食材と生きる

佐賀県唐津市 鮨処 つく田 松尾雄二

屋根のついた大きな建物に、鮮魚店を中心として、青果店、精肉店など生鮮食料品店11軒が軒を連ねる。ここは唐津の中心部にある“産栄市場”だ。

開店は朝7時。10時頃までは飲食店の店主たちが今日の魚を買いに来る。お昼からは一般客の買い物の時間だ。

唐津のすし店“つく田”店主・松尾雄二さんの朝は、店から歩いて30秒の産栄市場に行くことから始まる。目指すは“大山鮮魚店”だ。

「ここの2代目が、小学校時代の後輩なんです」と松尾さん。それに応えて、はにかむように店主の大山仁士さんが笑う。奥できびきびと魚を捌いているのは息子の拓朗さんだ。

「ここの2代目が、小学校時代の後輩なんです」と松尾さん。

目利きができて、気心が知れた専門店の存在が財産

松尾さんは、大山さんと世間話を交えながら素早く魚を選んでいく。

「東京だと築地市場に行ったり、漁師さんや漁港から直接引いてきたりもするでしょう。そういう意味では、海(漁場)に近い唐津は恵まれているといえるかもしれません。

ただ、唐津の魚市場は小さいですから、魚種は限られています。コハダなどは値が安すぎて市場に揚がってきません。しけが続くときには本当に魚がないですよ。ですから、魚の目利きができて、ウチで使う魚のことをよく理解して仕入れておいてくれる、気心の知れたお魚屋さんの存在が大切ですね」

必ず使いたい魚種があれば予め伝えておくが、いつも注文は「いい白身があったらよろしくね」などと特定しない。松尾さんの姿が見えると、大山さんが奥から魚を取り出して「これ、使えるかと思って」。「おお、いいね」と松尾さん。隣の鮮魚店と、向かいの青果店で足りないものを買い足して、仕入れが終わる。

「野菜料理は、お客様が求めていると感じます。体にすっと抜ける野菜料理は、食べた後が楽ですね。それが食事の理想です。すし屋でもいかに野菜を、すし前の肴としてお出しできるかと工夫し、漬物やおひたしといったものに少しずつ使っています。

ただ、使う量はそこまで多くはできません。ですから生産者さんからの直送よりも、新鮮な状態で使い切れる量を八百屋さんから買ったほうが現実的ですね。ただ、米と自然薯の2つは、生産者から直接仕入れています」

そんな折、知人を通して唐津焼を代表する陶芸家、中里隆さんに会う機会を得る。

唐津の名物「自然薯」を、無農薬栽培で特産品に

「昨年(2013年)でしょうか。やっと無農薬栽培の自然薯がうまくできるようになったということで、知人にご紹介いただいたのが佐々木励(つとむ)君。これからの唐津の農業を牽引する若者の一人となると期待しているのです」そう松尾さんに紹介され、“ささき農園”を営む佐々木さんを訪ねた。

虹の松原から山の方に行くと、野田温泉が見えてくる。湯治場の風情を残した温泉を通過し、さらに山を登る。頂上が自然薯畑だ。

佐々木さんは言う。

「僕は26歳で、百姓のじいちゃんに弟子入りしたんです。自然薯は『自然のイモ』と書くのだから、無農薬・無化学肥料が理想だと言われていました。しかしものすごくデリケートな野菜ゆえ、どうしたら無農薬・無化学肥料で育てられるのか見当も付きませんでした。

あるとき、無農薬でりんご栽培をしている木村秋則さんの本を読んでいたときに『自然薯作りには、もともと自然薯の生えている土がいいはずだ』と閃いて、山に飛び出したんです。そして、荒地だった山の山頂でムカゴ(自然薯の葉の付け根にできる球芽)を見つけました。もうここしかない!と興奮しましたね。それからじいちゃんと二人、3年がかりで開墾し畑にしました。この山の土は白肌で粘りが強い自然薯作りには欠かせない綺麗な赤土の山です。」

