ピックアップシェフ

高橋 雄二郎 ル スプートニク フランス料理の伝統を重んじながら 新しい挑戦を提案したい。

独創的な発想から生まれるお皿を楽しんで欲しい。

フランス修業は自分に足りないものを貪欲に吸収した時間。

26歳で渡仏し、約3年間滞在したフランス。働き方や修業の目的は、人それぞれだと思いますが、私の目的は、自分に足りないものを補いたいということが一番でした。短期間だけ働いた店も含め、自分が知りたい技術が学べる店を、渡り歩きました。自分のポジションを上げることよりも、フランスではひたすら技術を吸収するというのかな、そういう働き方を徹底して続けていました。
ブーランジェリーの『メゾンカイザー』に入ったのは、お菓子とパンのことを何も知らずに帰国したくなかったからです。単純に、このお菓子ってどうやって作るんだろう、という好奇心もありましたね。『メゾンカイザー』ではお菓子とパン、ヴィエノワズリーを習い、その後は『パティスリー・パン・ドゥ・シュークル』に移りました。ここでは完璧にパティシェ修業です。フランスでは大抵パティシェの勤務時間はレストランより短いのですが、とにかく長く働かせてほしいと願い出て、朝6時から夜の10時頃まで、働かせてもらいました。でも給料はそこまでもらえないので、土日は焼肉屋さんでアルバイトです。面白かったのは、当時、パリでお菓子の修業をしていた日本人パティシェさんたちが、同じ焼肉屋で働いていたんですよ。店で聞けない疑問や質問を彼らに聞いて教わったことも多いです。ええ、そんな作り方なのか、面白いな、って。同じ時期にパリで働いていた日本人の料理人とも交流がありました。自分も29歳になり、そろそろ帰国を考えていたときに出会ったのが、その後新丸ビルの『オーグードゥジュール ヌーヴェルエール』のシェフになられた宮崎慎太郎シェフ(現・ザ・リッツ・カールトン東京『アジュール フォーティーファイブ』シェフ)でした。宮崎さんがスーシェフを探していると聞き、ぜひやってみたいと思い、雇ってくださいとお願いしたんです。その願いを快く受けていただき、帰国することになりました。

フランス修業は自分に足りないものを貪欲に吸収した時間。

同時期にフランスで働いていた料理人たちが刺激に。

『オーグードゥジュール ヌーヴェルエール』でスーシェフの仕事を得た私は、毎日が充実していました。いちばん力を注いだのは、宮崎シェフが不在の日に評判を落とさないように、店を守ること。それを一番意識して、スタッフのテンションを上げて、いい仕事をしていこうと思っていました。店はまだできたばかりですし、ミシュランガイド東京で星も取り、連日満席でしたから、気を抜く暇はありません。同時に料理人として、技術も自信もつけていきました。2年ほど働くうちに、そろそろシェフとしてチャレンジしてみたいと思うようになった頃お話をいただいのが、代官山の『ル・ジュー・ドゥ・ラシエット』でした。
とにかく毎日24時間張り切っていましたね。そのころは私と同時期にフランスで修業していた料理人が続々とシェフになり、メディアで彼らの活躍ぶりを目にすることも多かったんです。自分も負けてないぞ、フランス料理に対する愛情は私の方が上だ、とそんな気持ちでした。それまで働いていた『ヌーヴェルエール』は、にぎやかな商業施設の中にありましたけど、『ル・ジュー・ドゥ・ラシエット』は全く環境も違います。とにかく、コツコツといい評判をとることで、大勢のお客様が私の料理を目指して訪れるような店にしたい、とそんな熱い気持ちで溢れていました。
料理についてはまず味を一番に、そこに自分しか出せないオリジナリティをプラスし、お客様が喜ぶ料理をいかに生み出すか、ということを常に考えていました。シェフになったことで、この目標がさらにクリアになった気がしました。

