食材と生きる

香川県小豆島 島宿 真里 眞渡康之

小豆島の南東部、醤油蔵が並ぶ町の一角。ここに、2000年にオープンして以来高い人気を誇る「島宿 真里」がある。稼働率90%を超えるこの宿の人気の秘訣のひとつは、「醤油会席」など島の特産品を使った料理の数々。前編では、真里ができるまでの来歴と、主人・眞渡康之さんの朝の様子を聞いた。

宿泊客の一言が、「いい宿を作る」という決意につながった

僕は母が40過ぎで産んだ子でして、父を2歳のときに亡くしました。以来、母はここで小さな民宿をしよったんです。まあお世辞にも立派な宿ではなくて、泊まりに来てくれたご家族の子どもさんが「お母さんホントにここに泊まるの?」って。僕はそれを聞いて、えらいショックでした。それからでしょうね。いつか自分の泊まってみたい宿を作るぞと心に決めました。

高校を卒業した後は島を出て、調理師の修業をしまして、26歳で小豆島に戻りました。そこで宿を始めようと思ったのですが、資金が足りなくて、金融機関からも「何か実績を」と言われて始めたのが、宴会料理や弁当を作る仕出し屋です。4年目からは宴会場を作り、新忘年会などで使っていただけるようになりまして、いよいよ金融機関からも融資がおりました。

宿を開業してからは、地元の方々には申し訳ないと思いながらも宴会を一旦止め、宿のクオリティ向上に努めました。やっと2年前から、宴会やお食事のみのご利用も再開できたんです。開業後も、2000年、03年、07年、10年と4回リニューアルを図りました。料理を進化させて、宿のハード部分も向上させています。

「真里」の母屋と離れは、国の登録有形文化財に登録されている。実家で使っていた建具や、醤油蔵解体時にでた古材が所々に使われており、モダンさがありながらもどこか懐かしく居心地の良い空間だ。

▲「真里」の母屋と離れは、国の登録有形文化財に登録されている。実家で使っていた建具や、醤油蔵解体時にでた古材が所々に使われており、モダンさがありながらもどこか懐かしく居心地の良い空間だ。

「ひしおでもてなす」というコンセプト

「島宿 真里」では、コンセプトとして「ひしお(醤)でもてなす」を掲げています。

宴会料理を出していた頃に「醤油会席」を思いつき、再仕込み醤油と諸味だれの2種類出したりして、味比べを楽しんでいただくということもしていたんです。

しかし改めて宿を始めるという時点で、何がここにあるのかよう分からなくなったんです。小豆島には何でもあるんですが、明石の蛸や広島の牡蠣のような、飛びぬけて「これ」というものが見えなかった。

しかしそのとき、設計士の香川眞二さんが「お醤油がありますやん」と一言。はっとしましたね。ああ、醤油会席を基にすればいいのかと。あんまりにも身近すぎて、見えなくなっていたのかもしれません。

「ひしおでもてなす」というコンセプト

「ひしお(醤)」という呼び方も、当時はまだ、そこまで世に知られていませんでした。そこで改めて「ひしおでもてなす」を軸に、料理も考えていったんです。リニューアルのたびに料理も見直して、色々な蔵のお醤油の造り違いなどを試してもらおうと。4種類のお醤油がのるトレーを漆芸の作家さんに作ってもらって、味わいの違いを楽しんでいただいています。

8年前に料理長を室田に譲りました。独立した料理人たちもいて、若い人の活躍を見ると嬉しいですね。

8年前に料理長を室田に譲りました。独立した料理人たちもいて、若い人の活躍を見ると嬉しいですね。

来年2016年、小豆島の「堀越」という場所に、全く新しいコンセプトでもう一つの宿を作る予定です。建物のすぐ先が海で、海と空しかない。そんな場所です。

地のものを使うというコンセプトはぶれません。2軒目の宿はむしろ、もっと堀越地区にフォーカスして、地域の人たちが栽培した野菜などを使ってみたいと思っています。海も近いので、魚にも力を入れます。

