュルームとにんにくのスープ

コツ・ポイント

トマト麻婆豆腐は、はちみつと砂糖を加えることで、さっと煮るだけでもトマトの酸味が抑えられてコクも出る。

マッシュルームとにんにくのスープは、にんにくで香りと風味を出すのがポイント。色のアクセントには、肉厚で皮が主張するパプリカではなく赤と緑のピーマンを使うことで、全体の食感がまとまる。

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  • 文:宮本恵理子
  • 写真:平瀬夏彦