ピックアップシェフ

永島 義国 SALONE2007(サローネ ドゥエミッレセッテ)  二枚看板のシェフが創り上げる クリエイティビティが魅力の横浜リストランテ。

細田健太郎 イタリア料理の伝統を守りながら、驚きに満ちた一皿を創り出す。

二枚看板のシェフが創り上げる クリエイティビティが魅力の横浜リストランテ。

昨年11月、バーニーズ ニューヨーク横浜店の地階に移転した『SALONE2007(サローネ ドゥエミッレセッテ)』。地元で長く愛されてきた以前の路面店の自由な空気はそのままに、エレガントで華やかに変わった上質な空間。伝統的なイタリア料理に革新的なアプローチをこらして昇華させたお料理がいただけるリストランテです。そしてシェフは細田健太郎さんと永島義国さんのダブルシェフ体制。2人の力で次々と新しい驚きの料理を完成させ、横浜に来ないと味わえないイタリアンを提供しています。後編では細田シェフのインタビューをお送りします。なお、紹介するレシピは後編も永島義国シェフにご担当いただきました。

最初に目指したのは美容師。しかしおいしいボンゴレ・ビアンコが作りたくて転職。

自分自身でも変わった経歴だと思いますが、実は料理人になる前は、24歳まで都内で美容師として働いていました。という話をすると、大概驚かれます。子供の頃の僕は手先が器用で、お菓子を焼いたり、料理を作ったりすることが大好きでした。入院している友達のために、チーズケーキを焼いてお見舞いに行ったことも。たぶん、何かを作って喜ばせることが、子供の頃から大好きだったんだと思います。お洒落に目覚める年頃になると、友達の髪を切ったり、ヘアカラーをしてあげたりしていました。将来は美容師になろうと決め、大学には進まずに栃木の実家を出て都内の美容学校に進みました。
卒業後は大手の有名美容室に就職できたのですが、「なんかちょっと違う」と感じ、半年で退社してしまいました。そこで次の仕事は探さず、バックパッカーの旅に出たんです。お金がないのでアジア圏ですが、タイやマレ―シア、インドを巡る旅。とくにインドがすごく楽しくて、ひと月ぐらい滞在しました。そのとき、自分の将来のことをじっくり考える時間があり、もう一度、美容師をやろうと決め、帰国しました。
当時のヘアカタログを見て、ここで働きたい、と思ったのが原宿にあった人気ヘアサロン『bape cuts』でした。運よく採用していただき、3年ほどお世話になりました。美容師時代には店のボスや先輩たちに、色々なレストランに連れて行ってもらいました、僕自身、上京して一人暮らしを始めたころからファーストフードやインスタント食品を一切食べるのをやめ、自炊するか外食、という食生活を守っていたので、おいしい店に行くことがなによりの楽しみでした。中でもお気に入りのイタリアンレストラン『ポルタポルテーゼ(現『ビオディナミコ』は、現在のサローネグループ代表を務める平高行シェフの店でした。

最初に目指したのは美容師。しかしおいしいボンゴレ・ビアンコが作りたくて転職。

24歳で飛び込んだ飲食業界。料理もサービスも徹底的に仕込まれた。

通い詰めるほど平シェフの料理に心酔し、「美容師のままではおいしいボンゴレ・ビアンコが作れないまま終わってしまう、それはいやだ」と思ってしまったんですよね。それで『bape cuts』を退社し、『ポルタポルテーゼ』で働くことになりました。いまでも美容師の仕事は大好きですし、明日からでもまた働けます。でも、おいしいボンゴレ・・・という気持ちの方が強かったので、あっさりと辞めました。友人たちには、もったいない!と言われましたが、心の中にわだかまりがあると気になってしょうがないし、とりあえずやってみて、ダメだったら諦めよう、そう思ったんです。
とはいえ経験はゼロですし、プロ用の包丁すら持ったことがなかったですからね。最初は洗い場、下ごしらえの手伝いやパンを焼く仕事から始めました。1年半ほど下っ端で様々なことをやらされました。自分の出来なさ、不甲斐なさが悔しくて、辛かったですよ。あまりに悔しくて奥歯をかみしめ過ぎて、歯が割れたこともあります。
2007年、横浜に『SALONE2007』がオープンし、ほどなくサービス担当として異動しました。リストランテのサービスは全く知らなかったので、支配人の藤巻一臣氏に一から徹底的に仕込まれました。1年後にキッチンに戻ってからは樋口敬洋シェフ(現総料理長)に料理のことをひとつひとつ教えていただき、徐々に成長し、料理に没頭していくようになりました。料理人の世界では「盗んで覚えろ」みたいなことが、大事にされていますが、ここでは教えて育てたほうが早い、という考え方。イタリア修業経験のある先輩も沢山いたので、いろいろ教えてもらいました。シェフになった今、僕はスタッフに対して、先輩にしていただいたのと同じように接しています。

