ピックアップシェフ

橋本 幹造 一凛 好きなことにかけてはとことん極める性格。その集中力が料理人としての武器だと思っている。

店で出す料理も家庭料理も日本の文化として守っていかなければならないと思う。

東京で独立するときにこだわったのが、自然光が入り、仕事しながら会話ができる店。

料理人の世界から離れ、日本全国の生産者さんと交わりながら野菜の買い付けをしていたのですが、以前働いていた店の先輩だった方が独立し、京都に店を開きました。そこに僕が野菜を届けていたのですが、配達の折に仕込みの手伝いなどもするようになりました。
それがきっかけで、再び日本料理の世界に戻ってきました。その店は対面式スタイルのカジュアルな和食店だったので、若いお客さんも多くいらっしゃいました。若い方々は食べたものが美味しいと「これどこの魚ですか?」とか、「どういうふうに調理するのですか?」 と素直にお聞きになるんです。以前の店ではそういう会話自体なかったので、とても新鮮に感じましたし、こちらも野菜はもちろん食材に関することには詳しくなっていたので、そういうコミュニケーションが、とても楽しかったんですよ。そのとき、自分がやりたいのはこういう店じゃないか、と将来の形をうっすらと見つけた気がしました。
その後、ご縁があって東京で日本料理店を任されることになり、2004年に上京しました。それまで私はほとんど京都から出たことがなかったので、東京に来たときは全てがカルチャーショックでしたね(笑)。人も町も店のありかたも全てが。2年半ほど都内の日本料理店で働き、様々な経験をしながら、料理に関して柔軟な発想も身につけ、料理人として自分の店を持ちたいと思うようになりました。
私の店「日本料理 一凛」は2007年にオープンしました。店の場所を探すときにこだわったのが、自然光の入る場所でした。というのも東京の飲食店物件はほとんどが地下。でも自分としては暗い場所で料理をしたくなかったんです。あるとき希望エリアではなかった原宿に、ぴったりの場所があると聞き、「原宿、ファッション発祥の地やし、明治神宮の神さんにも近うてよろしいな。」とすぐに決めました。駅から遠いし大通りからも一本入るので、地の利がある場所じゃないのですが、逆に考えれば来店される方は自分の料理を目的に、わざわざ来てくれると前向きに考えたんですよね。

東京で独立するときにこだわったのが、自然光が入り、仕事しながら会話ができる店。

自由で柔軟な発想を大事にしながら、オリジナリティの高い料理で喜ばせたい。

開店する準備は整ったものの、すぐには開けず、ふた月ほどかけて全ての料理を見直すことにしました。新しい挑戦のために今まで使ってきた鰹節から何から一旦忘れ、全部ゼロにして考えようと。店の水が料理に適さないと分かれば、京都から水を運ぶことにしました。現在は7種類の水を用途によって使い分けているほどです。
日本料理の定義とは、一言でいえば“素材の持つ味を活かす”ことですが、私はそこに徹底的にこだわりたいと思っています。「一凛」では京料理を再現しているわけではなく、私の考える日本料理を作っているんです。たとえば通常「先付」は、“走り、旬、名残り”の3品で構成されるものですが、お客さんのあれも食べたい、これもつけて、という声に応えて、全国各地の旬の素材が一堂に入る『豆皿八寸』が生まれ、うちの名物料理になりました。仕込みに手間がかかりますが、日本の四季のうつろいをもっと身近に感じて欲しい、そんな思いで始めたメインのお料理です。
そして1年半ほど前からいろいろ研究しているのは、和牛のエイジングビーフです。日本料理に肉!?と驚かれるかもしれませんが、もともと京都の人は肉が好きですし、90いくつまで生きた私の祖母も魚は一切食べず、肉を毎日食べ、とても元気でした(笑)。肉が大好きな人がたくさんいるんだから、日本料理に肉が入ってもいいんじゃないか、と私は思うんですよね。とくに熟成肉は自分で食べても本当においしかったし、見逃したらあかん食材だと感じています。とはいえ、東京のお客さんは、色々食べてはるからちょっとした料理やったら驚きはらへんからね。
いまは野菜料理が中心のコースですが、肉料理もぜひ足してみたい。どういう形でお出しするか、まだまだ試行錯誤中なので、出してみて「やっぱやめや」(笑)、となるかもしれませんが、可能性があれば新しいことにチャレンジしたい性格です。近い将来、私らしい肉料理をご提案して、喜んでいただきたいですね。

