名店のまかないレシピ

吉野建 / レストラン タテルヨシノ 銀座 フランス修行時代思い出の 鶏のトマト煮バスク風

銀座の中心地のビル12階。吹き抜けを活かした“都心の空中レストラン”のような贅沢な空間の中で、「大地(テロワ)の料理」をコンセプトにした華麗かつ力強い料理を提供する「レストラン タテルヨシノ 銀座」。都内3店舗の総料理長を務めるほか、香川県直島のベネッセハウス内テラスレストラン「海の星 Etoile de la mer」の監修に携わるのが吉野建シェフ。2度の渡仏経験でフランス料理を追求し、97年にパリ8区に開店した「ステラ マリス」は、現地のミシュランガイドで星を獲得するなど、日本人フレンチシェフのパイオニア的存在です。本日のまかないは、フランス時代の思い出にも縁のある一皿なのだとか。

昔は、まかないに和食は禁止、醤油も使わないようにしていた

昔は、まかないに和食は禁止、醤油も使わないようにしていた

まかないと言えば、思い出すのはフランスの修業時代だね。「アルケストラート」「トロアグロ」「ジャマン」といった店でやってきたけれど、当然、僕もまかないを任されることがありましたよ。フランスの名店となればスタッフの数も多いから、40人分くらい作ってね。前菜とメイン、ソースも担当して、それは大変だった。今振り返ると、まかないを作る時間というのは気の抜けない修業であったし、「食べる人に喜んでもらうために」という姿勢が磨かれた時間でもあったと思うね。今日のまかないの献立「鶏のトマト煮バスク風」というのは、現地でもよく作った郷土料理なんですよ。

ここ、銀座の店のまかないを出しているのは、1日1回16時半頃。手の空いたスタッフから順次食べていくのが基本で、タイミングが合えば全員で一斉にということもあるね。昔は僕も皆と一緒の献立を食べていたんだけど、最近は、健康に気をつけて、僕だけ別の料理にしてもらうことが多くなったね。だって、若い連中はカロリーをしっかり摂れるものを食べたいだろうからね。好きなものを作りなさいって任せています。帰国直後の頃は「フランス料理店なんだから、まかないでも和食は禁止だ」なんて言ってね、醤油も使わないようにしていたけれど、今はもう自由にやっているね。

一流の料理人は、健康・素直・笑顔を守れ

一流の料理人は、健康・素直・笑顔を守れ

僕の定番メニュー? 「オニオンスライス」かな。タマネギは血液サラサラ効果があるというから、積極的に食べているんですよ。

やっぱりね、料理人としていつまでも進化をし続けるために大事なのは、何はなくとも「健康」。そして、「素直」と「笑顔」! この3つだね。日ごろから、スタッフによく言っているんですよ。

まず、自分自身が健康でなければ、いい仕事はできないし、人生そのものも充実しない。一流の味を作るには、心身を健康に保って、恋愛をしたり、趣味に打ち込んだりして“自然の生活をまっとうする”ということがとても大事だと僕は思うね。だから、僕自身も健康には人一倍気を使うし、スタッフにも「健康第一だぞ」とよく言う。お客さんに対しても、がんの治療中とか産前産後の方にはヤギのスープを薦めたりね。高級食材よりも、自然の力を宿す食材こそ食べてもらいたいという思いはずっと変わらないし、うちの店の料理の根幹であり続けていますよ。

次に、素直であること。素直な姿勢は、一つの道を長くやっていくうえで欠かせないと思うね。たとえ失敗したとしても、素直に反省して、次に進もうとすれば、必ず成長できるものだから。素直であれば、壁に当たった時でも神様がちゃんとお世話してくれるものなんだ。それは、僕の経験からも言えること。レストラン経営はチームプレーでもあるから、対人関係を円滑にするのはとても大事で、そのために、一人ひとりが素直であることが求められるということだね。

そして、笑顔。お客様に対しても、仲間に対しても、いい第一印象を心がけないといけない。相手に明るい印象を与えるには、額を出すといいね。髪で額を覆うよりもスッキリと見せる方が、表情が豊かに見えるし、その人の人間性みたいなものが表れるでしょう。スタッフにも「額を隠すなよ」ってよく言っているんですよ。

鶏のトマト煮バスク風 バターライスと共に

鶏のトマト煮バスク風 バターライスと共に

コツ・ポイント

味の決め手になっているのは塩気と旨味を出す生ハム。生ハムが余った時には、細かく切って煮込み料理に使うことで活用の幅が広がる。鶏もも肉はよく焼き、煮込む時はサッと火を入れる程度に。煮込み過ぎると肉質が締まって硬くなってしまいます。

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  • 文:宮本恵理子
  • 写真:平瀬夏彦