同時期にフランスで働いていた料理人たちが刺激に。

フランス料理の基礎からはみ出さずに自分らしい一皿を。

昨年、ついに独立を果たし、乃木坂に『ル スプートニク』をオープンしました。店名は、村上春樹ファンの妻が考えたのですが、スプートニクとは旧ソビエト連邦の世界初の人工衛星の名前です。文学ファンの文系の方にも理系の方にも知られた名称なので(笑)、すぐに憶えていただけています。駅から近いのに隠れ家的な雰囲気もあるのは、自分の理想にぴったりですし、土地柄か外国人のお客様も多く、その反応も楽しいですね。
オーナーシェフとなり、また環境は大きく変わりましたが、料理への思いは前職から全く変わっていません。オープンして1年の間大事にしてきたのは、フランス料理の基礎をしっかり軸としたまま、攻めた料理を生み出していく、ということです。課しているルールは、醬油や味噌、日本酒、昆布だしなど日本の調味料は使わないこと。食材は和のものも使います。フランス料理なのに、日本の調味料を使ってしまうと何料理かわからなくなってしまう。攻めてはいきたいですが、和食とフレンチのフュージョンとは違うんです。
料理に関しては、《自分らしい皿》が徐々に固まってきていると感じています。たとえば自分のことを《薔薇といえば高橋シェフ》みたいに呼んでくださる方がいます。薔薇とは、華やかな飴細工風に加工したビーツで花びらを表現した冬季限定の前菜『薔薇ビーツとフォアグラ』です。代官山時代にビーツのチュイールにフォアグラが合いそう、という発想で生み出した私のスペシャリテです。そう呼んでいただけることは光栄ですが、私の料理はそれだけではない。もっと色々な料理を生み出しています。ひらめきから生まれる自分らしい一皿を、さらにどんどん作り出していきたいと思っています。
いまは寝ても覚めても料理のことばかり考えている毎日です。新しい料理のスケッチは、頭の中やノートにたくさんありますので、これから生まれる料理を楽しみにしていただきたいですね。

フランス料理の基礎からはみ出さずに自分らしい一皿を。

オリジナル料理『牛蒡と白身魚のパイヤソン 五香粉』。

『パイヤソン』とはフランスの伝統料理の一つで、ジャガイモの千切りで作ることが多いのですが、『ル スプートニク』では、ワカサギや稚鮎などの魚介を牛蒡で巻いて揚げたフリットとしてお出ししています。ジャガイモでは昔から作っていますが、牛蒡で巻いてもおいしいんじゃないかな、という発想で生まれました。牛蒡はフランス料理では使わない食材ですし、フランス料理としては微妙なラインかもしれないけど、試行錯誤して生み出した一皿ですし、自分の料理という自負もあります。
以前は魚料理のメインとしてコースに加えていましたが、最近はコースの前半に出しています。最初は粉を付けずに揚げていましたけど、接着面がパリッとしないので、天ぷら粉の衣をつけ揚げたらクリスピーになり、これだ!と思いました(笑)。牛蒡のカリカリ度合いがすごくおいしく、ご家庭でも喜ばれる一品だと思います。牛蒡は長くピーラーでむいてください。いちばん旨みのある皮はソース作りに使い、中心の部分はスカスカなので使いません。中に巻くものはあまりパサつかない白身魚やワカサギ、海老がおすすめです。

牛蒡と白身魚のパイヤソン・五香粉

牛蒡と白身魚のパイヤソン・五香粉

コツ・ポイント

ピーラーで細切りした牛蒡を水にさらしてあく抜きし、キッチンペーパーで水をふき取ります。牛蒡の揚げ具合がおいしさを左右します。茶色く色が付きすぎると苦みが出てしまうので、油から引きあげるタイミングが肝心です。色はこんがりとする一歩手前で、火からおろしましょう。

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  • 文:北條尚子
  • 写真:キッチンミノル