唐津の名物「自然薯」を、無農薬栽培で特産品に

また畑に入れる堆肥にもこだわり、野田温泉を流れる小川の草を年に2回刈り取り、米ぬか、もみがら、鶏糞など地元唐津産のものを混ぜて堆肥を作り畑に還す。地域循環型農業への挑戦だ。

綺麗な温泉水を守るためにも農薬、化学肥料は使用しない。

唐津の自然薯は、江戸時代、藩主への年貢として納められていたという記録があるほどの名物だ。唐津神社の例大祭〈唐津くんち〉では、粘り強く長生きできるようにという願いを込めて自然薯を食べる風習も残されているという。夏目漱石の〈吾輩は猫である〉にも、唐津の友人からもらった高価な自然薯を泥棒に盗まれるという話が出てくる。

10年前より無農薬の自然薯栽培に取組んできた。2010年には有機JAS認証を取得。しかし種芋が腐り全く出荷ができない年が続き、限界を感じていた2013年春、種芋を植え付けるタイミングを工夫したところ、芽を出す薯が増えた。 今年の作付けも順調だ。

「“つく田”さんで自然薯を使ってもらえて、誇りに思います。生産する仲間を増やして『唐津の自然薯』を広めていきたい」と佐々木さん。

自然薯を使う松尾さんは言う。

「魚や野菜など、地場の産品を広めるお手伝いは、今後積極的にしていきたいですね。私は野菜は作れませんが、魚や野菜に<手当て>をすることはできる。加工品にすることで、唐津の漁師さんや生産者さんの収入を安定できるような仕組み作りは、これから考えていきたいことの一つです」

自然薯を使う松尾さんは言う。

酢飯は常に、試行錯誤

“つく田”で使う米は、松尾さんの高校時代の同級生が栽培しているものだ。場所は、唐津から北に位置する上場(うわば)地区。高台に位置するため、夜露をかぶる上場のコシヒカリは、佐賀県の米の中でもトップクラスといわれている。

「開店当初は、食糧法により米の自由化がされていませんでした。特定の農家から買う事ができなかったのです。しかし店を持った翌年が平成米凶作で、市場にタイ米しか出回らなくなったのです。そのときコシヒカリを融通してくれたのがその同級生。本当にありがたかったです」

栽培方法や品種などを指定することはない。信頼関係がいい米を作り、それを使うという当たり前の贅沢を支えているのだ。

合わせ酢の配合は、開店当初は銀座“きよ田”から教えてもらった割合だった。「開店して半年経ち、マグロに重点を置かなくなった頃から、しょっぱく感じるようになりました。マグロに合わせた配合だったのかもしれないですね。そこで教わった配合から塩を減らして、焦点を白身魚に合わせました。合わせ酢だけではなく、シャリの炊き方もどんどん変わりました。どのくらい水に浸すか、どう炊くか、お水は何がいいか。これはどのすし屋もやっていることでしょう」

栽培方法や品種などを指定することはない。信頼関係がいい米を作り、それを使うという当たり前の贅沢を支えているのだ。

理想の酢飯の硬さについて聞くと、こんな答えが返ってきた。

「お客様に届くまでは形が崩れちゃいけません。つまんだときには崩れずに、口の中に入ったときにすっとほぐれる、それが理想です。シャリ自体に粘りがありすぎるとほぐれない。一粒ひとつぶが立つような炊き加減を探ります。毎日同じようにできないので、そこが一番ぶれがあるところ。今でも試行錯誤です」 (終)

鰆のかぶら蒸し

鰆のかぶら蒸し

コツ・ポイント

「一年で最も冷え込む、1月、2月にお出ししている料理です。お吸い物には甘みをつけないのが“つく田”流。魚は鰆のほか、甘鯛などでもよろしいです。皮があるほうがおいしいでしょう。自然薯が手に入らないときは、大和芋で代用できます

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鮨処 つく田

鮨処 つく田

〒847-0051

佐賀県唐津市中町1879-1

TEL 0955-74-6665

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  • 文:柿本礼子
  • 写真:牧田健太郎