ピックアップシェフ

岡崎 陽介 RESTAURANT SANTPAU 【レストラン サンパウ】 カタルーニャの伝統に、新たな感性を 吹き込んだ料理に感動してほしい。

スペイン本店の研修で魅力的な料理が誕生した背景を知る。

フランス料理からスペイン料理の世界へ飛び込む。

フランス各地で4年間修業し、2007年28歳の時に帰国しました。日本へ戻る気持ちになったのは、やはりフランスで吸収したこと、身につけた技術を生かせる場所でシェフとしてやってみたい、ということに尽きます。幸運なことに帰国早々『BENOIT(ブノワ)』で半年ほど働く機会をいただき、久しぶりに日本で働くこととフランスで働くことの“違い”を、肌で感じることができました。その後は都内と神奈川県内の住宅地にあるフランス料理店2店で働きました。共にオープニングのシェフという立場をいただき、料理に関しては自由度が増しましたけど、そこはやっぱり仕事ですからね。自分の作りたいものだけやるわけにもいきません。しかも日本での経験が浅かったので、食材や生産地などについてはほとんど知らなかったので、ひたむきに勉強した期間でもありましたね。その代わり、フランスにいたからこそわかる文化や考え方には自信を持っていたので、その能力は思い切り発揮できたかな、と思っています。
店を辞めた後、いっとき、もう一度フランスに戻ろうか、どうしようかといろいろ考えている時期がありました。その頃スペイン料理の『レストラン サンパウ』はフランス人シェフらしい、ミシュランで二つ星も取っている・・・という話を聞き、すごく興味がわいたんですよ。ここは面白そうだと思って、入社を決めました。いざ入ってみたら、フランス料理出身のスタッフが多く、違和感なく働くことができました。まず、最初は前菜部門を任され、3カ月後ぐらいからしばらく肉料理部門を担当していました。
『レストラン サンパウ』に入ってまず感じたのは、料理が丁寧なことでした。フランスの三ツ星の店のような細かさとも違います、丁寧できれい、と言うのでしょうか。余分なものは入れない、新鮮なものしか使わない、必要以上に手は加えない、という『レストラン サンパウ』本店のカルメ・ルスカイェーダ シェフの素材に対する考え方に、衝撃を受けました。

フランス料理からスペイン料理の世界へ飛び込む。

シェフ就任後にスペインの本店で研修し、大事なものを掴んだ。

例えば魚介類の多くは、もっとも新鮮な生の状態で届き、朝のうちに当店で急速冷凍し、毎サービス時に使う分のみ解凍し、冷蔵では保存しないことに驚きました。
2011年3月に、いきなりエグゼクティブ・シェフになることを命ぜられました。私自身、全く予想すらしていなかったので、とにかくびっくりしました。当時のフランス人シェフやスペイン人スタッフがカルメシェフに自分を推薦してくれたらしく、すごく嬉しかったのですが、正直、不安でいっぱいでした。一緒に働いていた日本人スタッフにも、たぶん心配されていたと思います。
プレッシャーを感じながらシェフをやり始めた2か月後、スペインの本店に研修に行くことになりました。ひと月半ほどの滞在でしたが、そのおかけで料理人として大きく成長でき、自信がついたと思っています。『レストラン サンパウ』は、バルセロナから電車で1時間、カタルーニャ地方の海沿いの町・サン・ポル・デ・マルにあり、店のすぐわきに電車が走り、目の前は海というロケーション。私が育った鎌倉にも似ていました。研修といっても東京でやっている仕事とさほど変わらないのですが、常にカルメシェフの隣にぴったりくっついて、全てを見ながら動くことができました。いろんな話もできましたし、仕事が終われば一緒に食事に行ったり、ドライブに出かけたり。生活を共にしたような感覚がありました。カルメシェフはこの海辺の町で生まれ育っています。つまり『レストラン サンパウ』の料理はこの素晴らしい環境があるから生まれたもの、ということがハッキリ分かる経験というのかな。それを実際に掴んだことで、サン・ポル・デ・マルへ来る前よりもずっと気持ちが楽になったし、ある意味、東京店のシェフとして、公式に認められたという自信もつき、良い再スタートが切れると感じていました。

