お酒と料理

権田雅康 / per Bacco(ペル・バッコ)思い出の日本酒が寄り添うイタリアン

東中野の人気イタリアン「per Bacco(ペル・バッコ)」のお店を入るとまず目につくのは、ガラス張りのセラーにずらりと並ぶワインのボトル。1500本を超えるイタリアワインのセレクトで、日々ワイン好きを唸らせている。合わせる料理も言わずもがなだ。
シェフの権田雅康さんは、しかしながら、休日の日は蕎麦屋巡りが趣味という。となると、飲むお酒は日本酒。とりわけ好きな銘柄はと聞くと「四季桜」の本醸造という。そこには、権田シェフが大切にしている、あるお客様との思い出がありました。

料理を邪魔せず、すっと寄り添うお酒

料理を邪魔せず、すっと寄り添うお酒

独立前に、僕は渋谷のNHKの近くにあるイタリア料理店でシェフをしていました。ある晩、女性のお客様が一人、ふらりといらしたんですね。その方は漫画家で江戸風俗研究家でもある杉浦日向子さんでした。当時、NHKで『コメディーお江戸でござる』という江戸文化を紹介する番組があって、その収録後に寄っていただいたようでした。僕の出した料理を気に入ってくれて、「来週もまた来ますね」って、本当に毎週通ってくださった。最後に入院される前も食べに来てくださって。僕も、杉浦さんの期待に応えたくて、リクエストがない限り常に違う料理、新しい料理をお出ししていました。

杉浦さんはお蕎麦も好きで「ソ連(ソバ好き連)」なんていうのを作って蕎麦屋めぐりをしていたんですね。本も執筆されていて、上梓した時には僕に本をくれたりしました。僕も蕎麦が好きだから、お店にいらした際には蕎麦屋談義にも花が咲く。「あそこがいいよ、ここが美味しかったよ」と教えてくました。
そのなかの一つが西荻窪の「鞍馬」というお店。いただいた本(『もっとソバ屋で憩う--きっと満足123店』杉浦日向子とソ連編著、新潮文庫)にも出てきます。このお店で出されているのが「四季桜」の、しかも本醸造なんです。この酒が実に鞍馬の蕎麦と相性が良くて、本醸造は特にスッキリしていて、蕎麦の香りを打ち消さない。ここは蕎麦前も美味しくて、シメサバや塩辛も、昔ながらの味がする。蕎麦つゆも絶品で、だしの風味がしっかりしている。かえしだけで2合飲めちゃう(笑)。この間も連休前に行って、メニューを全制覇して来ました。「そう、これこれ」と楽しめる、そんなお店です。

今回はこの「四季桜」に合う料理を2品作ります。このお店では、連休や年始に「呑んだくれ営業」といってバル営業をするのですが、その時の定番料理です。ブランデーやバルサミコ酢を使うところを、「四季桜」に変えてアレンジしました。

1.調味料を入れる順番がポイント『鯵と焼き茄子 茗荷のタルタル仕立て』

刺身用の鯵と焼き茄子を合わせたタルタルです。鯵の旨味と、とろけるような茄子の甘みが混じり合った、夏らしい1品です。

1.調味料を入れる順番がポイント『鯵と焼き茄子 茗荷のタルタル仕立て』

通常は白バルサミコ酢を使いますが、今回は「四季桜」を5分の1まで煮詰めたものに変えています。もっと手軽に作りたい場合は米酢でも代用できます。料理の中に、お酒と同じ要素を入れることで、味に共通項が生まれるかと思います。
ポイントは調味料を入れる順番で、鯵と茄子を混ぜたら、まずオリーブオイルで表面をコーティングし、その後に酒をまぶします。こうすることで鯵が締まり過ぎないようにします。
焼き茄子はまとめて作っておいて、茗荷や生姜と和えた状態にして冷蔵庫で冷やしておくと、常備菜として役立ちます。鯵の刺身があればこのタルタルがすぐにできるし、冷麦などの具にしても美味しいですよ。

2.冷やして食べるおつまみに『キンピラ イタリアーナ(イタリア風きんぴら)』

バル営業時にお出ししているメニューです。特にお正月、煮物に使うタケノコの切れ端などで作れる1品。冷やしてお召し上がりください。

2.冷やして食べるおつまみに『キンピラ イタリアーナ(イタリア風きんぴら)』

食べてみると、名前通りきんぴら、だけどイタリアンでしょう? アンチョビは魚の発酵品だから、鰹節のような役割をしているんでしょうね。
この料理のポイントはニンニクとアンチョビをしっかりと炒めること。そうすることでニンニクも香りの強さが和らぐし、アンチョビの生臭さも無くなります。
いつもはブランデーでフランベするところ、今回は「四季桜」を使っています。やはり日本酒と合わせるために、日本酒と同じ要素を料理に入れました。イタリアでも赤ワインの産地で有名なバローロという地域では、牛肉の赤ワイン煮込みがよく食べられますが、これも同じような理由からだと僕は感じています。

お酒と料理をつなぐ大切なものは、「塩」

お酒に合う料理を作る際に大切なことは、「塩」ではないでしょうか。
よくスイカに塩を振りますよね。塩でスイカの甘みを引き立たせているわけですね。それと同じ理屈で、ワインに含まれる果実味というか、果実の甘さを引き立たせるのも、やはり塩がポイントになってくると思います。
数ある中で、好みの焼き鳥屋さんとか、居酒屋さんとかがあると思いますが、好みの居酒屋選びには、塩加減、塩梅が大きく関わっているんじゃないかな。お酒と合わせる時には、やはり少し塩を多めにした方が合うのですが、いきなり好みの塩分に合わせるのは難しい。そこでおすすめなのが、小皿に塩を出しておき、お皿の上で合わせながら自分好みの塩梅を探すという方法です。塩は海塩と岩塩など、複数を揃えておくと、違いがわかって面白いですよ。
お酒と合うのはこのくらいの塩気だなとか、ご飯と合わせるならこのくらい、など、塩のバランスを探りながら、好みの味を見つけてみてください。

鯵と焼き茄子 茗荷のタルタル仕立て と キンピラ イタリアーナ(イタリア風きんぴら)

鯵と焼き茄子 茗荷のタルタル仕立て と キンピラ イタリアーナ(イタリア風きんぴら)

コツ・ポイント

鯵と焼き茄子 茗荷のタルタル仕立ては、調理料を入れる順番が大事。オリーブオイルで表面をコーティングし、その後に酒をまぶします。
キンピラ イタリアーナは、最初にニンニクとアンチョビにしっかり火を通すことがポイントです。

四季桜 はつはな

四季桜 はつはな

分類:特別本醸造酒

原材料:米、米麹、醸造アルコール

米の品種:ひとごこち 他

精米歩合: 60%

アルコール分:15.5%

宇都宮酒造株式会社/1871年(明治4年)栃木県で創業。鬼怒川の伏流水を仕込み水にし、山田錦、五百万石、美山錦などの酒造好適米で造る。特別本醸造酒の「四季桜 はつはな」で主に使われる酒造好適米「ひとごこち」は玉栄=白妙錦経由の酒造好適米を母に、コシヒカリの系譜を持つ信交444号を父に持つ。柔らかな口当たりと、キレの良い後口が魅力だ。

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  • 文:柿本礼子
  • 写真:牧田健太郎