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メフメット ディキメン BURGAZ ADA (ブルガズ アダ) トルコ宮廷料理の奥深い魅力を、たくさんの人に知ってほしい。

ナノテクノロジーに則した調理法など、500年前のレシピで現代に通じる料理を。

思い切って東京に移転。『ザガット』の高得点をきっかけに人気店に。

長野県飯田市で、『ブルガズ アダ』を10年営み、麻布十番に移転したのは2008年です。物件を探しているときに、新築で紹介されたのがこのビルでした。人気の麻布十番で、しかも新築物件ですから、200軒もの飲食店の応募があったそうです。幸運だったのは、当時のビルオーナーの社長が、私の料理を気に入ってくださり、テナントとして入ることができたことです。社長はわざわざ飯田まで私の料理を食べに来てくださり「ぜひうちのビルに入って欲しい。ここを閉めて東京に来てください」と言ってくださいました。あれほど嬉しかったことはないです。その頃の私は「東京に行って、有名になる!」と闘志がメラメラと燃えていた状態でしたから。しかし店をオープンするとなると、何千万ものお金が必要です。とはいえ、そのころの私はまったくお金がなかった。貧乏人でした(笑)。カッコつけるのが嫌いなので正直に言います。でも、ビルオーナーの社長が大部分の開業資金を貸してくださり、なんとかオープンにこぎつけました。「頑張れば借金が返せるし、あなたのお店になる」と激励され、その言葉通り、お借りしたお金は全てお返しすることができました。
店を始める前から『ブルガズ アダ』が東京でも有名店になる自信はありました。特殊なジャンルなので、オープン当初から注目度は高かったのですが、知れ渡るまでには時間がかかりましたね。トルコ料理と言うと、既にドネルケバブのようなファストフードのイメージが定着していたので、そのイメージを壊すのが難しかったのです。たぶんみなさん、ここも同じだろうと思っていたんでしょう。でも、一度『ブルガズ アダ』に来ていただければ、ファストフードとは全く違う料理だと理解していただけましたし、何度も通ってくださるようなお客様が増えていきました。2011年には『ザガットサーベイ2011』の料理ランキングで、都内全ジャンルのレストランの中で、第3位となる28点の高得点もいただきました。この点数は世界中のトルコ料理店の中でも最高得点だったので、本当に嬉しかったです。

思い切って東京に移転。『ザガット』の高得点をきっかけに人気店に。

世界中の料理に影響を与えたトルコの料理の魅力を、もっと知ってもらいたい。

トルコ料理はフランス料理、中華料理と並ぶ《世界三大料理》と言われてきました。他の二つと比べると、あまり知られていませんね(笑)。しかしワインやピッツァなど、今やだれもが普通に飲んだり食べたりしているものには、トルコ料理、つまりオスマン帝国時代に生まれたものが結構あるのです。フランス料理の代表格のソース《ベシャメル》も、実はトルコ語なんですよ。16世紀にフランスに広まったパイ生地も、宮廷料理のデザートのひとつ、《バクラヴァー》から生まれたものです。
私たちトルコ人のルーツは、先祖が6世紀に興した突厥(最古は狄)から始まったといわれています。その後、次々に領土を拡大し、オスマン帝国は14~15世紀に最興隆期を迎え、様々な文化が生まれました。トルコ宮廷料理もそのひとつです。当時は毎夜、美食が並ぶ宴席を繰り返し、健康を害するスルタン(王族)が続出したんですね。それを憂慮した宮廷付きのドクターとシェフが協力して研究を重ね、作りだした宮廷料理のレシピは約1万もあったと言われています。それこそ野菜をふんだんに使い、フレッシュなハーブやスパイスを合わせた栄養バランスの良い料理。健康だけでなく、エイジングケアの効果も高い料理でした。そのレシピは門外不出だったため、世に出ることはありませんでしたが、現存していた文献が4000種類ほど見つかり、大学教授とシェフが共同で解読し、まだ途中ではありますが、たくさん復元したんです。米料理だけで200種類、茄子の料理にいたっては400種類もあるんですよ。すごいレシピ数でしょう。トルコ人も現在のトルコ料理は知っていても、トルコ宮廷時代の料理は知らないものも多いかもしれません。きっとイスタンブールの人に聞いても分からないでしょう。
私が宮廷料理に惹かれた訳は、自分のルーツを料理の面から知りたかったこと、それと宮廷料理のおいしさ、作り方のすばらしさに惚れこんでしまったからです。同時に昔のトルコの素晴らしい文化をもっと広めたいという気持ちも、かなり強いのだと思います。

