ピックアップシェフ

小山 進 パティシエ エス コヤマ  自分の感度を信じて、「感じて伝える」、「モノづくり」は子どもの頃の好奇心と同じ

お菓子を通して日本の良さ、強み、技術力を世界に発信していく。

店を構えた三田はクリエイティブになれる場所だと感じた。

『パティシエ エスコヤマ』は、2003年11月、三田(さんだ)ウッディタウンにオープンしました。この物件は、たまたま行った時に見つけ、その当時は周りに原っぱが広がっているような場所でした。「ここ、ええなぁ、ここで店やろうかな」と妻に言うと、呆れられましたけどね(笑)。以前から僕は、店をやるなら手つかずの自然が残っているような場所がいいなぁと思っていました。というのも、幼いころ虫捕りや魚釣りをしたようなのどかな場所のほうが、僕にとっていろんなものが生まれる環境だと感じていたからです。クリエイティブになれる場所、新しいものを生み出す場所としてベストだったうえ、素晴らしい食材も手に入るところでした。郊外の立地だからこそ、「自分ならここまでやらなければ気が済まない」という自分のスタンダードレベルで、止まることなく誰よりも生み出し発信し続けることを決意し、子どもの頃と同じように自分がクリエイティブであり続けられることを優先して、自然な緑の溢れる場所を選びました。
ありがたいことに開店当日には店の前に行列ができ、400本用意した小山ロールも、あっという間に売り切れ。お客様の数はひと月経っても3か月経っても減ることはなく、開店1時間でショーケースがガラガラになってしまう日が続きました。
開店から12年目になり、ブランドも7つに増え、スタッフも250人を数えます。各地から車でいらっしゃるお客様にとって、ここに来られるときは、自分の住んでいるところとは全く異なる場所へやってきたような感覚になり、遠足の前日のようなワクワク感を感じていただける空間にしたい、という思いはずっとありました。こんなところにあるんだー、わぁ、おいしそうな香りがするなぁ、って。そういう体験をお子様だけでなく大人の皆さんにもしていただきたい。
常に「今日来て下さったお客様も次は来ていただけないのではないか」という心配心があるので、街の中心から離れた郊外まで来ていただくには、圧倒的なクオリティの商品開発が必要で、それを「いつ来ても何か変化がある」と感じていただけるように、新商品や季節アイテムの数も圧倒的でなければいけません。今の時代「スイーツを手に入れよう」と思えばどこでも手に入れることはできます。それこそコンビニでも。「エスコヤマでないと」と思っていただけるようでなければダメです。来なくちゃいけないと思われるもの、引力が大きい商品や空間、そして会いたいと思っていただける人でないといけない。儲けとか店を増やすことに僕は全く興味がないんです。僕の自慢の作品(お菓子・空間・人)に触れて、びっくりしていただきたいですね。

店を構えた三田はクリエイティブになれる場所だと感じた。

子供たちの伝える力を伸ばし、未来の表現者に。

いま、未来の表現者を育てることも僕の任務だと考えています。というのもパティシエを夢見てウチに入って来てくれる若い子たちを見ていると、感じて伝えることが苦手な人が多いと感じるからです。それに僕が常々伝えているのは「僕たちの仕事は、まずは「感じる」、そして「伝える」ことが大事であり、伝えたいことを持つことが大事である」ということです。例えば、各地方の学校で講演会へ呼んでいただくことがあった時、小学生や中学生、高校生の皆さんに「昨日、なんか面白いことあった?」と聞くと「うーん・・・」と考えこんでしまう子が多いんですよ。僕なんか聞かれなくても「ねえ、聞いて、聞いてー」と、何でも親や近所の人にまで報告する子だったので、「そおかぁ、そりゃ良かったな」って、みんなに褒められたその成功体験がずーっと今に続いているんですよ。たぶんいまの子どもたちは、親世代も忙しいし、近所の大人と気軽に話せるようなコミュニティがないまま、成長してしまったのかなと感じています。
そういうスタッフを見ていて作ったのが、『未来製作所』です。ここは小学生以下の子どもしか入ることができません。大人は立ち入り禁止。子どもしか入れない秘密基地のような施設に送り出し、戻ってきたらぜひ「どうだった?」と話を聞いて欲しいんですよね。子どもたちが素直な気持ちで自分の想いや体験を伝えられる場所を提供したいと、アクションを起こしたのが『未来製作所』。「こんなお菓子作ってたよ」「りんごが浮かんでたよ」、「ええー、面白そうだね」という親子のコミュニケーション。大事だと思います。僕がやるこんな小さなことぐらいで世の中が変わるとは思わないけど、お父さんお母さんが、子どもの話に耳を傾けるきっかけになれば嬉しいです。
「小山ロール」よりも早く、20年前から考えていたお菓子があります。名前は「MATTERU」といい、和菓子でも洋菓子でもない懐かしいお菓子。「MATTERU」には、「あなたのビックニュースを待ってる」「あなたはひとりじゃないよ」という気持ちを込めて名前を付け、商品化しました。僕が育った京都の路地裏と、未来を繋ぐ場所というイメージで、「MATTERU」専用のショップ「小山菓子店」も昨年オープンしました。これも全ては「子どもたちの伝える力を、もっと伸ばしてほしい」という僕の願いから生まれたものです。

