ピックアップシェフ

森田 一頼 Libertable 繊細な感性と大胆な発想が息づく、ひとつひとつが愛おしいデザート。

日本の料理界でパティシェの価値をもっと高めたい。

フランス料理のコースの中でパティシェの可能性を学んだ日々。

フランスから帰国したのは2007年です。そのころ僕は「レストランに入り、フランス料理のコースの中で、パティシェとしての可能性をもっと勉強したい」と、強く願っていたので、その想いを実現できるレストランを探していました。 そして紹介されたのが南青山の『ランベリー』でした。シェフの岸本直人氏とお会いし、「自分に技術があるから行きたいのではなく、もっとレストランの現場で勉強したいんです」という気持ちを伝えました。そして2008年より、シェフパティシェとして働き始めることになりました。
僕にとって幸運だったのは、デザートに関して、『ランベリー』では、とても自由にやらせてもらったことですね。シェフによっては、パティシェに対して、「こういうものを作ってくれ」、と一方通行になる場合も多いと思いますが、岸本シェフとはお互いに意見を出し合って、一緒にコースを作っていくことができました。そういうタイプのシェフは、あまりいないんじゃないかな。現在のフランス料理のアミューズや前菜には、パティシェの技術を使っているものが増えているのですが、実際にパティシェでアプローチしている人はまだ少ないんです。それなら自分がやってやろうと、実行できたことは嬉しかったですね。
おかげでフランス料理の食材について様々なことを学ぶことができ、その知識は僕の強みにもなりました。『ランベリー』で作っていたデザート以外の料理、例えばアミューズ用の野菜のサブレや、フォアグラをサンドするマカロンなどは、いま僕が作っているお菓子にも、きちんと繋がっています。僕の作るデザートが好評だったこともあり、『ランベリー』が移転する際に、レストラン『リベルターブル』として独立した店舗を任されることになりました。

フランス料理のコースの中でパティシェの可能性を学んだ日々。

世界中どこにもないデザートコースを提供するレストランを目指して。

レストラン『リベルターブル』という素晴らしい舞台が用意され、世界のどこにもないような、全てが新しいスタイルの店を目指しました。フランス料理のコースにしかないエレガントさ、そしてお客様を幸福にする力のある料理を作りたい。他にもデザートコースを出す店はありましたが、同じことをやってもしょうがない。もっと面白いことができないかな、と日々試行錯誤の連続でした。
オープン当初は、まず『ランベリー』から一皿を出し、その後にデザートを3皿ぐらい出していたのですが、これだとデザートコースに料理を一皿付けただけで、目新しくもないなぁ、と。初心に戻る、じゃないですけど、常々僕は日本でのパティシェの価値を高めたい、という気概を持って仕事していたので、全ての料理を自分自身で考えてみよう、と思考を切り替えました。それからはサラダであってもパティシェが作るとこうなる、肉料理はパティシェならこういう素材を合わせる、と言う具合にコース全体を変えていったんです。それが徐々に評判になり、連日ランチはほぼ満席という状況になったのは嬉しかったですね。
この店で自分がやろうとしたことは、7~8割は実現できていたので、もっと『リベルターブル』が大きくなるために、次は何をやったらいいのか、と前向きに考え始めました。そのときはまだ『リベルターブル』は『ランベリー』の系列店でしたが、僕が社長になって会社を独立し、次のステップへ進もうという結論を出したんです。2012年の9月に店を閉め、テイクアウト形式のパティスリーをオープンさせるべく、動き始めました。

世界中どこにもないデザートコースを提供するレストランを目指して。

黒トリュフやフォアグラを使ったケーキをスペシャリテに。

パティスリー・ブティックとして新しい『リベルターブル』は2013年10月に、赤坂にオープンしました。レストランを閉めてから1年間、物件を探しながらデパートの催事や、パーティのケータリングなどをしながら、少しずつ準備してきました。当初は青山や渋谷で店を開くことを考えていたので、実は赤坂というイメージは無かったんです。この物件に出会い、表参道で若い世代に人気のパンケーキ屋さんと勝負するより、大人のお客様をターゲットにしようと、赤坂に決めたのですが、1年経った今はすごく良かったと思っています。
新しい店では、ロマンチックで華やかな『リベルターブル』にしかないプティガトーや焼き菓子を作っていきたい、その想いをチームに浸透させてスタッフみんなで頑張ってきました。そして店のスペシャリテとして生み出したのが『リュクス』と『ゼニス』です。『リュクス』は黒トリュフの香るクリームとショコラのマリアージュ。『ゼニス』はカルヴァドスを使ったシブースト、りんごキャメリゼ、そしてフォアグラのフラン。シブーストはクラシックなお菓子ですが、そこに自分の個性をプラスして、喜んでもらいたいと思いついたのが、フォアグラだったんです。
僕のお菓子は、よく料理の食材を使っている、と言われますが、自分の感覚からすると、これは料理用、これは菓子用という先入観に囚われているだけで、食材であることに変わりないと思うんです。もちろん料理の食材を興味本位で使うという発想は全くありません。全てのお菓子は自由な発想で作る、そのポリシーは大事にしています。赤坂の店に加え、今年、松屋銀座と渋谷のヒカリエにも店を出すことができました。
次は?と言えば、これはずっと頭の中にあるプランですが、テイクアウトのお菓子ではできない、自由な発想で表現できる一皿を提供できる空間をつくること。この実現に向けてそろそろ動き出したいですね。 (終)

黒トリュフやフォアグラを使ったケーキをスペシャリテに。

伝統的なりんごのお菓子、クルスタッド オ ポンム ルージュ。

今回お教えするのは、フランス南西部の伝統菓子で、りんごのキャラメリゼ、アーモンドクリームとクレームパティシエールの二種のクリームを、薄いパリパリの生地で包んで焼いた『クルスタッド オ ポンム ルージュ』です。パリパリの生地は冷凍で売っている「パータフィロ」を使います。
このお菓子は最初に修業をした吉祥寺の『レピキュリアン』で出会った思い出深いもの。中のりんごは少しアレンジしていますが、あの厳しい修業時代に師匠の技術を目で見て覚えたお菓子です。『リベルターブル』のプティガトーは、華やかでモダンなものが多いのですが、やっぱり伝統的な手法を実直に学んできたベースがあるから、その経験の積み重ねの中から、僕のフィルターを通して新しいオリジナルのお菓子が生みだせると思います。だから自分にとって、すごく大事な、特別なお菓子なんですよね。同じものを渋谷ヒカリエの店でもお出ししていますし、赤坂の店では大きめのカットサイズのものを販売していますので、ぜひ一度食べていただきたいですね。2種類のクリームを入れるので、ちょっと手間はかかります。りんごをソテーするときは、きっちりと水分を飛ばして下さい。そうしないとすぐに湿気が入ってしまいます。焼きたてが最もおいしいお菓子ですので、おいしいお茶を用意してアツアツのところを召し上がってください。

クルスタッド オ ポンム ルージュ

クルスタッド オ ポンム ルージュ

コツ・ポイント

クレームパティシエールを作る際は、しっかりと火をいれること。よりなめらかな仕上がりにつながります。 また、リンゴキャラメリゼのりんごの水分をしっかりと飛ばしておいてください。成形がしやすくなり、パートフィロもパリっと仕上がります。 仕上げに綺麗に包み込むことも大事です。

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