ピックアップシェフ

鈴木 珠美 Kitchen ベトナム料理との出会いが人生を決めた。 まだまだやりたいことがいっぱい。

ベトナムに呼ばれた気がして2年間の料理留学へ。

お弁当作りから料理に目覚め、料理研究家を目指す。

2002年に西麻布のこの場所で、ベトナム料理の店『kitchen』をはじめて今年で15年になりました。ベトナム料理との付き合いでいうと18年にもなり、最近ではすっかり、自分の前世はベトナム人に違いない、とも思えるほどになりました。年に2、3回はベトナムを訪れないと禁断症状のような状態にもなります(笑)。
両親とも公務員で、飲食とは全く縁のない家庭で育ちました。料理が好きになったのは、母には怒られちゃうかもしれませんが(笑)、それほど料理にこだわりがなかった母が反面教師になったのかもしれません。学生時代、母が作るお弁当は開けると白と茶色、みたいな感じが多く、おかずがカラフルなお弁当を持ってくる友人がうらやましくて、そっと中身を覗いたりしていました。それから自分でときどきお弁当を作るようになり、もっとおいしくするには?とか、きれいな色合いに詰めるには?とか、興味がどんどんわいてきて、料理が楽しくなってきました。
高校の進路相談のとき、担任だった家庭科の先生に料理が勉強できる栄養士の道を勧められ、高校卒業後は都内の専門学校へ進みました。学校に入ってからはますます料理が楽しくなり、実習に没頭していました。就職を考えていた当時は、《料理研究家》という方々がフィーチャーされはじめた頃で、栄養士よりも料理家の仕事に憧れて、栄養士の道には進まず、卒業後は実家のある茨城に戻り、料理学校のアシスタントになりました。そこで2年ほど働いた後再び上京し、フードコーディネートの会社に入りました。そこではテレビに出す料理を裏で作ったり、食品会社から依頼された調味料でレシピを作ったりしていたので、仕事が楽しくて充実した毎日でしたね。ますます料理にのめり込んでいきました。

お弁当作りから料理に目覚め、料理研究家を目指す。

自費で2年間のベトナム料理留学を実行。

ちょうどその頃、憧れの料理研究家の先生がベトナム料理本を出版されたんですが、とにかくその本の全てが、私にとって衝撃的でしたね。1996年の当時、ベトナム料理のレシピ本はほとんどなかったし、都内にレストランも少なかったと思います。料理研究家とかフードコーディネーターとして独立するには、オリジナリティを持たないとやっていけない、と今後の自分について考えている最中でした。その本を読み、その答えはベトナム料理じゃないだろうか、とピンとくるものがあり、すぐにベトナムに行ったんです。ベトナムが私を呼んでいる、そんな気持ちでした(笑)。
1週間のツアー旅行は、私には願ってもない《料理体験ツアー》。料理を習い、食べまくる、そんな1週間です。教えてくれる方々にその本に載っている気になる料理を見せ、これを教えて!と次々にお願いしました。ベトナムには女性の職業訓練校、花嫁修業の場みたいな《婦人学校》があり、料理やネイル、マッサージなどが習えるんです。そこに行って、みっちりベトナム料理を習うことができました。レッスンの後はいろいろな店を食べ歩き、初ベトナムにしては相当濃い体験ができた1週間でしたし、その後の私の人生を変えた時間でした。帰国した3か月後には仕事を辞め、ベトナムに長期留学することになったので、その本は運命的な出会いだったと思います。
1999年、念願のベトナム料理留学がはじまりました。でもフレンチのル・コルドン・ブルーのような学校はありません。ベトナムに料理留学なんて誰もしたことがない時代。すべて自分で手配をしなければなりませんでした。最初はツアーでお世話になったホーチミンの婦人学校の先生に教わり、泊まっていたホテルのシェフに教わり・・・身近なところからのスタートです。するとホテルのオーナーが親身に「この子は日本から料理の勉強に来ている」という話を広めてくれたんです。紹介してもらった料理人さんのすぐ横で調理風景を見せてもらい、メモを取りながら写真を撮る。そうやって少しずつレシピを増やしていきました。

自費で2年間のベトナム料理留学を実行。

学んだことをすべてまとめた《食材辞典》を完成させて帰国。

ホーチミンにしばらく滞在した後ハノイに移り、友人宅にホームステイしながら語学学校にも通いました。ベトナムは北部、中部、南部と、それぞれの地方で、気候や文化が違います。言葉も方言の違いがあるし、料理の特徴もずいぶん変わります。ホーチミンで南の料理を習ったので、ハノイで北部料理も覚えたかったんです。語学学校には日本人の生徒がいましたが、みんな外語大のベトナム語学科の方ばかり。どこへ行っても料理を学びに来ている日本人はいませんでしたね(笑)。ただ、私はどこへ行っても日本人には見られず、海外で育って帰国したベトナム人と思われていたみたい。私も時々「オトウサンハ、ベトナムジンデース」とつたないベトナム語で冗談を言ったり(笑)。
そうやって熱心に料理を習っていたら、あの子は真面目に料理を知りたいんだ、助けてあげよう、といろんな人が手を差し伸べてくれ、留学生活を支えてくれました。市場で見たことのない野菜を見つけて「どうやって食べるの?」とホテルの人に聞くと、すぐに目の前で調理してくれたり、お正月に食べるベトナムちまきを作っている場所までわざわざ連れて行って見せてくれたり、滞在中には数えきれないほどの方々にお世話になりました。
毎日毎日が楽しくて、新しい発見もあり、日本に帰りたくなくなるほどでした。帰国するきっかけは、私の《食材辞典》が完成したことです。辞典と言っても私だけのためのノートのようなものですが、私が撮り溜めたベトナムの野菜と果物、調味料の写真に、日本語とベトナム語の説明をつけた手作りの本です。留学で学んだことがぎっしり詰まった私の辞典を抱え、2年ぶりに日本に帰国しました。 (後編に続く)

学んだことをすべてまとめた《食材辞典》を完成させて帰国。

一食で栄養たっぷり『鶏肉とレンコンのスープ』

ベトナム料理はフレッシュな葉物野菜をたくさん食べるイメージがあると思いますが、生野菜だけでなく根菜や肉も入った、バランスのいい料理がとても多いんです。ひとつの料理で、主食から副菜まで兼ねるような組み合わせの料理が多いのも、ベトナム料理の特徴です。食育というか、子どもの頃から野菜もたくさん摂るよう躾がなされているんですね。それは素晴らしいと思います。
『鶏手羽とレンコンのスープ』はレンコンと骨付きの鶏をコトコト煮込む料理なので、どなたでも抵抗なく食べていただけると思います。ちなみに、レンコンはベトナムでとてもポピュラーな食材です。日本では根の部分しか食べませんが、茎もいろんな調理方法で食べるんですよ。
スープの食べ方はぜひベトナムスタイルで!ベトナムでは煮込んだ具の肉をいったんスープから取り出して、レモン汁入りの塩コショウやニョクマムで味を付けて食べます。私も最初にベトナムに行ったとき、スープの具をメイン料理のように、自分の好みで味付けしてから食べることに衝撃を受けました。おいしいので試してみてくださいね。

鶏手羽とレンコンのスープ

鶏手羽とレンコンのスープ

コツ・ポイント

火加減に注意してコトコトと煮込むほどに、滋味があふれるスープになります。アクをこまめに取り去り、澄んだスープに仕上げましょう。はじめに鶏肉を、油をひかず皮目にこんがりと焼き色が付くほど焼いておくことで、さらにおいしくなります。

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  • 文:北條尚子
  • 写真:キッチンミノル