ピックアップシェフ

間渕 英樹 SCIROCCO イタリアでの修行時代の忘れられない味、家庭料理カッスーラとモロッコのクスクス。

イタリアで初めてご馳走になったモロッコ料理・クスクスは、我が家のホームパーティの定番メニューに。

イタリア人と家族同然になれたことで、仕事も暮らしも楽しくなった。

28歳で渡ったイタリアには、およそ5年半いました。その間、アオスタ、ミラノ、リグーリア、ブリアンツァのレストランで働かせてもらい、イタリア人の中で生活しながらたくさんのことを学びました。イタリア料理はもちろんですが、それよりも人間性についていろんなことを考えさせられたことが、いまの僕の人生に大きな影響を与えていると感じます。日本とは国の成り立ちも違うし、宗教も違うし、基本的な考え方も違う国。お金の価値観も違うし、やさしさの表現も違うし・・・。でも、最も印象的だったのは“家族”との関係でしょうか。やっぱりイタリア人はファミリーの結びつきを、とても大事にするんです。彼らの家族の関係には、とても教えられることが多く、僕自身もイタリアから帰ってから、自分の家族に対してもより寛容になったというか、接し方がすいぶん変わったと思います。

イタリア人と家族同然になれたことで、仕事も暮らしも楽しくなった。

逆に言えば、よそ者に対しては排他的なところもあるので、僕のような外国人は、なかなか入り込めない壁もありました。最初に働いたアオスタのレストランでは、なかなかイタリア人にとけ込めなくて、孤独感を感じていました。働くにあたって僕は「お金はいらない、仕事ができればいいんです」という姿勢を貫き、店のために一生懸命働きました。もちろん「働くんだからお金が欲しい」と主張することもできたし、実際にそう主張するのは間違いじゃない。でも、それを優先するような日本人の料理人は、イタリアでの仕事が続かなかった人が多かったですね。寝るところと三度の食事だけもらって無給で働き、お金に全く執着していなかった僕は、だんだんと信用されるようになったのか、「どれくらい金が欲しいんだ?」とか、「次のシーズンも来てくれるなら、もっと給料を出すよ」と言われるようになってきました。そうやって“よそ者”から“家族の一員”として見なされるようになると、イタリア人は本当にあったかい人々です。仕事を辞めた店に、お客さんとして食事しに行っても、もう僕からお金は受け取ってくれないです。「家族だから」って。そして「また働きたくなったら、いつでも来いよ」とも言ってくれます(笑)。一昨年、東日本大震災があった後も、世話になったレストランオーナーからすぐに電話があり、親身になって心配してくれました。そして「こっちで働いたらどうか」とも。涙が出るほど嬉しかったです。僕がイタリアの5年半で得たいちばん大きなものは、こういうかけがえのない人間関係だったのかな、と改めて心が熱くなる思いでした。

モロッコ人の友達が、家に招待してふるまってくれたクスクス料理。

今回ご紹介する料理、ラム肉のクスクスはイタリアにいるとき初めて食べた、忘れられない料理です。イタリアなのに、どうして北アフリカ料理、と思われるでしょうが、これは僕が働いていたリグーリアのレストランで一緒に仕事していたモロッコ人の女の子にご馳走してもらった料理なんです。イタリア人のボーイフレンドと暮らしていた彼女が家に招待してくれたとき、このクスクスをふるまってくれたんですが、すごく美味しかったんですよね。その例に習って、僕も家に友人たちを招いてホームパーティをするときに、よくこのクスクスを作ります。味つけなどは僕なりにアレンジしていますが、肉はラム肉を使います。コツは鍋に蓋をしないでじっくりコトコトと煮込むこと。焦げつきそうになったら水を加えてください。おいしいラム肉と野菜のだしに煮込まれてとろとろになった具材を、クスクスにたっぷりかけて食べてください。お好みでモロッコの唐辛子ペースト「アリサ」をつけて食べると、さらにおいしく召し上がれますよ。

モロッコ人の友達が、家に招待してふるまってくれたクスクス料理。

お国の料理といえば、僕もレストランのまかないを担当するときに、ときどき日本から持ち込んだ味噌とか海苔、お餅などを食べてもらいたくて、料理に使ったりしたこともあるんですが、なかなか受け入れてもらえなかったですね(笑)。まぁ、若いイタリア人たちは、餅を「チューインガムみたい」と面白がって食べていましたけど、お年寄りたちは、いつも拒否。絶対に食べてくれませんでした。料理に関しても、イタリア人は案外排他的というか、保守的なんですよね。

イタリアでの経験を糧に、スペイン料理のシェフとして刺激的な毎日。

毎日楽しく仕事しながら、だんだんイタリア人にも溶け込んでいたころ、首相がベルルスコーニ氏になり、外国人労働者に対して条件が厳しくなって、僕がそれまで使っていたビザが無くなるという事態になりました。そのとき僕は32歳。もう5年以上イタリアで働いていたので、永久的なビザを申請すれば、もらえる可能性もありましたけど、日本に戻って働くことを選択し、帰国を決心しました。
帰国後、今の会社に入社し、最初はイタリアンレストランで働き、その後、日本橋の『レストラン サンパウ』でスペイン料理の調理人として少し働いた後、現在僕がシェフを務める『バル デ エスパーニャ ムイ』に移り、当時のシェフの下でスペイン料理を基礎から学びました。スペイン料理はイタリア料理と似ているところもあるけど、違うところもかなりあるんです。例えばスペインでは豚肉をよく使うとか、パプリカをよく使うとか、または食材の合わせ方なども独特のものがあります。でもやっぱりスペイン料理もイタリア同様、基本は地方料理なんですよね。いまはスペイン料理として、ひとくくりにされている感じですけど、バレンシア料理、カタルーニャ料理、バスク料理とか、その地方独特の素晴らしい個性があるんです。例えば代表的なメニュー、パエリアはバレンシア料理ですので、僕はアレンジを加えないで、バレンシアのレシピそのままにお出ししています。だってそれがいちばんおいしく食べる方法ですからね、大事にしています。何年か後には、イタリアンのシチリア料理とかトスカーナ料理のように、日本にもカタルーニャ料理とかバスク料理を看板にしたレストランがもっと増えてくるんじゃないでしょうか。それはスペイン現地で修行した、次の世代の若いシェフに期待しています。

イタリアでの経験を糧に、スペイン料理のシェフとして刺激的な毎日。

僕が料理人を志した22歳のときから夢見ていたカフェを持つ夢は、いまも心のどこかにあります。おいしいお酒と料理を出して、みんなが楽しくくつろげるような場所。そういう店を出すには何が必要なのかは、常に考えています。そしておじいさんになったら、喫茶店のマスターになりたいんです。僕の最終的な夢ですね。おいしいコーヒーが飲めて、常連のおじさんなんかが、「ここは料理もけっこううまいよねえ」なんて会話を交わされるような街角の喫茶店。そして僕が「ちょっと昔、イタリアにね」なんて打ち明けたりして(笑)。そんな妄想をするのも、また楽しいんですよね。

仔羊肉のクスクス

仔羊肉のクスクス

コツ・ポイント

ラム肩肉は大きめに切ったほうがおいしくできます。周りをきちんと焼き固めてから煮込んでください。野菜を入れたら弱火にして、レシピにある時間を目安にコトコトと気長に煮込むといいでしょう。

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