お酒と料理

秋山能久 / 六雁 自宅で楽しむ、和の夏酒 ~ 玉川 Ice Breaker

銀座並木通りに密やかに「六雁」の看板が見える。知る人にだけ開かれた秘密の扉のような佇まいに惹かれエレベーターを登ると、そこには広々としたオープンキッチンで料理人が調理する姿が目に飛び込む。ここはスーパー歌舞伎ならぬ、「スーパー割烹」の店だ。

秋山能久さんは割烹や精進料理店で修業を重ね、現在この店の総料理長。休日は家族のために料理を作るという秋山さんに、自宅で楽しめる美味しいお酒を教えてくださいとお願いしたところ、親密な雰囲気のシェフズテーブルのある個室に案内してくれた。

ストーリーが味に深みをつけてくれる

ストーリーが味に深みをつけてくれる

選んだのは京都・木下酒造が夏場に出す「玉川 Ice Breaker(アイスブレーカー)」。滋賀県産の日本晴という米品種で造られたお酒です。その名にちなんで、ロックでおいしい。僕は家ではまずロックで飲んで、その後冷やに移るということが多いですね。純米吟醸なので、フルーティで清涼感のある香りを持ちながらも、無濾過生原酒ゆえの強さもあります。

木下酒造の杜氏はイギリス人なんですよね。彼が「場を和ませる」という意味を持つ「アイスブレーカー」という名前のお酒を作って、かわいいペンギンのラベルをつけたという秘話も好きですね。そういうストーリーが味に深みを与えてくれます。

1.揚げものと合わせる『帆立フライ』

「アイスブレーカー」と揚げ物は、相性の良い組み合わせ。甲殻類を細かいパン粉で包んで揚げ、三杯酢にさっとくぐらせると、油の切れもよくさっぱりした味わいになります。

1.揚げものと合わせる『帆立フライ』

細かくしたパン粉をシャクっと噛むと、魚介の甘み、チーズのうまみがしっくりとなじみ、飽きない味わいでしょう。熱々の揚げ物を頬張って、ロックで冷たくした「アイスブレーカー」で流し込むという、温度のコントラストも楽しいです。温度を下げると柑橘系のアロマも際立ちますよ。

今回は花穂紫蘇を上に散らしましたが、もみ海苔に変えても香りが立っておいしく召し上がっていただけます。

2.かんぴょうの旨みと夏酒の旨み『かんぴょう巻き』

もう一つ、相性のいい食材として提案したいのが「かんぴょう」です。山の幸であるかんぴょうを、海の幸である海苔で包み、わさびを少しのせていただきます。手巻き風に酢飯の上に乗せたものも用意しました。

2.かんぴょうの旨みと夏酒の旨み『かんぴょう巻き』

これは氷なしの「冷や」で合わせていただきたいですね。醤油をきかせてキリッと炊いたかんぴょうと、甘みがあり麹の強さを感じる「アイスブレーカー」の相性には、思わずニヤリとしてしまいます。海苔とわさびの香り高さが、いいアクセントになるでしょう。敢えて寒い冬に飲んでも楽しい組み合わせかもしれませんね。

食べたいものからお酒を選ぶ

休日の朝、僕は起きたら「誰と、どこで、何を食べるか」って、もうその日の夕食のことを考えています。屋外なのか屋内なのか、友人と飲むのか、家族だけの食卓なのか。そんな風に献立を考えてから、酒屋に向かいます。「アイスブレーカー」は皆でわいわい飲めるお酒、楽しい1本ですね。

帆立フライ カチョカバッロと花穂紫蘇 と かんぴょう巻きと一口手巻き寿司

帆立フライ カチョカバッロと花穂紫蘇 と かんぴょう巻きと一口手巻き寿司

コツ・ポイント

帆立フライは、高温でサッと揚げ、中を半生に仕上げることが美味しさのコツ。衣にクリスピーな食感を持たせ、余計な油分を吸わせずに三杯酢を含ませるため、パン粉をフードプロセッサーで細かくすることも美味しさのポイントです。

かんぴょう巻きのかんぴょうは、臭みを取り、やわらかく煮えるようにするため塩でもみ洗いをします。水を2,3回入れかえ、洗いながら戻しましょう。あまり煮詰めすぎないこともポイントです。

玉川 Ice Breaker(アイスブレーカー)

玉川 Ice Breaker(アイスブレーカー)

分類:純米吟醸 無ろか生原酒

原材料:米、米こうじ

米の品種:原料米(日本晴-滋賀県)

精米歩合:60%

アルコール分:17~17.9%

木下酒造/創業1842年。京都府丹後半島で約170年にわたって酒造りを続ける酒蔵。代表銘柄「玉川」の由来は、蔵の近くを流れる川が玉砂利を敷き詰めたような清流であったことから。2007年よりイギリス人のフィリップ・ハーパー氏が杜氏を務め、氷の溶け具合で味わいが変化する「玉川 Ice Breaker(アイスブレーカー)」のようなアイデア満載のお酒から、家付き酵母を使った自然仕込の山廃、江戸時代の製法を再現した酒など、古きに学びながら挑戦的な酒造りをしている。

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  • 文:宮本恵理子
  • 写真:平瀬夏彦