シェフ就任後にスペインの本店で研修し、大事なものを掴んだ。

サンパウの哲学を守りながら自分のエッセンスも取り入れたい。

帰国した後は、今まで通りのやり方を踏襲しながら、少しずつ新しいことも取り入れようとしています。というのも、やはりここはカルメシェフの店ですし、自分の色100%の料理はできません。お客様方も、スペインにいるかのような食事を求めていらっしゃるので、本店のレシピは忠実に再現しています。しかしそれ以外のところでは、こういう食材でこういうものが作りたいと、私自身のアイデアを実践することもあります。日本での経験も長くなったので、生産者や業者の方とのコンタクトも自分で取るようになり、国産食材のバリエーションも増えて、それが私の武器にもなりました。とはいえ、カルメシェフのフィロソフィーは絶対に守るべきなので、そこは大事にしつつ、自分もエッセンスを入れられたらな、とずっと努力と研鑽の日々です。
フランス料理を作っている頃は、食材とは絶対にフランスのものだけ、和の食材は使わない、というタイプの料理人でした。しかし『レストラン サンパウ』で過ごすうちに考え方も柔軟になり、和の食材なども積極的に使うようになりました。カルメシェフも来日するたびに和食を食べたり、築地市場に出かけたりして、和の食材を学んでは、本店のメニューに取り入れているようです。 料理人として今後の課題を自分に与えるとしたら、ワインについてもっと知識を持ちたいということですね。まだまだ知らないことがたくさんありますし、料理人として必要な教養だと感じています。
夢は・・・やはりいつか自分の店を持つことですね。それはフランス料理を始めた頃から変わらず思っていました。まだだいぶ先になりそうですが、実現したときには、いちばん自分の気持ちのいいやり方で成功したいと思っています。 (終)

サンパウの哲学を守りながら自分のエッセンスも取り入れたい。

『海と山の幸のお米料理 (アロス・カルドソ)』

今回お教えするスペインのお米料理は、『レストラン サンパウ』に入って覚えた料理です。以前はスぺイン料理についての知識はまだまだで、お米の料理と言えばポピュラーな『パエリア』ぐらいしか思い浮かびませんでした。フランス料理でお米は、ほとんど使ったことがありません。しかしここに来て、こんなにスぺインにはお米料理があると知って驚いたほどです。
Arroz(アロス)はお米、caldoso(カルドソ)は出汁に浸った、と言う意味で、このアロス・カルドソは特にカタルーニャ地方ではポピュラーなもの。サンパウで最もベーシックなものは、車エビの頭を炒めてニンニクやパセリ、トマトと煮てとった出汁でお米を煮た、車エビのアロス・カルドソです。その応用編として、オマール海老やアカザ海老を使うものもあります。『レストラン サンパウ』には、海のものと山のものを融合してひとつの料理に仕上げるというスタイルがあるのですが、これはその象徴的な料理だと思います。私自身もすごく好きな料理ですし、店でお出しすることもあります。カタルーニャ地方ではウサギ肉がポピュラーなのですが、ご家庭で作ることを考えて鶏肉にしています。

海と山の幸のお米料理(アロス・カルドソ)

海と山の幸のお米料理(アロス・カルドソ)

コツ・ポイント

一つ一つの食材の味や香りが、上手くブイヨンに加わるように、丁寧なカット、火入れを行う。お米を煮る時間と火加減に気を配り、均一な炊き上がりと、仕上げの汁とお米のバランスにも気を付ける。味見して塩分、米の硬さ、濃度などを確かめ、足りなければ塩を足して味を調える。

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