24歳で飛び込んだ飲食業界。料理もサービスも徹底的に仕込まれた。

お皿を見てお客様から「えっ!?」と声が出るような料理を作り続けたい。

シェフを命ぜられたのは入社して8年目、2013年でした。先輩の渡部竜太郎(現在は独立)シェフとダブルシェフ体制でのスタートでした。これは僕の考えですが、ひとりのシェフだと、考え方や料理の方向性などが偏ってしまいます。うちの店では僕が考えた新しいメニューでも、必ずスタッフ全員が味見しますし、他のスタッフが作ったものも必ず全員で試食します。店の味は絶対にブレさせないという鉄則がキッチンには存在しているんですよね。渡部シェフが独立した後は、僕ひとりでシェフをやっていましたが、それでもやり方は変わらなかったですね。
5月からは永島シェフと再びダブルシェフ体制に戻りましたが、やりにくいと感じたことはありません。僕はイタリアでの修業経験がないので、イタリアで5年以上働いてきた経験豊富な永島シェフから、色々なことを聞けるのが面白い。どんどん聞き出して、それやりましょう!と決めたりします。自分もイタリアで修業してみたかったけど、たくさんのイタリア帰りの方々と仕事して来たので、いろんなことを教えてもらい、行ったくらいの知識はあると思います。
毎月のランチ、ディナーメニューは、キッチンのスタッフそれぞれがコースを考え、それを集めて会議にかけ、決めています。それもうちの店独自かもしれないですね。いい料理が出てくれば、新人の子が考えた料理でも採用するので、みんな本気で面白いものを見つけてきます。僕も新人の頃から出していました。毎回、樋口シェフから「はい、ダメ―」と却下され続けていましたけどね(笑)。
『SALONE2007』の料理は、イタリア料理のトラデイショナーレ(伝統)とレッジョナーレ(地域性)を守りながら、シェフの技術と感性で形を変えた「クチーナ・クレアティーヴァ」です。食材の組み合わせを変えずに調理や仕立てを変えることで、面白いもの、意外性のあるものを作り出しているのです。お出しした時に「えっ!?」という驚きを感じていただけるような料理を心がけています。アレとアレとの組み合わせで、マリネして・・・とか、いつもそんな妄想を膨らませながら仕事をしています。しかしどんな面白いもの、おいしいものを作っても、食べていただかなければ意味がないので、この『SALONE2007』が常に満席のリストランテになれるよう、努力していきたいと思います。  (終)  ※前編では、永島義国シェフのインタビューをご紹介しました。

お皿を見てお客様から「えっ!?」と声が出るような料理を作り続けたい。

旅先で習った『ブロッコリーの自家製オレキエッティ プーリア風』

(レシピ:永島シェフ) イタリア滞在中、ときどき2週間ほど休みをもらい、イタリア国内のいろんな場所を訪ねました。今回お教えするショートパスタ料理は、イタリア南部・プーリア州バーリで覚えた手打ちのオレキエッティを使っています。プーリア州はショートパスタが有名な地域で、オレキエッティやカサレッチェなどもプーリア発祥のパスタだとか。女性は「12種類のパスタが作れないと結婚できない」とまで言われている、そんな土地柄です。バーリの街を歩いていると、レストランの前にテーブルを出し、そこでマンマが手打ちパスタを作っているのですが、それもプーリアではおなじみの風景なんですよね。
オレキエッティは、僕もがイタリアに来る前から作っていました。でも、どうも違うなぁ、と思っていたので、マンマの作業にじーっと見入っていたら、ナイフと指を使って作ることが分かりました。それ以来、その方法で手作りしています。コツを覚えれば簡単ですので、ぜひご家庭で手打ちパスタに挑戦してほしいと思います。
イタリアではパスタソースに「チーマデラーパ」という菜の花とブロッコリーの中間のような野菜を使います。プーリア州のチーマデラーパは北イタリアのものとは違って、とくに菜の花に近く、特別な味わいがあるんです。手に入りやすいブロッコリーで作りましたが、ぜひ春には菜の花でも作っていただきたいですね。ブロッコリーは水で茹でています。フランス料理ならチキンのブロードなどで甘みを出すのでしょうが、水でも十分甘みが出ますし、ブロッコリーが煮くずれるほど加熱した方がおいしくなります。そういうシンプルなやりかたこそ、イタリア料理のいちばんの魅力だと思っています。

ブロッコリーの自家製オレキエッティ プーリア風

ブロッコリーの自家製オレキエッティ プーリア風

コツ・ポイント

パスタを茹でる鍋で一緒にブロッコリーを茹でる方法もありますが、ブロッコリーの香りを移すことでソースの味が格段にアップし全体が美味しくなります。まずお湯でさっと茹で、ソース用のフライパンでブロッコリーを加熱してつぶしながら、ソースに風味を移すのがポイントです。

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