子供たちの伝える力を伸ばし、未来の表現者に。

今年のコンクール出品ショコラは既に完成している。

先日、4月のNY、5月のパリのショコラ・コンクールに向けて、25種類の新作ショコラが完成しました。日本では11月に発表するので、まだ内容は秘密なんですが、もう話したくてしょうがない(笑)。僕がこの1年間に見たもの、感じたものを数々の板チョコやボンボンショコラとして具現化しました。昨年のショコラとは全く違いますよ。同じ人間が作ったものとは思われないかもしれない。
初参加した2011年のパリ『SALON DU CHOCOLAT Paris』で初めて最優秀賞をいただいて以来、毎年、自分との勝負です。自分の満足度を超える戦いなので、もう人との勝負ではないんです。若いころに参加したコンクールでは、ライバルが何を出すのか気にしていましたけど、それでは絶対に賞は取れない。やっぱり自分を超えないと。今回は今まででも最高のものができた自信があります。ここまでくれば、技術的な差はありません。「誰が面白いか」だと思います。それぞれにそれぞれの切り抜き方があります。僕が今までの経験を基に、日々を過ごしていく中で何を面白いと思って切り抜き、創造する。そして、それを発表する場。それが僕にとっての『SALON DU CHOCOLOAT』です。パリの審査員の方々に伝わればよいのですが。チョコレートはフランスがいちばん、と思っている人が多いけど、そんなことはないですよ。僕にとってのフランスは学びに行くところではなく、先ほども言いましたが、「発表の場」ですね。日本人である自分のポテンシャルを生かし切らないと、グローバル化が進んだ時代には対応できない。日本の良さ、強み、技術力をもって世の中に発信していくことこそ、真のグローバルだと思っています。
本当にすごいものができたので、いま言いたくてしょうがないんです(笑)。つまりみんなに言いたくてしょうがないような仕事をすることですね。スタッフにもよく言うんです。「シェフ!聞いてください」というアイデアを聞かせてくれ、と。世の中にないものを生み出すには、好奇心の扉を開け続けることだと思っています。僕自身の予想してないような、面白いものが生まれてくるのが好きなわけですからね。まぁ、僕の自慢話、それが新しいケーキだったり、チョコレートだったりするんですが、聞いて聞いてと自慢して、それを人が喜んでくれるのがいちばん幸せなんです。  (終)

今年のコンクール出品ショコラは既に完成している。

僕の大事なスペシャリテのひとつ「蒸し焼きショコラ」。

面白いことに、国内での僕のイメージは「小山ロール」の小山進ですが、最近海外では「ショコラティエ」として広く認知されているんですよね。今回は僕の代表的なチョコレート菓子「蒸し焼きショコラ」のレシピをお教えしたいと思います。いちばんの特徴は、小麦粉を一切使わないグルテンフリーのお菓子というところですね。これもエスコヤマの初期のレシピで自分の中ではスペシャリテのひとつです。でも最初は粉を少量入れていたんですが、もしかしたら使わなくてもできるんじゃないかな、といつものように好奇心のドアを開けてしまったんです(笑)。空気をたっぷり含ませた卵が加熱され、ふんわりと膨らみます。焼くときも湯せんで蒸し焼きします。スフレのようにふわっととろける口当たりを味わって欲しいですね。お子様が大好きなお菓子ですので、ぜひ一緒に作ってみてください。
本当にすごいものができたので、いま言いたくてしょうがないんです(笑)。つまりみんなに言いたくてしょうがないような仕事をすることですね。スタッフにもよく言うんです。「シェフ!聞いてください」というアイデアを聞かせてくれ、と。世の中にないものを生み出すには、好奇心の扉を開け続けることだと思っています。僕自身の予想してないような、面白いものが生まれてくるのが好きなわけですからね。まぁ、僕の自慢話、それが新しいケーキだったり、チョコレートだったりするんですが、聞いて聞いてと自慢して、それを人が喜んでくれるのがいちばん幸せなんです。  (終)

蒸し焼きショコラ

蒸し焼きショコラ

コツ・ポイント

卵黄と粉糖をすり合わせたものと、溶かしたチョコレートとバターを、 初期の段階でしっかり乳化させることが成功の秘訣。 卵白に空気をたっぷり含ませることにより、卵が加熱されたとき、ふんわりと膨らみます。

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