自由で柔軟な発想を大事にしながら、オリジナリティの高い料理で喜ばせたい。

子供たちには食卓から始まるコミュニケーションを通じて、食の世界を知ってもらいたい。

私は料理を作ることが、ホンマに好きです。一年365日のうち、366日料理作ってる(笑)。休みの日は家族のために料理を作り、ホームパーティもよく開催します。「パパ会」というテーマで子供の友達のお父さんたちも招き、私が料理をふるまいながら調理の手ほどきをしたりすることもあります。または仕事の傍らテレビ出演もさせてもらっていますし、ワークショップや料理教室で講師もやらせていただいています。ここまでするのも「食は人の命をあずかり、喜びを与える世界であること」という料理人の責任に加え、心が豊かになる料理を作っていきたい、みなさんにも作ってもらいたいという願いがあるからなんです。
いま日本のお母さんたちは忙しく、料理に時間がかけられないと、いつものおかずで済ませる家庭が多いようですけど、それではもったいない。昔のお母さんだって忙しかったけど、ちゃんと旬を考えた料理を作り、家族を喜ばせていたと思うんですよね。たとえば帰宅したお父さんが「今夜のお刺身は何かな」と聞き、「初ガツオですよ。お酒飲みますか」みたいな会話が日常にあり、子供たちも食卓から始まるコミュニケーションを通じて食の世界を知っていくことは、とても大事なことだと思うんですよね。それこそ和食がユネスコ無形文化遺産になる以上に、日本人が考えるべきことではないかと。
極端な話かもしれませんが、私は料理の食べ方を知っている人は仕事もできると感じています。食に対するインテリジェンスのある人は食材や旬にも詳しいし、バランスよく食べる術を知っているから健康的です。店で食べる料理だけでなく、家庭の料理も含めて、日本の文化として必ず守っていかないといけないと思います。
勉強が嫌いでこの世界に入ったのに、いま死ぬほど勉強しています(笑)。料理のことから歳時のこと、歴史のこと、家の中は本の山です。最近はフランス語も学び始めました。フランス人のお客さんに料理の説明ができなくて始めたのですが、なんかもう日本の文化の一端を担っているというより、常に“日本代表”という気持ちで料理をしています。  (終)

子供たちには食卓から始まるコミュニケーションを通じて、食の世界を知ってもらいたい。

いつものおかずが、はちみつの力でさらにおいしくなる鶏の唐揚げ。

今回お教えする料理は「鶏の竜田揚げ、蜂蜜仕立て」です。誰もが大好きな鶏の竜田揚げですが、はちみつの力でタンパク質が分解され、肉がぐんと柔らかくなり、よりおいしく食べられるおかず。わが家でも子供たちにせがまれ、よく作る料理のひとつです。
ポイントは肉のスジを包丁の先で叩いて切り、つけだれを十分にしみこませること。味がなじんだら片栗粉を一つ一つにまんべんなくつけ、6時間ほど寝かせるとさらにおいしくなります。もう一つのポイントは揚げ方。普通は油の温度が180度ぐらいになってから肉を入れるのが手順でしょうけど、火をつける前の油が冷たい状態で入れて構いません。揚げ物やてんぷらは日本料理の世界では「蒸し物」のひとつです。いかに旨みを閉じ込めてジューシーに仕上げるかという料理なので、しっかりと片栗粉がコーティングされていれば、冷たい油からでもカラリと揚がります。この方法だと野菜の揚げ物などもホクホクした仕上がりになります。そして揚げ時間を守ってください。中火で片面を動かさずに6分ほど揚げ、泡が大きくなり音が高くなってきたら、ひっくり返してさらに30秒揚げます。油の音が慌しくなってきたら、ゆっくり持ち上げるように取り出して油をきってください。盛り付けるときはショウガの甘酢漬けを添え、木の芽や粉山椒を散らすと、ちょっとお洒落な一品になりますよ。

鶏の竜田揚げ、蜂蜜仕立て

鶏の竜田揚げ、蜂蜜仕立て

コツ・ポイント

最初に、ぶどう糖である「はちみつ」だけを入れてもみ込むところがポイントです。 「揚げ物」=「蒸し物」。最初に打つ片栗粉でしっかり肉がコーティングされていれば、この方法で上手に鶏肉を揚げることができます。夜仕込んでおけば、お弁当のおかずにぴったり。 ※調理時間は、漬け込む時間を除く

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