ピックアップシェフ

田中 貴士 パッション ドゥ ローズ お菓子のひとつひとつからフランスの空気と私の情熱を感じて欲しい。

びっくりさせる仕掛けを加えたオリジナルのフォンダンショコラ。

フランスから帰国し、シェフパティシエとしてお菓子作りに熱中する毎日。

パリの修業先『des GATEAUX et du PAIN』でスーシェフとして毎日一生懸命働き、パティシエとしての技術を認められた私は、やっと自分の腕に自信が持てるようになりました。正直、フランスに渡るまでは、自分の作るケーキに100パ―セントの自信はありませんでしたから。
しかし当初の目的、きちんとお金を稼ぎ、自分の技術が通用することをパリで確認できたので、帰国していよいよ自分の店だ!と意気込んでいました。
帰国の一週間前、パリの仕事を紹介してくれた『ホテル・プラザ・アテネ』の『レストラン・アラン・デュカス』のエグゼクティブシェフパティシエ、ニコラさんに呼ばれ会いにいくと、パリにオープンしていた『ブーランジェピシエ be』についての説明を受けました。
『be』はアラン・デュカス氏がプロデュースするパンと食材の店で、ブーランジェリーとエピスリー(食材店)を合わせた新しいスタイルの店。ニコラさんに「日本に帰ったら東京の『be』に行きなさい」と言われ、自分の店の開店計画は一旦諦め、帰国後『be』のラボでシェフパティシエとして働くことにしました。

そうして1年ほど『be』に勤務した後、古巣の『ブノワ』に戻ったのですが、今度はシェフパティシエとして、ビストロで出すデザートやお菓子のすべてを任されました。以前、フランス修業の経験がないと言う理由で、責任あるポジションはもらえなかった苦い思い出のある店。それはもう闘志満々で仕事に臨んでいました。
『ブノワ』のデザートやケーキは、全てデュカスが書いた『グラン・リーブル・ド・キュイジーヌ・アラン・デュカス デザート&パティスリー』からもお出しするのですが、この本がなかなかやっかいで、レシピ通りに作ってもなかなかうまくいかない。自分が経験してきた技術を加えながら、見た目はシンプルだけどすごく手間がかかっている、デュカスらしいおいしいデザートをたくさん作りました。
例えばグループフルーツなどの柑橘類のコンポート。スタッフには「皮つきのコンポートなんて日本人には受けないよ」と言われましたけど、「大丈夫、絶対においしいものを作るから」と反対を押し切り、4日間かけてレモンやオレンジ、グレープフルーツをコンポートしたところ、できあがったものは素晴らしい一皿になりました。そうやってフランス伝統のお菓子やデザートに、私なりの技術でひと手間を加え、さらにおいしく仕上げる仕事に熱中していました。

フランスから帰国し、シェフパティシエとしてお菓子作りに熱中する毎日。

自分の店のオープンに向けて名店を渡り歩き、あらゆることを学び、吸収した。

フランスから帰国してからの5年間、私はいくつかの都内の有名店で仕事をさせていただきました。自分で言うのもおかしいですが、後悔することが微塵もないほど頑張りましたし、どこへ行っても楽しく働いていました。
『ブノワ』では、ダビッド・ブランシェフとすごくいい関係を築いていたので、料理やデザートについて、暇さえあれば二人でああしよう、こうしようとコミュニケーションをとっていました。私たちは緊密に情報交換をしながら、新しい料理、新しいデザートをどんどん提供していました。
そして自分の店を出す2ヶ月前までお世話になっていた『ピエール・エルメ・パリ』。いままで働いたことのある『ジョエル・ロブション』、そして『アラン・デュカス』系列とは全く別のブランドを見てみたい、もっと腕を磨きたい、という気持ちで仕事をさせていただきました。

常に私の気持ちの真ん中にあったのは、「自分の店を出すこと」。これに尽きます。そのためにお菓子のこと全てに携わりたかった。だからどこで働いていても、どのように人が動いているだろう、シェフはどういうふうに指示を出すだろう、どういうシステムで店を運営するのだろう、とあらゆることに目を向けて学んでいました。とくに最後にお世話になった『ピエール・エルメ・パリ』では、スーシェフ(副シェフパティシエ)を務めさせていただきましたが、近い将来店を出します、その時は辞めます、と宣言してから働き始めたにもかかわらず様々なことを教えてもらい、本当に勉強になりました。