菜、魚、肉。すべて揃う豊かな島を、よりよくするために

その日の朝、眞渡さんの仕入れに同行した。朝8時、まず向かったのは鮮魚店。次々と魚を選び、慣れた手つきで魚の血抜きをする。

あと30分ほどしたら、他の港から魚が来る。前日が時化だったから、今日は期待できないでしょうね。

野菜、魚、肉。すべて揃う豊かな島を、よりよくするために

どこでも問題にはなっていると思いますが、ここ小豆島でも漁師さんの高齢化があります。平均75歳で、60代だと若いほう。漁師を継げる息子も少ない。

僕らは魚を加工して“価格”をつけられるけれど、漁師さんはつけられない。だから僕らが、若い世代のことを考えてなんとかせんと。若い人が漁業で生活できる仕組みづくりについて、仲間と話しているところです。

池田港にある野菜の直売所。「開店して10分間が勝負(笑)」。週末になると「オリーブ牛」やイチゴの特売があることも。

▲池田港にある野菜の直売所。「開店して10分間が勝負(笑)」。週末になると「オリーブ牛」やイチゴの特売があることも。

「真里」の近くは醤油と佃煮が特産ですが、直売のある池田町は農業とそうめんが盛んな地域です。オリーブも全国的に人気があり、小豆島の農業は比較的安定しているように思います。次の課題は魚、そして肉でしょうね。

直売所は自分で値段つけられるから、生産者さんが頑張るほど収入が上がる。同じようなシステムで、魚介類の直売所ができればいいですね。そして肉。「オリーブ牛」などもありますが、小豆島は野生獣も多いんです。人より獣のほうが多いくらい(笑)。イノシシが四国から泳いでくるんですよ。13キロくらいある海を泳いで渡ってきて、やあイノシシも泳ぎがうまいなあと言っている間にどんどん増えて、今では年間数百頭を狩猟しているのに増え続けている。鹿も多いです。それこそ生け捕りにして、オリーブを食べさせてみたら良さそうですやん。これも、流通のルートを作りたいですね。

魚屋、野菜直売所で仕入れたら、宿の裏手のこの畑。毎日同じルートです。

魚屋、野菜直売所で仕入れたら、宿の裏手のこの畑。毎日同じルートです。3年前までは母が手入れしてくれていたんですが、やりきれなくなりまして、僕と従業員でやっています。

夏みかんや金柑、すだちなどの柑橘と、色合いのあるちょっと変わった野菜を育てて、お造りの脇に添えたり、ウエルカムドリンクや香草茶(レモングラスウォーター)に使ったりしています。農薬を撒く暇がなくて、なんといいますか、「消極的有機栽培」ですね。結果的無農薬野菜と言ってもいいかな(笑)。

「真里」の料理は、こうした地のものを使って作ります。その軸となっているのは、何といっても醤油、そして最近では「オリーブごはん」をよく取り上げていただきます。どちらも実直に作られている生産者なので、ぜひ行ってみてください。

そう言って、眞渡さんが紹介してくれたのは「正金醤油」と「高尾農園」。後編ではこの2つの造り手たちを紹介します。

(後編へ続く)

ちりめんと大根葉の煮麺(にゅうめん)

ちりめんと大根葉の煮麺(にゅうめん)

コツ・ポイント

「小豆島の特産品、素麺を温かいお出汁でいただく煮麺(にゅうめん)です。私たちもランチでお出ししているのですが、それを少し家庭向けに大根とちりめんで作りました。大根葉は浅漬にしたものを使うとよりおいしく仕上がります」(真里料理長・室田さん)

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島宿 真里

島宿 真里

〒761-4421

香川県小豆島醤油蔵通り

TEL 0879-82-0086

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  • 文:柿本礼子
  • 写真:牧田健太郎