ピックアップシェフ

山田 チカラ 山田チカラ 日本でもスペインでも、常に生活に変化を求めながら料理のあり方を模索してきた。

料理をつなぎ役に心地良さといい出会いをもたらす空間を提供したい。

『エル・ブジ』のフェラン・アドリアに直々に頼み込み、再びスペインへ。

5年間暮らしたスペインで築いたものは全て引き払い帰国した私は、『旬香亭』の2軒目の店『旬香亭グリル・デ・メルカド』に戻り、再び齋藤元志郎さんのもとで働き始めました。あるとき、スペインからフェラン・アドリア氏率いる『エル・ブジ』の一行がスペイン大使館の招きで来日するので、彼らの密着取材のアテンドを頼みたいというお話をいただきました。『エル・ブジ』は、私がバルセロナに住んでいたころ既に世界中から予約が殺到する有名店でした。実は、当時私は食事に行き、その独創的な料理に衝撃を受け、「ぜひ働かせて欲しい」という手紙を送ったことがありましたが、そのときは残念ながら採用されなかったのです。来日したフェラン・アドリア氏に一週間同行した際に、「『エル・ブジ』でずっと働きたかったんです。行ってもいいですか」と直々にお願いしてみたら、「いいよ」と返事をもらえたときは、すごく嬉しかった。それから約ひと月後、私は再びスペインに渡っていました。
『エル・ブジ』に入った当初は、ひたすらいろんな豆で豆乳や豆腐を作っていました。フェラン・アドリア氏が京都を訪れた際に食べた湯葉がとても気に入ったらしく、手に入る全ての豆を使って、再現したかったようです。もちろん豆によっては作れるもの、作れないものがありますけど、その全てを彼は知りたいんですね、作れないのはなぜか、作れるのはなぜか、とういうことを詳細に知ろうとしていました。また、日本料理の食材についてもよく質問されましたし、味噌漬けやいくらの作り方、からすみの作り方なども熱心に聞かれました。知らないことがあるのがイヤな性分なんでしょうね。シェフというよりは指揮者というか、みんなを束ねることにかけては天才的、というのかな。いろんな発想が頭の中から出てきますが、実際に作るのは周りのスタッフ。その結果をちゃんとデータ化するんです。とにかくアイディアが豊富で才気に溢れたプロデューサー、という印象でした。

『エル・ブジ』のフェラン・アドリアに直々に頼み込み、再びスペインへ。

世界最先端の料理を独自のセンスで再現し、気鋭のシェフとして注目される。

西洋料理は皿に上にのった瞬間に全てが完成しているものですが、和食はそうではないですよね。例えばお刺身なら、食べる人の好みでわさびや醤油を使い、最終的にお客様の口の中で完成します。そこが和食と西洋料理の大きな違いだと思いますが、『エル・ブジ』の料理もそういうものだと感じました。スプーンの上にいろんな食材がのっていて、それらが口の中で合わさって仕上がる、完成させるというのを始めたのがフェラン・アドリア氏です。その点が大いに和食と共通すると思うんですよね。『エル・ブジ』では2シーズン働きましたが、毎日が楽しく、とてもいい経験でした。スタッフもいろんな国から来ているので、一緒に過ごす時間は面白かったし、秋になってシーズンが終わるころの切ない感じや、翌年のシーズンが来て、またみんなと再会したときの喜びも、かけがえのない思い出になっています。
日本に帰国し、再び『旬香亭グリル・デ・メルカド』に戻った私は、齋藤さんから店を引き継ぎ、『エル・ブジ』でやってきたことをどんどん取り入れて欲しいと言われ、シェフとして夜のディナーコースを全面的に変えていきました。その当時は自分の店を持つという考えは一切無く、このままここで頑張っていこうと思っていました。
私は日本の他店のシェフとほとんど交流がなかったんですが、イベントなどで同世代の有名シェフと話す機会が増えていくに従って、「自分の店を持つのもいいかな」と徐々に思い始めていました。もちろん『旬香亭』で自由なクリエイティビティを発揮する仕事は楽しかったし、生活も安定していました。でも安定だけでは面白くない、という従来の私の性格がだんだん強くなってきていたんです(笑)。

世界最先端の料理を独自のセンスで再現し、気鋭のシェフとして注目される。

『山田チカラ』は出会いの場。料理が人と人とをつなぎ、知らない同士が友達に。

2007年5月に南麻布に私の店『山田チカラ』がオープンしました。『旬香亭』を退社し、その後結婚した私は妻とふたりで営める大きさの8人のカウンター席という、最終的にはとてもこぢんまりとした店になりました。オープン時から変わってないのは、予約の電話は必ず私が受けることです。完全予約制でお任せのディナーコースのみになりますので、予約をいただくときにお客様の趣味嗜好や好物、目的などを会話の中できちんと把握したうえで、そこから膨らむインスピレーションでお料理を提供したいと思っています。当日お客様がいらしたら、私は中で料理を作るだけで、接客は全ておかみに任せています。何回も来て下さっている常連の方々にも、顔を見せることはほとんど無いんです。そう言うといつも驚かれますが、そのスタイルでもう7年やってきているんですよね。
お料理は茶懐石のスタイルを取り入れた創作料理です。カウンターで食事をしていただいた後は、奥の茶室でアルコールやお茶を楽しんでいただけるようなしつらえになっています。
他の飲食店と比べれば、すごく特殊な店だと思います。ただ、私の考え方としては、料理は店とお客様の、またはお客様同士の“つなぎ役”だと思っています。この店にはおかみとの会話とか、ここで過ごす心地良さを楽しむために来ていただきたいんです。狭い空間なので、ときにはお客様同士で話が弾んだり、友達になったり、ここをきっかけにまた一緒に食事に行ったり旅行したりと、そういう密な関係が生まれることが、私にはいちばん嬉しいことなんですよね。レストランは出会いの空間。料理と共に心ゆくひとときのための時間を、これからも提供していければと思っています。(終)

『山田チカラ』は出会いの場。料理が人と人とをつなぎ、知らない同士が友達に。

マヨネーズの作り方と、そのおいしさにびっくりした思い出の『ポテトサラダ』

今回お教えする料理は「ポテトサラダ」です。ウチの店でもときどきお出しすることもあるメニューなんです。マヨネーズを手作りして仕上げますので、市販のマヨネーズで作ったものとは全く違うおいしさを味わっていただけるはず。私自身、料理の修行を始めたころ、「マヨネーズってこうやって作れるんだ!」と驚き、そのマヨネーズのおいしさに感動したことが忘れられません。ぜひみなさんにも自家製マヨネーズをマスターしていただき、ご家族を驚かせて欲しいと思っています。
具は野菜だけでいたってシンプル。ハムやベーコンを入れてもかまいませんが、せっかく全て手作りなので、加工食品抜きで仕上げたくて、このようなレシピにしました。ジャガイモはメイクイーンを使っていますが、男爵など他の種類のものでもかまいません。ジャガイモをゆっくり茹でること、そして野菜が冷めないように布巾をかけて保温しながら作業するなど、ひとつひとつに手をかけて作るとさらにおいしくなりますし、食べるなら作りたてがいちばんおいしいと思います。

ポテトサラダ

ポテトサラダ

コツ・ポイント

じゃがいもが冷めないうちに、皮をむいて、酢をかけて一気に仕上げましょう。 また、乾かないように常に濡れ布巾をかけて保温するのもポイントです。 ※調理時間はじゃがいもとにんじんを茹でる時間は除きます。

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