食材と生きる

香川県小豆島 島宿 真里 眞渡康之

小豆島の南東部、醤油蔵が並ぶ町の一角。ここに、2000年にオープンして以来高い人気を誇る「島宿 真里」がある。後編では、真里の料理を彩る小豆島の名産、醤油とオリーブオイルの生産者を訪ねた。

正金醤油:正直な造りに惚れ込んで

「真里」では、4蔵の小豆島産醤油を使っている。

中でも「正金(しょうきん)醤油」の醤油は、「生(き)揚げ」という加熱処理をしないものなど、醤油の魅力をよりディープに楽しめるようなラインナップ。「真里」でしか味わえない特製もある。

「正金醤油さんの魅力は、原料も造りも、全て正直にまっとうなこと。よいものをきっちりとお造りになっています。これほどのクオリティでこの価格でしたら、安いと僕は思います」と眞渡さん。

正金醤油:正直な造りに惚れ込んで

「以前は卸が中心のお醤油蔵さんでしたが、お付き合いの中で、諸味や生揚げなど、醤油蔵からしてみると“未完成”の醤油を分けていただけるようになりました。加熱処理前の、搾りたての醤油の香りもまた格別です。

醤油蔵の造り手さんは変わらないことがいいと思っている方が多いけれど、僕らはそれだけだとは思いません。素晴らしい醤油蔵だからこそ、様々な形で魅力を伝えたいと思うのです」

小豆島の醤油蔵には、「こが」と言われる巨大な醤油桶を現役で使っているところが多い。容量は30石(5400リットル)。正金醤油の杉桶にも熟成した深い茶色のもろみが桶に眠っていた。

▲小豆島の醤油蔵には、「こが」と言われる巨大な醤油桶を現役で使っているところが多い。容量は30石(5400リットル)。正金醤油の杉桶にも熟成した深い茶色のもろみが桶に眠っていた。

櫂(かい)でかき回すとベンガラのような深い赤色の液体が。寝かす年数が長いほど、色に深みが増してくる。「1年目の夏は発酵、その後は熟成期間に入ります。好ましくない菌の繁殖を防ぐために、かき混ぜて表面の塩分濃度を一定に保つのです」と、社長の藤井泰人さん。麹の仕込みは冬の間のみ。大量生産よりも、昔ながらの無理のない造り、長期熟成で出る深い味わいを大切にしている。

大豆は富山や山口から、小麦は北海道などから。どちらも国産にこだわり、産地と品種を常にホームページで公開している。国産丸大豆醤油は正金醤油の誇りだ。

安さではなく、スペックだけでもなく、「味」で勝負したい

その昔、小豆島は塩の産地として栄えた。島の塩を元にして、醤油が産業化されたのは1800年代。明治時代、醤油生産の近代化に産官学連携でいち早く取り組んだことが、今日まで醤油産業が残る礎となった。

正金醤油の藤井さんは言う。

「明治の中頃には小豆島に400余りの醤油がありました。明治37年に苗羽地区の醤油組合47社が参加して試験場(今の発酵食品研究所)を作ったんです。その後、小豆郡(小豆島)立になり、香川県に委譲し、明治43年には県立の工場試験場になりました。試験場設立にあわせて東京帝国大学から先生を呼んで、最新の研究結果を共有しました。だから私たちのような小さな醤油蔵も恩恵を受けられ、小豆島の醤油が今に生き残れたのだと思います」

正金醤油は、かつて佃煮の原材料としての醤油も造っていた。しかし原料高騰と価格競争の中で次第に疲弊していく。

「卸価格は1リットルで100円もしない。これでは原料も脱脂大豆を使わざるを得ない。熟成期間もとれません。でも、それは違うと。安さを追求する競争ではなく『味』で勝負をしなければ、という思いがありました」

安さではなく、スペックだけでもなく、「味」で勝負したい

そこで27年前に取り組んだのが、国産丸大豆醤油。大手醤油メーカーも当時は丸大豆醤油を作っておらず、自然食品店にいくつか並ぶのみだった。

「そうした丸大豆醤油も、大豆は外国産、小麦も外国産を使うことが多く、国内産を使う場合でもうどん用の中間質小麦で作られているところが多かったんです。外国産の大豆は、今でこそ豆腐用に作られているものがありますが、当時は油を絞るための栽培されていたものが多かった。だから成分も違うし、味も違うんです。だから大豆はフクユタカ、小麦はハルユタカと、国産のいい原料で造ろうと舵を切ったのです。でも国産原料だから、丸大豆だからいいという“安心・安全”だけを売るのではなく、きちんと味で勝負をしたいと思いました」

24カ月かけて発酵熟成させたもろみを搾った「桶仕込濃口 純」、醤油で仕込む再仕込み醤油「二段仕込 匠」という看板商品のほか、藤井さんの自信作は薄口醤油。

24カ月かけて発酵熟成させたもろみを搾った「桶仕込濃口 純」、醤油で仕込む再仕込み醤油「二段仕込 匠」という看板商品のほか、藤井さんの自信作は薄口醤油。

「1年かけて仕上げたシンプルな醤油です。甘みや尖った塩辛さを感じる薄口醤油が多いと思いますが、これは色の淡さの割にはしっかりとした“味”があります」

決して個性的な味わいではない。おとなしい印象の醤油だ。

「料理に合わせる、料理に使うということを一番に考えて造っています。いい原料を使って、きちんと管理して、クセのないきれいな品質の醤油を造る。個性が立たないというのが自分たちの腕の見せ所。それが私たちの醤油ですね」

