ピックアップシェフ

進藤 佳明 gentil‐h(ジョンティアッシュ) 軽やかで優しい味わいを、楽しむフランス料理を。

自信を見せるより謙虚な姿勢を貫き、様々なことを学んだ。

料理が趣味だった父を手伝い、料理の面白さを知る。

僕は横浜で生まれ育ち、いまも横浜に住み、店のある白金まで通勤しています。家族や親戚で飲食業に就いた人は誰もいませんので、料理人になったのは僕が初めてなんですが、それは父の影響ですね。父は設計士として働いていましたが、たくさんの趣味を持ち、中でもいちばん凝っていたのが料理でした。毎週土日には母が台所を明け渡し、父が料理を作るのがわが家の決まりでした。父は理系で凝り性ですので、これを作ると決めたら全て本格的にやらないと気が済まないタイプ。毎週、いろんなものを作って食べさせてくれました。兄と僕の誕生日には、お寿司を握ってくれたりもしましたね。作った料理に納得がいかない場合は、もう一度リベンジするんですよ(笑)。僕も小学生の頃から父を手伝って、ときには寿司を握らせてもらったり、父と一緒に料理をするようになっていました。うまく作れたら嬉しいし、褒められれば楽しくなる。料理って面白いな、と感じた最初の体験です。
中学時代には、漠然と料理人になりたいなと思い始めていました。当時、テレビ番組『料理の鉄人』が人気で、毎週欠かさず見て、フレンチの鉄人として登場する石鍋裕シェフや坂井宏行シェフに憧れていました。鉄人の料理をどうしても食べてみたいと思ったけど、まだ中学生ですからね(笑)。両親に頼みこんで、石鍋シェフの『クイーン・アリス』に連れて行ってもらいました。想像以上のおいしさに感動し、忘れられない経験になりました。その日、ちょうど店に石鍋シェフがいらっしゃって、少しだけお話もさせていただいたんですよ。そのとき、やっぱり料理の仕事はいいな、フランス料理のシェフってカッコいい、って。それで料理人になると決めたんです。
高校入学後は、横浜元町のイタリアンレストランでアルバイトを始めました。レストランのチーフに「高校生には、ここまでやらせないよ」とか言われながら、バイトとはいえ、ストーブ前をやらせてもらいました。腕を見込まれて「社員にならないか」とまで言われたほどです(笑)。

料理が趣味だった父を手伝い、料理の面白さを知る。

横浜で5年修業し、『ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション』へ。

高校卒業後は地元の料理専門学校に進みました。場所柄、卒業生は中華料理店やホテルの就職が多かったんですが、僕はフランス料理と決めていました。あるとき、バイトしていたレストラン近くのフランス料理店がスタッフを募集していました。すぐに面接をお願いし、就職が決まったのが『修廣樹(しゅうこうじゅ)』です。残念ながらもう閉店してしまいましたが、当時は横浜・元町の人気レストランで、ほぼ毎日満席。厨房には春成豊シェフを入れて5人しかいないので、いちばん下っ端の僕は毎日怒られながら、忙しく働いていました。振り返るとやっぱり修業時代は辛かったですね。何度も逃げ出したいと思いました。でもくじけそうなになると、必ずいいことがあるんですよ。春成シェフに仕事ぶりを褒められたり、お客さんに「おいしかったよ」と言われたり。それが辞めなかった理由ですね。そのうち先輩が先に辞めてしまい、どんどん仕事をやらせてもらえるようになっていき、最後はスーシェフにまでなっていました。とはいえ、順番が繰り上がっても、今までの仕事もしなくてはならないので、辛さも忙しさもほとんど変わらないんですけどね。
春成シェフはマルセイユやニースで修業され、野菜をふんだんに使う料理が得意な方でした。最初に働いた店がそういうスタイルだったので、いまの僕の料理もすごく影響を受けています。5年ほど働き、そろそろ東京で働いてみたいと思っていた矢先、シェフのほうから「ここまで仕事ができるんだから、第一線でやってみたらどうか」と、ありがたいお言葉をいただきました。嬉しかったですね。ちょうどそのとき、六本木にジョエル・ロブション氏が新しい店『ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション』を出すと言う話を聞き、面接を受けました。5年の経験があるとはいえ、僕はゼロからスタートする気持ちで面接を受け、入社することになりました。これだけできるという自信を見せるより、謙虚にいこうと、そんな気持ちで働き始めました。

