ピックアップシェフ

中田 耕一郎 レストラン ル・ジャポン 和食とフレンチを融合させた新しい“日本人料理”を提供したい。

「和魂洋才」の食文化に誇りを持って料理している。

3人の個性的な料理人のもと、辛さに耐えたおかげで今の自分がある。

『SHIMPEI』が閉店した後、僕は80席もある大きなレストランのシェフに迎えられ、1年ほど働きました。大きな店での経験は良いこともありましたけど、やればやるほど自分の実力の無さを痛感しました。これではいけない、もう一度一からやろうと決心し、それなら和食を学ぼうと修業をお願いしたのが『料理屋 こだま』でした。店は大将の小玉勉シェフと二人きり。大将の料理は和食とはいえ、フュージョン感覚に溢れたセンスが素晴らしく、そばでじっくりと仕事を見たい、学びたいと思ったんですよね。
しかし仕事の半分は店の掃除でした。厨房でやらせもらえるのは、出汁をひく、魚をおろす、糠漬けを漬けるぐらいで、それ以外はずっと掃いたり、拭いたりばかり。まるでお寺の修行のようでした。人に使われるのも久しぶりでしたし、実はずっとイヤイヤながら掃除していたのですが、あるとき閃いたんですよ。僕にしか見えないホコリや汚れがある、ということに。つまり掃除を毎日続けていると、誰の目にも分かるレベル以上まで気づけるようになるというのかな。“美意識”という意識のレベルが一段上に上がるんです。それに気づけたとき、掃除がいかに大切か、やっと分かった気がしました。
お客様にも「味覚が優れている人がシェフになれるのですか」とよく聞かれますが、僕の元々のうまい、まずいの感覚は、さほど普通の方と変わらないでしょう。でも毎日同じような仕事を淡々と続けてきたから、普通の人以上に敏感な味覚を得られたと思うんですよね。つくづくありがたいと思うのは、超一流の方々の下で、辛さに耐えて頑張って来たことが自分の強みになったこと。勝又昇シェフ、松尾晋平シェフ、そして『こだま』の大将小玉勉シェフという3人のすごい方々との巡り合わせがなければ、今の自分は存在しないと思っています。

3人の個性的な料理人のもと、辛さに耐えたおかげで今の自分がある。

日本人が毎日飽きずに食べられる料理を出す店にしたかった。

『料理屋 こだま』で働きながら、日に日に募っていったのは独立への意欲でした。どういう店にするか、まず考えていたのは、日本人がおいしいと感じ、毎日食べられる料理を出す店にしたい、というコンセプト。長年フランス料理の仕事をしてきましたけど、自分でも毎日食べるとなると、無理があります。それより毎日、日本人が食べている家庭料理に近いもの、素敵なお家に招かれておいしい料理を食べているような感覚で来ていただける店にしたかったのです。店名を『ル・ジャポン』にしたのも、分かり易い名前にしたかったのと、単純に自分がやってきたフレンチと和食の融合ですね。物件探しも50件は超えていたと思います。しかし代官山の駅からも遠く、予算もオーバーだったこの店を下見して「あっ!ここだ、ここしかない」と本能的に感じたんですよね。
お客さんの反応がダイレクトに感じられる念願のオープンキッチン。無垢の木の広いカウンターは、父の意見で決めました。メニューは開店当初から変わらず月替わりの2種類のコースのみ。材料については「和のものにこだわっているんですか」と聞かれますが、日本で普通に買えるものを使い、『ル・ジャポン』らしく提供しています。例えば「すき焼き」は割下にフォンドヴォーを使い、さらにトリュフオイルをかけるというスタイル。コースの〆で評判のいい「冷やしフォアグラ担々麺」もウチだけの一品。これだけ食べたいというリクエストもいただきますが、あくまでコースで召し上がっていただくようにしています。フォアグラはフランス産を使いますが、ドーバーの舌平目とかブルターニュのオマール海老とか、高い輸入食材は使いません。オープン当初は不安もありましたけど、開けてみれば、この付近は『オーベルジュ オー・ミラドー』のお客様が多く、認知されるのが早かったのはとてもありがたかったですね。

