理をはかる

河野透 / モナリザ 恵比寿店『トマト』についての理


食材は、適した調理法によって最大のおいしさを発揮します。プロの仕事に学ぶ、基本の理(ことわり)。

「幅広い世代の方々に、本物を味わっていただきたい」。ヨーロッパ屈指の有名店でキャリアを積み、フランス料理界のカリスマ的存在、ジョエル・ロブション氏の弟子として恵比寿「タイユバン・ロブション」の初代料理長も務めた河野透シェフのレストランは、肩肘張らずに楽しめそうな、温かさを感じる寛ぎの空間です。流行に左右されず価格は抑えめに、手間ひまかけて素材のおいしさを引き出す河野シェフ。今回の素材はシェフのスペシャリテにも使われる「トマト」。生と加熱では、扱い方や味の引き出し方が変わるようです。

トマトは、様々な特長をいかしておいしさを引き出します

調理法1.サラダ:真っ赤なソースに、具を詰めたトマトを盛りつける

果肉を残して具を詰め、しっかり冷やす

POINT.1 -果肉を残して具を詰め、しっかり冷やす

トマトを生で食べるときは、果肉の食感が楽しめるように、ほどよく熟したトマトを使います。主役のトマトは湯むきしてヘタ側を水平に切り落とし、浅くくり抜いてからティースプーンなどを使って種だけ除きます。果肉は具を支える柱になるので残しましょう。アボカドやモッツアレラ、えび、りんご、レタスなどを細かく刻んで調味したものを、トマト全体に行き渡るようにやさしく詰めたら冷蔵庫でしっかり冷やします。サラダは、冷やすほどおいしさを感じる料理。温度がとても大事なのです。

ソースはトマトの赤色をいかす

POINT.2 -ソースはトマトの赤色をいかす

食欲を刺激する、目にも鮮やかな赤色がトマトの特長ですから、ソースは真っ赤に仕上げます。生のトマトをミキサーに入れ、コク増しにトマトペーストを加えて撹拌。ピンク色になりますが、網で濾して1時間ほどおくと空気が抜け、赤色に戻ります。そこへ濃厚トマトケチャップをスプーン1杯ほど加えるのがポイント。甘みや酸味だけでなく、色も深くなりますよ。最後に赤ワインビネガーなどで調味。様々な酸味を重ねることで複雑な味になり、トマトのおいしさを底上げします。

トマトとトマトソースのサラダ アボカド・モッツアレラ入り

トマトとトマトソースのサラダ アボカド・モッツアレラ入り

コツ・ポイント

生で食べるときは果肉の食感が楽しめるように、ほどよく熟したトマトを使います。具を詰めたら、冷蔵庫でしっかり冷やしましょう。ソースはトマトピューレや濃厚トマトケチャップを加えて色を深くし、甘みや酸味もプラスします。仕上げにトマトの表面にリキュールを塗ってツヤを出し、香りを補うのもポイントです。

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調理法2. 煮込む:トマトの旨みを引き出し、味をふくらませる

少し柔らかくなるまで熟したトマトを使う

POINT.1 -少し柔らかくなるまで熟したトマトを使う

煮込みには、生で食べるときよりも長めに追熟したトマトを使います。常温に3~5日おき、少し柔らかく感じるくらいまで熟すと、酸味が和らいできます。トマトが煮汁のベースになるので、湯むきしてざく切りし、じっくり玉ねぎを炒めた鍋に加えて、スープ状になるまでゆっくり火を入れて旨みを引き出しましょう。日本のトマトは種が柔らかいから煮込めば口に残らないし、種の部分に旨みが凝縮されているので取り除く必要はありません。

相性のよい素材を重ねて深みを出す

POINT.2 -相性のよい素材を重ねて深みを出す

相性のよい素材を重ねて深みを出す相性のよい素材を加えて味をふくらませます。まずトマトペーストと濃厚トマトケチャップを加えて少し煮込み、その間に小麦粉をまぶして焼きつけた鶏肉を旨みが出た油ごと加えます。なじんだら次にマイルドな酸味のオレンジジュース、風味付けのブーケガルニを入れて煮込む。最後にスライスしたトマトを100℃のオーブンで1時間焼いた濃厚なトマトコンフィ、赤パプリカのみじん切りを加えて調和させます。互いのよさを引き出し、補い合って、味が完成していくのです。

チキンのトマト煮込み

チキンのトマト煮込み

コツ・ポイント

煮込みには、少し柔らかくなるまで熟したトマトを使います。刻んだトマトにゆっくり火を入れて旨みを引き出したところへトマトペースト、ケチャップ、オレンジジュース、トマトコンフィ、赤パプリカなど、相性のよい素材を加えて煮込んでいく。互いのよさを引き出し、補い合って、味が完成します。

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手間をかけると素材が持ち味を発揮し、おいしくなります。

手間をかけると素材が持ち味を発揮し、おいしくなります。

最近のトマトは、水分などを調整して作るハウス栽培が主流なので、露地ものより少し早い4~6月においしい品種が出回ります。おしり側に見える放射状の筋が長く、ハッキリ出ているものが甘いので、ぜひチェックして。皮がピンク色のときに収穫され次第に赤くなっていくので、常温に数日おいて真っ赤に熟してから調理しましょう。トマトには、昆布やしいたけにも含まれる旨み成分グルタミン酸が豊富。生はもちろん、煮込みにしてもおいしいです。

今回はトマトの扱い方を中心にご説明しましたが、料理は火加減と塩加減、そして塩を入れるタイミングも大事。特に煮込みの場合は、素材を段階的に加え、その都度ぐつぐつ煮込むことでトマトの良さを引き出していきます。また、塩も数回に分けて加えます。玉ねぎを炒めるとき、肉の下味はもちろんですが、トマトの煮汁に鶏とオレンジジュースを加えて煮るときにも塩を少量入れるのがポイント。最後の調味だけでは、鶏に塩が入らないからです。煮込む段階でトマトの旨みと塩を吸収することで味が締まる、その後もコンフィやパプリカを加えたときに入れ、煮込んでから味見して最終的な調整をします。ちなみにトマト缶は外国産が多いので酸味が強く、素材の加え方やバランス、塩加減も変わるので気をつけて。

素材を加える、塩を加える、その都度料理の状態を見て混ぜる。こうして手間をかけてあげると料理はちゃんとおいしくなる。素材が、持ち味を発揮してくれるんです。

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  • 文:須永久美
  • 写真:キッチンミノル