名店のまかないレシピ

鈴木広明 / 赤坂 四川飯店 ふわとろに仕上げるニラ入り玉子とじ丼

ピリリと辛い麻婆豆腐をはじめ、日本人に親しみ深い四川料理。その伝統の味を日本に広めた店として知られるのが「赤坂 四川飯店」です。陳建民シェフのもとで修業を積み、料理の鉄人、陳建一シェフの後を継いで2001年より同店の料理長を務める鈴木広明シェフは、就任当初から「まかないの時間」を大切に考えてきたと言います。鮮やかな炎が上がる厨房の中、大きなステンレスの調理台を拭き上げたら"食卓"の完成。大皿からおかずを取り分けながら、自然と会話も弾みます。

きれいに盛り付け、時間を守る。まかないで身につける料理人の基本

きれいに盛り付け、時間を守る。まかないで身につける料理人の基本

僕が常日頃思っているのは、自分たちがおいしいと思えるものを気持ちを込めて作れなければ、お客様においしいと思っていただける料理は作れないということ。だから、まかないは料理人にとって大切な修業の場なんです。

ちょっと古くなったお野菜や、野菜の端なんかを活用しながら、いかにおいしいものを作れるか。しかも、うちの場合は、日によっては60人分くらい作る日もありますから、量の計算も一苦労。料理人にとって不可欠な「工夫する力」や「創造性」が鍛えられるのが、まかないの準備です。

うちのまかないは、1日3回。昼営業前の朝10時半頃、ランチのオーダーストップ後の14時半頃、夜のオーダーストップ後の21時過ぎに、厨房のみんなで一緒に食べています。

作る献立と担当はそれぞれ違って、朝は1年生担当で前日の残り物を活かした献立を。中華鍋を一人前に扱えるようになるための練習ですね。

昼は、あえて「中華以外」の献立を2年生が作ります。やはり中華料理のシェフが中華料理しか作っていないと、味付けや盛り付けの発想が広がりませんからね。週末は大勢のパーティーの予約が入って忙しくなることが多いので、日曜日は手が空いた時にササッと食べられるカレーやシチューを作るのが定番になりました。

夜のまかないの担当は5年生以上で、お客様にお出しする料理と同じ素材を使って、同じように作る料理を作ってもらう“本番”に向けた練習です。「シェフもお客様と同じ料理を食べて勉強する」というのは昔からの店の伝統ですが、ありがたいことだと思います。

僕にももちろんまかないを作っていた時期がありましたが、本当に勉強になりましたね。

次々に来る注文をこなしながら、予定の時間までに大人数のまかないを用意するには、抜かりない段取りが必要でした。例えば、よく作った肉豆腐なら、2日前には材料を揃えて、前日には肉と野菜を煮込んでおいて、当日は豆腐としらたきだけ煮込むだけにしておく。「どうせ自分たちが食べるものだから」「今日は忙しいから」と理由をつけて、予定の時間に遅れるようでは一人前の料理人になれません。お客様は待ってはくれませんからね。

「きれいに盛り付ける」ことも大事です。プロとしての味付けの技術は経験年数がなければ習得できないことですが、きれいに切る、きれいに盛るといった技術は経験がなくても本から勉強するなりして自分で身につけることができることなんです。つい先日も、まかないのトンカツを丁寧に盛り付けることを怠った若いシェフを叱ったばかりです。きれいに盛り付けた料理を、「さあどうぞ」という気持ちでお客様に差し上げる気持ちこそ、料理人が忘れてはならないもの。若いシェフには、まかないから多くのことを学んでほしいと思っています。

気持ちよく働ける環境がおいしい料理につながる

気持ちよく働ける環境がおいしい料理につながる

お客様に気持ちよく料理を楽しんでいただくには、提供する側も気持ちよく働いていなければならないと思っています。だから、現場の人間関係をよくするコミュニケーションはとても大切です。

例えば、お客様が食事の途中で席を立った時に、サービスマンがシェフに「次の料理を出すタイミングを少し待ってほしい」と伝えることができれば、お客様が席に戻った時に温かなお皿を提供できますよね。厨房とホールの連携がうまくいって初めて、料理はおいしく提供できるんです。

15年前に料理長に就任した当初は、ホールスタッフが一人ひとりバラバラで食事をとっていたのですが、僕はそれがとても気になって何年もかけて改善し、今では全員一緒に円卓を囲んでまかないを食べてもらっています。「今日はこんなお客様がいらしたよ」「最近、こんな買い物をしてね」・・・そんな会話をリラックスしてできる時間が、おいしい料理の提供につながるはずと思っています。

ニラ入り玉子とじ丼

ニラ入り玉子とじ丼

コツ・ポイント

具材は細かく切ることで、全体に味がなじみやすくなる。つややかでふんわりとしたとろみを出すポイントは、水溶き片栗粉を加えた後で卵を入れるという順序にあり。

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  • 文:宮本恵理子
  • 写真:平瀬夏彦