日本人が毎日飽きずに食べられる料理を出す店にしたかった。

『ル・ジャポン系』というカテゴリーを登場させるのが夢。

『ル・ジャポン』の料理は“日本人料理”です。まぁ、僕が勝手に命名したのですが、日本人なりのフュージョン料理を、日本人のフィルターを通して完成する料理をこれからも作っていきたいですね。日本の家庭の献立って、昨日は天ぷら、今日はカレー、明日はラーメン…というラインナップ。でもカレーはインドのものとは違うし、ラーメンも中国のものとは違います。全て日本人のフィルターを通して変えているでしょう。そんなことをするのは日本だけだし、誇るべきことじゃないかな。それをレストランでやってみようというのが『ル・ジャポン』だと思っています。代官山は外国の方が多く、店にもたくさん来ていただきますが、僕の日本人料理はちゃんと伝わっていると手ごたえを感じていますし、作り方を教えてほしいと乞われることもあります。いまは“和風フレンチ”みたいにカテゴライズされていますけど、蕎麦屋さんが「藪系」とか「更科系」と呼ばれるように、僕のような料理が「ル・ジャポン系」と呼ばれるといいなぁ、とこっそり野望も持っています(笑)。
それと2人の娘の父になって考え始めたのが“食育”です。世間を見渡すと、おいしいものを食べたいという欲求が薄い若い人が増えているような気がするんですよね。食べ物=カロリーとしか考えていなくて、とりあえず空腹を満たすだけ、みたいな。それではあまりにも寂しい。大人になっても「好きなのはハンバーガー」では、レストランに来る人がいなくなってしまいますからね。飲食業にとっては死活問題。ちょっと高いけどおいしいものを食べるために頑張ろう、という大人に成長するよう、子供たちには本当においしいものを味わいながら成長してほしい。この店を軸に、家庭料理の充実や食育のお手伝いも、できる限りしていきたいと思っています。

『ル・ジャポン系』というカテゴリーを登場させるのが夢。

バター風味の甘い人参で食欲がわく「人参土鍋ご飯」。

今回お教えするのは、『ル・ジャポン』でも様々な材料を使ってお出ししている洋風炊き込みご飯のひとつ、「人参土鍋ご飯」です。和食+フレンチ+ごはん、というウチのコンセプトが、手っ取り早く理解していただける料理じゃないでしょうか。10年続けている料理教室でも、常に人気のあるメニューです。いまはちょうど新米の時期。土鍋で炊き上げる新米ご飯の格別なおいしさを、ご家庭でも味わっていただけたら嬉しいですね。土鍋が無ければ、ル・クルーゼやストウブなどの厚手の鍋でもおいしく作れますよ。
人参は皮をむかずに使います。というのも皮はいちばん香りのあるところなので、その風味を生かします。そしてバターで軽く炒め、炊きあがったごはんに入れて蒸すこと。最初から入れて炊くよりも、人参のフレッシュ感と甘みが、最大限に生かされます。合わせだしのベースには和風だしを使いましたが、地鶏から取っただしを使っても、目先が変わり、おいしく仕上がります。 人参の代わりに季節の野菜を使ってもいいですね。お勧めはバターナッツかぼちゃや枝豆、新玉ねぎなど。炊き込みご飯は色もきれいで、野菜が苦手なお子様でも喜んで食べてくれるのではないでしょうか。 (終)

人参土鍋ご飯

人参土鍋ご飯

コツ・ポイント

人参は、一番香りのあるところである皮はむかずに使いましょう。また、フレッシュ感、甘みを最大限に生かすために、炒めるのはサッとだけにしてください。

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  • 文:北條尚子
  • 写真:キッチンミノル