ピックアップシェフ

後藤 祐輔 アムール  日本人にしかない感性を発揮し、進化するフレンチを見せたい。

次の目標は、世界に視野を向けたNIPPONのフランス料理の完成。

「カンテサンス」と「オトワレストラン」、一流店としての立ち上げに携わる。

フランスから帰国して、店の立ち上げから働かせていただいた『カンテサンス』では、毎日のメニューがシェフから発表されるたびに驚き、学ぶことの連続でした。シェフの右腕として働かなければならなかったのに、僕の知識がまだまだ不十分だったせいで、岸田シェフが求めるものに十分に応えることができなかったジレンマもありましたけど、その一方で面白かったですね。とにかく発想が全く違うので、僕の辞書にないことばかり要求されて、そのたびに衝撃を受けていました。もっと長く働きたかったのですが、家庭の事情で栃木に移り住むことになります。
実はフランスに渡る前に結婚し、子供もいたのですが、ずっと妻に子供を任せ、単身赴任状態で働いていました。フランスに居た1年半は、全く家族に会っていなかったし、帰国早々から『カンテサンス』でも多忙な日々が始まり、ほとんど家族と会えない生活を送っていたのです。そろそろ家族と一緒に暮らしたいと思っていたところ、以前から面識のあった音羽和紀シェフから、宇都宮に新規オープンする『オトワレストラン』にお誘いをいただきました。栃木では妻の実家で妻と子供たちが暮らしていたし、料理人としての集大成として新たに店を作りたい、という音羽シェフの熱い思いをお聞きしていたので、僕にとっては願ってもない、嬉しいお誘いだったんです。東京から栃木に移り住み、約2年間『オトワレストラン』で働かせていただきました。やっと家族と一緒に生活することができ、仕事も楽しかったのですが、30歳という人生の節目を目前にして、シェフになりたい、東京に戻りたい、という気持ちが少しずつ湧き上がっていきました。

「カンテサンス」と「オトワレストラン」、一流店としての立ち上げに携わる。

1年間の期間限定で、若手シェフを育てるレストランで働く。

30歳でシェフになる、という目標はあったものの、当時の僕には、その可能性はほとんどありませんでした。そんな矢先、美食家の来栖けいさんから、シェフをやってみませんか、という嬉しいお話をいただきました。来栖さんは『オトワレストラン』にお客様として来ていただいたことがあり、それから間があったにも関わらず、新規オープンするレストラン『エキュレ』のオープニング・シェフとして、僕を招いてくださったんです。遂に、昔からの目標だったシェフになれるし、東京に戻れるし(笑)、それはもう、すごく嬉しかったですね。
『エキュレ』は、来栖さんが「若手シェフが、独立前に思いっきり腕をふるえる場所を提供したい」というお考えで作ったレストランでした。その最初のシェフとして呼ばれたのは光栄でしたし、1年間の限定シェフ、というのも僕にとって都合が良かったのです。そのコンセプト通り、自分のやりたいように自由にやらせていただきました。シェフとして指揮を執るのは初めての経験だったので、すべて一からのスタートでした。食材の仕入れから、スタッフとのやりとり、お金のことまで様々なことを勉強させていただき、相当に濃厚な1年間を過ごしました。実際、自分で店を切り盛りしてみると、いままで想像していたことと全く違ったことも多くあり、料理人としての知識をかなり蓄えました。しかし僕にとっていちばん大きい収穫は、この店をきっかけに、料理人として自分がやるべき方向性が決定したことだと思っています。