高尾農園:新規就農のオリーブ園を応援したい

小豆島はオリーブ産地としても知られている。

高尾農園:新規就農のオリーブ園を応援したい

1908年、小豆島・三重・鹿児島の3カ所に試験栽培されたオリーブの木。唯一実をつけたのは小豆島の木だったことから栽培が広がり、今でも香川県は全国のオリーブ収穫量の99%を占める。繊細で柔らかな風味の小豆島産オリーブオイルは和食にも合うと人気が高い。

「真里」でもいち早く和食にオリーブを使う試みをしていた。

「3~4年前までは単一品種のオリーブオイルを数種類用意した『利きオイル』や、新漬けオリーブの食べ比べなどをしていました。ところが今は需要が高くて供給が追いついておらず、私どもも手に入りません。

その中でも、オリーブの時期に美味しく召し上がって頂けるような代表料理を長らく考えていて、できたのが『オリーブごはん』です。

その中でも、オリーブの時期に美味しく召し上がって頂けるような代表料理を長らく考えていて、できたのが『オリーブごはん』です。

あるとき料理長の室田が、ごはんにオリーブオイルをかけるという食べ方を提案したいと、オリーブの新漬けの炊き込みごはんを作りました。でも最初は、斬新で自分たちはおいしいとは思ったけれど、これは身内びいきの評価なのではないか、お客さんは本当においしいと思ってくださるのかと悩んだんです。自分たちでは良し悪しを判断できず、たまたま取材でいらしていた女性誌の編集者さんたちに試食してもらったところ大好評を頂きまして、翌年には『オリーブごはん』の取材にもいらしてくださいました。ちょうどその頃『高尾農園』の高尾豊弘さんにお会いしたんです」

以来「真里」では、オリーブごはんに入るオリーブ新漬けも、ごはんにかけるオイルも高尾農園のものを使用。『真里』オリジナルのオリーブ新漬けも、高尾さんが育てたオリーブを使い、宿で渋抜きと塩漬けをしているという。

知るほどに面白くなるオリーブオイルの世界

高尾豊弘さんは小豆島の出身。実家は呉服屋を営んでいる。

「私も家(呉服屋)の手伝いをしていたのですが、ある日突然『オリーブをやろう』と思い立ちましてね(笑)。最初は健康管理にいいかなと始めたのですが、色々と知るうちに楽しくなりまして。オリーブが出来るまで、様々な苦労があり、実がなったときには何とも言えない達成感がある。次の課題も見えてきて、どんどんのめり込むようになりました」

知るほどに面白くなるオリーブオイルの世界

2006年に耕作放棄地だった祖父の山を開墾し農地再生をし、07年にオリーブの苗を植え始めた。以降、少しずつ農地を拡大しながら08年に法人化、09年からはオリーブオイルを搾り始めたという。

米国の大学UC Davis校で搾油技術を、オーストラリア研修で新品種や栽培技術について学ぶなど、旺盛な探究心でオリーブ栽培、搾油技術を上げ、一気に高品質オイルの仲間入りを果たした。オイルは欧州など主要なオリーブ生産国が加盟する「国際オリーブ協会(IOC)」の基準を満たした正真正銘の「エキストラヴァージンオイル」。高尾農園では毎年、サンプルを送ってこの認定を受けている。

▲小豆島の醤油蔵には、「こが」と言われる巨大な醤油桶を現役で使っているところが多い。容量は30石(5400リットル)。正金醤油の杉桶にも熟成した深い茶色のもろみが桶に眠っていた。

▲小豆島の醤油蔵には、「こが」と言われる巨大な醤油桶を現役で使っているところが多い。容量は30石(5400リットル)。正金醤油の杉桶にも熟成した深い茶色のもろみが桶に眠っていた。

「今はミッション種、ルッカ種の2種類のオリーブが中心です。来年以降は、単一品種のオイルを理想の味に近づけるのが目標ですね。 夏に雨が少ないオリーブ産地と比べ、日本はオリーブの開花から結実の時期に梅雨が重なっていて、気候から見て適地とは言い難いとは思います。でも日本のオリーブオイルの柔らかい風味は、和食とは相性がいいということもあるでしょう。私はここで、日本ならではのオリーブが作れたらいいな、と思っています」(高尾さん)

「真里」の眞渡さんは言う。

「真里」の眞渡さんは言う。

「自分の商売だけではなくて、次の世代のことを考える齢になってきて、若い人たちが小豆島に住み続けられる仕組みについてよく考えるようになりました。僕ができるのは、宿を広げて雇用を促進したり、地場産品を積極的に使って味をたくさんの方に伝えたりすることだと思っています。

僕が『高尾農園』のオリーブを使うのは、味がいいということはもちろんですが、高尾さんの人柄に惚れ込んでということも大きいです。勉強熱心で、新しいことにも常にチャレンジしている。もともと住んでいた方にしても、Iターンで移住した方にしても、小豆島で新規就農した人はチャレンジ精神が豊富ですね。僕は“使い手”として、彼らを応援したいですね」  (終)

里芋の炊き込みごはん

里芋の炊き込みごはん

コツ・ポイント

「私どもの名物料理に新漬オリーブを炊き込んだ『オリーブごはん』がありますが、こちらはその応用です。今回は里芋を使いましたが、魚介でもおいしくできると思います。ごはんをお椀によそいましたら、お好みでフレッシュなオリーブオイルをひとたらししてお召し上がり下さい」(真里料理長・室田さん)

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島宿 真里

島宿 真里

〒761-4421

香川県小豆島醤油蔵通り

TEL 0879-82-0086

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  • 文:柿本礼子
  • 写真:牧田健太郎