横浜で5年修業し、『ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション』へ。

ロブションの哲学を学びながら、26歳でスーシェフに。

『ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション』のオープニングスタッフは、フランス帰りの人や、既にロブション氏の店で経験を積んだ人もいる20人の大所帯でした。それにひきかえ当時の僕は、ロブション氏の料理をほとんど知らなかったんです。それでオープン前の準備期間に、思い切って10万円ぐらいするロブション氏の限定料理本を買いました。その本には昔から今までのロブションの料理が全部載っていたので、相当勉強しましたね。この料理にはこういう食材を用意するとか、この料理はこんなふうに切っておくとか。だからいざ厨房に入っても、こうすればいい、とすぐに分かるほどになっていました。『ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション』は、ジョエル・ロブション氏がロングカウンターのオープンキッチンを実現した初めての店でした。シェフはクローズしたキッチンで料理だけ作っていれば良い、という考え方を改め、寿司屋のカウンタースタイルを取り入れた気鋭の店。ロブション氏自身もこの店には特に思い入れがあったので、年に3回来日し、1週間ほど店にいらしていました。その1週間、厨房はずっとピリピリしていましたね。全てにおいて厳格で、こだわりがすごい方なんです。例えば、野菜の切り方ひとつにしても、正確さと美しさを求められるので、料理人は全員、定規を持ち、さいの目切りなら五ミリ角、と定規で測りながら切るんです。あそこまで正確さを求めるシェフは世界中でも彼だけだと思います。でもそのこだわりや厳格さから学ぶことは、すごく多かったですね。
働き始めて1年半、僕はスーシェフを任されました。一度は辞退しようとしたのですが、当時シェフの須賀洋介さんから「ロブション氏も進藤で、と言っている」と聞き、引き受けました。須賀さん27歳、僕が26歳。ちょっとありえない若さの2人でした。スタッフはほとんど年上ですし、すごいプレッシャーでしたよ。店の土台を支える役割のスーシェフが優秀な店は、評価が高いんですよね。まだ26歳でしたので、自分自身の考えで動く年齢でもないし、経験も浅かったので、ひたむきにロブション氏の教えを忠実に守りながら、がむしゃらに働いていました。  (後半に続く)

ロブションの哲学を学びながら、26歳でスーシェフに。

フレッシュなとうもろこしで作る『ゴールドラッシュの冷たいスープ』。

今回お教えするのは、とうもろこしのスープです。コーンスープといえばポピュラーなものだし、安いし、どこでも食べられる料理。でもフランス料理の一品としてきちんと丁寧に作ると、こんなに素晴らしい料理になる、ということを伝えたくて選びました。いままで食べていたものは何だったのか、と思えるほど全く別物のコーンスープを味わっていただけると思います。それがフランス料理だと思っていますし、僕の料理修業の全てを凝縮した料理だと思い、このスープを選びました。
とうもろこしはフレッシュなものを使ってください。このゴールドラッシュは加熱用のとうもろこしです。最近は生で食べられる品種も増えていますが、この料理は加熱用の品種が合います。

ナチュラルなゴールドラッシュの冷たいスープ

ナチュラルなゴールドラッシュの冷たいスープ

コツ・ポイント

使用するとうもろこしは必ず鮮度の良いものを使う。包丁で身を削るとき、芯の部分まで削りすぎないこと。バターとコーンを加熱するときは煮るのではなく、炒めるイメージで。弱火でゆっくり火を通すことで甘みが増します。塩を入れるタイミングは火が通る前で。

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