18歳から33歳まで、ほとんど辛い思いをしたこともなく毎日楽しく働けたのは、やっぱり“夢”があったからだと思います。仕事がつまらない、楽しくないと愚痴をこぼす後輩たちにもよく言うのですが、「人生楽しくなかったら、ここにいる必要はないよ。面白くないのになんでここにいるのか。たぶんそれは夢がないからだから、まず、夢を作ろうよ」と。「夢ができたら自分で段取りを組んで、進もうよ、絶対たのしくやれるから」ってアドバイスするんです。これは私自身が自らやってきたことですからね、説得力があるでしょう(笑)。

自分の店のオープンに向けて名店を渡り歩き、あらゆることを学び、吸収した。

3坪の店にぎっしり詰まった夢。月替わりで並ぶ地方菓子は店の個性に。

私の夢、私の店『パッション ドゥ ローズ』は今年4月に白金高輪にオープンしました。売り場面積3坪、スタッフ二人、という超コンパクトなパティスリーですけど、5年間でまとめあげた膨大な店の事業計画書のほとんどを実現することができました。
商品構成も全てオープン前に決まっていました。フランス菓子の生菓子は常時30種類ぐらい、そのうち5種類は月替わりのフランスの地方菓子、店名からとった『パッション』と『ローズ』という名前のケーキをおく、大好きな『サバラン』と『オペラ』もおく・・・という具合です。オープン当初は目標の30種類とはいかず、20種類からのスタートになりましたが、オープンから半年を過ぎ、徐々に種類が増えてきて、まもなく30種類になりそうです。

そして絶対にやりたかったのが、毎月テーマを決めてお出しするフランスの地方菓子。その地方らしいおいしいケーキを全部出すくらいの勢いでやっているので(笑)、毎月楽しみにしてくださる方も多いんです。毎月のテーマは日本の季節と合わせて決めています。1月はノルマンディーでリンゴのお菓子、夏はコートダジュールでレモンや柑橘類を使ったもの、そして10月はブルゴーニュ地方でカシスやマロンのお菓子…という風に。楽しそうでしょう。将来はもっとお店を大きくして、カフェも併設し、その場で仕上げて召し上がっていただくデザートもやりたいし、パリのパティスリースタイルのようにクロワッサンやブリオッシュなどのパンも販売したい。まだまだ事業計画書の項目は増え続けています。

3坪の店にぎっしり詰まった夢。月替わりで並ぶ地方菓子は店の個性に。

食べる人を驚かせ、喜ばせる工夫あふれる自慢のオリジナルのお菓子

今回お教えする『フォンダンショコラ』は、私の自慢のオリジナルお菓子です。
私が考えたのは、見た目はごく普通のチョコのケーキをカットすると、中からチョコレートのソースがわーっと流れてきて、お客様がビックリして喜んでくれる、というデザート。『ブノワ』のバレンタインシーズンの時に初めて出した私のオリジナルです。
注文を受けてから焼き始め、14分かかるので、サービスのスタッフに「14分は長すぎる」と文句を言われたいわくつきのデザートですが、絶対喜んでもらえるから、と押し切って提供していました。私はお菓子にハッとする驚きや、見た目とのギャップを取り込むのが好きです。この『フォンダンショコラ』はその両方をご家庭でも楽しんでいただけると思います。

凍らせたチョコレートソースをアパレイユに包んで焼きあげ、熱いところにバニラアイスなどを添えて、すぐに召し上がっていただくのが最もおいしい。このサイズなら焼き時間の目安は14分。焼きすぎると中のソースが飛び出して噴火してしまいますし、型から外すときも慎重にやらないとソースがこぼれてしまいますので、丁寧に扱ってください。将来、店にカフェを併設できたら、この『フォンダンショコラ』をぜひメニューにしたいと思っています。(終)

フォンダンショコラ

フォンダンショコラ

コツ・ポイント

1、アパレイユのバターとチョコレートを合わせた食材は、熱い状態で卵白と合わせる。冷たいと分離してしまうので注意。 2、アパレイユとソースをセルクルに入れたら、すぐにオーブンへ。時間が経つと中のソースが溶けてしまいます。

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