1年間の期間限定で、若手シェフを育てるレストランで働く。

これは日本料理じゃないか、と言われたら、むしろ嬉しい。

僕が自分の料理のモットーとしているのが≪NIPPONのフランス料理≫です。ひとえにフランス料理と言ってもクラシックな料理から、最先端のモダンな料理まで幅があり、さらに地方料理やイタリア寄り、スペイン寄りの料理など、本当にいろいろあります。僕がここまでやってきて感じたのは、時代と共に、料理は変化していかないといけないということ。でも変わり過ぎて基本からずれたものになるのは間違っていると思います。いちばん大事にすべきことは、お客様が絶対においしいと言ってくださるものです。そこをはき違えてはいけないと思うんです。
日本人として日本でフランス料理を提供している以上、どうしても矛盾が生じます。では日本人シェフとして何かできるかと言えば、間違いなくフランス料理のベースは捨てないで、日本人だからこそできる料理です。それを日本人の感覚、テイストでやっていこうと決めました。2012年に『Amour』のシェフになってからも、その大事な軸がブレないよう、日々研究してきましたし、これからもそうやって進んでいくと思います。『Amour』がオープン僅か半年で、ミシュランガイド東京の一つ星を獲得したときには、僕が頑なに守ってきたやり方が認められたような気持ちがして、本当に嬉しかったですね。
僕がずっと大事にしてきたことは、できる限り日本の素材を使おうということです。例えばキャビア、フォアグラ、トリュフなど日本で手に入らない食材を使うことをもあります。しかし無理やり使うわけでなく、必要なら使う、その程度で良いでしょう。実際に僕が今使う食材は、9割近くが日本のもの。それで不便を感じたことはありませんし、日本の四季を反映させることができます。やはり日本人の味覚は、欧米の方々よりずっと繊細なので、日本の食材のほうがその味覚を満足させられるのです。僕の料理を召し上がった方に、これはフレンチではなく日本料理じゃないか、と言われても、それは嬉しい評価だと感じます。
『Amour』のシェフになって5年目に入りました。自分の持ち味はだいぶ発揮できているし、やりたいことも少しずつですが、できていると思います。近々、店が移転する予定なので、その機会に、店のコンセプトも見直す予定です。まだ明確には決まっていませんが、もっと僕がやりたいことを突き詰めて料理のクオリティを上げたいですし、日本人らしさを失わずに、世界に発信できる店作りをしてきたいですね。いままでは日本人の方々に向けての料理でしたが、新しい店では世界に視野を向けて料理を作っていきたいと思っています。つい先日、世界へ向けての初の仕事として、モーリシャスで開催された『第11回ベルナールロワゾー 食の祭典』に、アジアから初選出という名誉を受け、招致をしていただきました。これからもこういう機会が増えることを願いながら、日々の仕事を大切にしていきたいと思っています。   (終)

これは日本料理じゃないか、と言われたら、むしろ嬉しい。

とかちマッシュのクリーミースープ カプチーノ仕立て

シェフになってから、たくさんの素晴らしい国産食材に出会いましたが、中でも衝撃的な出会いだったのが、北海道・十勝で栽培されているマッシュルーム「とかちマッシュ」です。『エキュレ』でシェフをしているときに紹介された食材ですが、高い香りと食感に衝撃を受けたほどです。そしてこの「とかちマッシュ」から誕生したスペシャリテ『美白』は、「とかちマッシュ」とカワハギの刺身を合わせ、カワハギの胆のソースで仕上げる僕の自信作にもなっています。
今回お教えする料理は、この「とかちマッシュ」を使ったクリーミーなスープ。作り方はフランス料理の基本そのものですので、この方法をおぼえていただけると、他の野菜を使うスープやポタージュ作りにも応用できます。「とかちマッシュ」が手に入らない場合は、フレッシュなブラウンマッシュルームをお使いください。ホワイトマッシュルームより、ブラウンの方が高い香りがありますので、おすすめです。温めたミルクをミキサーで泡状にしたミルクスチームをふんわりと乗せると、いっそうお洒落な一皿になりますよ。

マッシュルームのクリーミースープ カプチーノ仕立て

マッシュルームのクリーミースープ カプチーノ仕立て

コツ・ポイント

ニンニクとエシャロットは、火加減に気をつけ、絶対に焦がさないように気をつけて。 火が通ったマッシュルームなどをミキサーにかけるときは、なるべく長めにミキサーを回しましょう。 口あたりがずっとなめらかになります。

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  • 文:北條尚子
  • 写真:キッチンミノル