お酒と料理

高橋豊和 / 初代 割烹 高橋 赤ワインの香りに呼応する料理

代々木上原の住宅街に密やかにある「初代 割烹 高橋」。「日本橋 なだ万」などの日本料理店で修業をし、確かな腕を持つ料理人・高橋豊和さんが「気軽に日本料理を楽しんでほしい」と、2012年割烹スタイルのお店をオープンした。『ミシュランガイド東京 2017』でも継続してビブグルマンに輝いた同店には、料理と合わせて楽しめるようにと、日本酒、焼酎、ワインが並ぶ。シャンパンがグラスで飲めるのも魅力だ。

独立前にはワインレストランでサービスとワインの勉強をしていたという高橋さんに、今回教えていただいたのは、山梨のワイナリー「くらむぼんワイン」の赤ワイン、ベルカントと料理。和食との相性はいかに?

ほのかな「甘さ」を軸に、食材の香りで複雑味を広げる

ほのかな「甘さ」を軸に、食材の香りで複雑味を広げる

いつも仕事後に飲むお酒ですか? やっぱり、まずはビールかな。最近は芋焼酎も飲むようになりました。僕はしゅわしゅわしたのが好きだから、ロックや水割りのほかソーダ割りなどでも飲みますね。シャンパンも好きで、店でも今年からグラス売りを始めました。和食店で(スパークリングワインではなく)シャンパンのグラス売りをしているところは珍しいみたいで、「えっ、グラスで飲めるの?」って、お客様には喜んでいただけています。

今回は、山梨のワイナリー「くらむぼんワイン」さんの赤ワイン「ベルカント」を試しました。開栓してすぐに飲んだ印象は、イチゴに似た果実の甘酸っぱい香り、そしてやわらかい酸。今日は開けて一週間ですが、全面に出ていたベリーの香りや果実味が少し落ち着き、まろやかさや一体感が生まれ、とてもバランスが良くなっているように感じます。時間経過も含めて楽しめるワインですね。

「マスカット・ベーリーA」が持つ、イチゴのような果実の香りに合わせて、今回は店で出している料理を少し作りやすくアレンジして紹介します。意識するのは「料理の中の甘み」。料理にある程度の甘みを入れることで、醤油の香りとワインを緩やかにつなげるといいますか。そこに柚子や三つ葉、わさびなどの香りを合わせて複雑味を出していきます。

1.鼻に抜ける辛子をお忘れなく『煮穴子の唐揚げ』

煮穴子は、煮ただけのものよりも、片栗粉で衣をつけて揚げた方がワインにはぴったり。カリッと揚がった片栗粉の香ばしさや、油の香りはワインを誘います。

1.鼻に抜ける辛子をお忘れなく『煮穴子の唐揚げ』

穴子は下処理で味が決まります。皮目に熱湯をかけると、ぬめりが白く固まるので、それをよく水洗いすると臭みがなくなります。独特の香りが気になる方は、長ネギの青い部分や生姜を入れて炊くといいですね。

一般的な煮穴子よりも軽く煮てありますから、ツメもさらっとしています。

忘れてはならないのが辛子の存在。水溶き辛子を添えてツメをかけて食べると、辛子がツンと鼻に抜けるでしょう。「ベルカント」の香りが、鼻に抜けた香りと混じり合い、穴子の味にも奥行きを与えてくれます。

2.薬味を合わせて複雑味を『合鴨と茄子の治部煮』

2品目は、お店でも出している治部煮です。だしとワインをつなげるのは、だしに入れた砂糖やみりん。そして三つ葉や柚子、山葵といった薬味です。

2.薬味を合わせて複雑味を『合鴨と茄子の治部煮』

合鴨のムネ肉を5ミリ程度にスライスし、しっかりと片栗粉をつけます。これを加熱した合わせだしの中に入れ、強火で火を通すことで肉に衣をつけます。ほの甘いだしと合鴨肉から出る旨味、少しとろみがついた吸い口が、マスカット・ベーリーAの果実味に呼応します。「ベルカント」は、抜栓してすぐ飲んだ時に感じたイチゴのような香りが印象的だったので、合わせだしに甘みを意識して調整しました。

柚子、三つ葉、山葵といった、異なる清涼感を持つ薬味を組み合わせることで、香りの幅が広がり、複雑味が生まれます。ワインなどの果実酒には、こうした薬味を使うとより合わせやすくなると思います。

何度も通ってもらえる割烹に

いとこの叔父さんが料理人だったんです。料理店を持っているのではなくて、何人かの和食料理人をまとめて、声がかかったお店にチームで行くという仕事スタイルでした。その姿に憧れて、高校を卒業して、地元広島の全日空ホテル内にある日本料理店に入りました。そこに口を聞いてくれたのも、その叔父さんでした。

東京の一流の仕事を見たくて「日本橋 なだ万」に入った時には、仕事のスピードにまず驚いたのを覚えています。様々な技術も教わりました。

その中で独立という夢が広がり、では自分がしたいお店のスタイルはどんなものだろう?と考えました。そこで自分のしたい料理のスタイルが「カジュアルに何回も使ってもらえる割烹」「高級食材よりは旬の食材をふんだんに使い、それを確かな技術で調理する」というところではないかと定まっていきました。

ここはお子さんも大歓迎。近くに住むお客様が三世代でお使いいただけることが多いですね。あとは、恵比寿や渋谷あたりのホテルにお泊まりの海外からのお客様が、ホテルのコンシェルジュ経由で予約を入れて来てくれます。海外からのお客様が最も反応するのは椀物。なんのアレンジもしなくても、だしの美味しさを実感していただけているのを見ると、ちょっと嬉しいですね。

煮穴子の唐揚げ と 合鴨と茄子の治部煮

煮穴子の唐揚げ と 合鴨と茄子の治部煮

コツ・ポイント

煮穴子の唐揚げは、ふっくらと炊き上げた穴子を取り出し、キッチンペーパーなどで水分を拭き取り、片栗粉をしっかりつけてあげること。臭みを出さないように、霜降りをして水洗いするという下処理をしっかり行うこともポイントです。

合鴨と茄子の治部煮は、合鴨肉を煮るときの火加減がポイント。2分ほど強火で一気に火を通した後は、余熱で芯まで火を入れます。火を入れすぎると肉が固くなるので、ご注意ください。

ベルカント

ベルカント

分類:赤ワイン

葡萄の品種:マスカット・ベーリーA

生産地方:山梨県甲州市勝沼町

味わい:辛口ミディアムボディ~フルボディ

アルコール分:12%

くらむぼんワイン/1913年に初代がブドウ酒造りを始め、62年からは「山梨ワイン」の名前で親しまれたワイナリー。2013年に原料ブドウの100%が国産となり、2014年に「くらむぼんワイン」に社名変更。勝沼で昔から作られる「甲州種」と「マスカット・ベーリーA」の2品種を主に使い、日々の食卓のためのワインを造る。「ベルカント」はマスカット・ベーリーAのキュートな果実味を楽しめる1本。赤いベリー香に樽熟成のニュアンスがほのかに重なる。しっかりした果実味があって、渋味と酸味のバランスがとれた心地よい飲み心地。抜栓後も味わいが緩やかに変化し、数日かけて楽しむのもおすすめ。

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  • 文:柿本礼子
  • 写真:平瀬夏彦