世界中の料理に影響を与えたトルコの料理の魅力を、もっと知ってもらいたい。

来日したトルコの大統領まで食べに来てくれるレストランになった。

トルコ宮廷料理を簡潔に説明するのはなかなか難しいのです。食べていただくのがいちばんてっとり早い(笑)。とにかく「素材の良さ」が、宮廷料理のいちばんの特徴です。例えばファストフードのドネルケバブで使う牛肉や羊肉はマリネにひと晩かかりますが、宮廷料理で使う肉はわずか10分です。パンも水ではなくミルクでねって焼きます。調味料では砂糖などは使わず蜂蜜を使い、ザクロから醸造するお酢を使います。オイルは最高品質のエキストラバージンオリーブオイルだけ。当店『ブルガズ アダ』でも、肉類、魚類も全て上質なものを仕入れていますし、ドライハーブやスパイス類は、トルコで買い付けています。
宮廷料理は15世紀に完成された調理方法ですが、肉の焼き方などは、ビックリするぐらいモダンな方法で、ナノテクノロジーに則した調理方法もあるんです。その方法で焼くと、肉がジューシーに焼き上がり、信じられないぐらいおいしい。500年も昔の方法なのに21世紀の料理法にも通じるものがあるのは、すごく興味深いし、改めて素晴らしいと感じます。
『ブルガズ アダ』を東京に移転し、2016年で9年目になりました。もっともっと勉強して、おいしいものを食べていただきたいと思っています。最近では、トルコのエルドアン大統領をはじめ、多くのトルコのセレブリティの方々が、わざわざうちの店を訪ねてくださる機会が増え、シェフとしてこれほど嬉しいことはありません。
いま店で働くのは、日本人のスタッフばかりです。彼らはとても優秀で、真摯に宮廷料理を学んでくれていますし、教える側としてもとても幸せです。近い将来、日本人シェフによるトルコ宮廷料理のレストランも実現するでしょう。その日が楽しみで仕方ないです。私自身も料理人として研鑽を続け、日本とトルコの懸け橋となれるよう頑張っていきたいですね。  (終)

来日したトルコの大統領まで食べに来てくれるレストランになった。

15世紀に生まれた鶏肉と茄子の料理『ルーロウタヴック』

今回お教えするのはチキン料理『ルーロウタヴック』です。日本では茄子とチキンという組み合わせの料理が珍しいと思ったので、これを選びました。鶏肉は手軽に使える食材ですが、オスマン・トルコ時代、遊牧民だったトルコ人にとって、自分で移動できる牛や羊と違い、カゴに入れたまま運ばなくてはならない鶏は、最もハイクラスな食肉でした。移動中に死んでしまうことも多く、貴重な食材だったんですよね。その鶏肉と、トルコ料理で最もポピュラーな食材の茄子を組み合わせた料理です。
ちょっと手間がかかりますよ。鶏肉も茄子もそれぞれマリネします。このひと手間で、おいしさが断然違います。そして鶏と茄子を別々に加熱してからロールし、さらにオーブンで焼きます。チキンを焼くのは魚用のグリルでも良いでしょう。盛りつけはちょっとモダンにスタイリッシュにしました。ご家庭でも工夫して素敵な盛りつけにしてください。

ルーロウタヴック(茄子巻きチキン)

ルーロウタヴック(茄子巻きチキン)

コツ・ポイント

茄子は必ずミルクに浸してマリネしアクを抜くこと。加熱する際はキツネ色までじっくり、柔らかくなるまで焼きましょう。焦げ目もおいしさを増します。 チキンをマリネするのは、コーティングすることで肉を柔らかくするためです。 グリルがおすすめですが、フライパンでソテーしても大丈夫です。

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  • 文:北條尚子
  • 写真:キッチンミノル