理をはかる

小室光博 / 懐石小室『なす』についての理


食材は、適した調理法によって最大のおいしさを発揮します。プロの仕事に学ぶ、基本の理(ことわり)。

ひっそりとした小径に、さまざまな名店が顔をみせる神楽坂。その一角に、懐石小室があります。「これぞ!という本物の食材を見つけ、その持ち味がいちばん光る料理をお出しする」。筋がすっと通った信念と日本料理の伝統の技が織りなす小室光博氏の料理は、多くのゲストを魅了し、『ミシュランガイド東京 2017』でも継続して二つ星に。四季折々の旬の食材が懐石小室の主役。夏が近くなると登場する素材のひとつが「なす」です。いろいろな調理法で楽しめる家庭でも定番の素材、そのおいしさを引き出すコツとは?

なすは、持ち味を引き出しつつ、相性のよい素材と合わせます

調理法1.焼く:高温で揚げ焼きしてから、肉味噌をのせて焼く

180℃の油で香ばしく揚げ焼きし、七割方火を通す

POINT.1 - 180℃の油で香ばしく揚げ焼きし、七割方火を通す

なすは、そのものの味もありますが、どちらかというと淡白。まずは揚げ焼きして、なすの持ち味を引き出します。ヘタを取って縦半分にし、皮目を鹿の子切りして火通りをよくしておきましょう。フライパンにやや多めの油を熱し、180℃くらいになったら断面から焼きつけます。温度が低いと油を吸い過ぎてしまうので注意。一気に焼きつけて、なす自体の水分で蒸し焼き状態に。こんがり焼けたら返して、七割方火が通ったら取り出す。水分を保ちながら、皮面は美しい『なす紺』に仕上げます。

相性のよい肉味噌で味を引き立たせる

POINT.2 - 相性のよい肉味噌で味を引き立たせる

淡白ななすと相性がいい素材は、肉、えび、油、みそ、香味野菜など。今回は、なすに肉味噌を塗って焼き上げましょう。鶏ひき肉と酒を鍋に入れ、菜箸3~4本でよく混ぜてから火にかけます。炒って肉の色が変わったら白味噌、練りごま、みりんを加え、おろししょうがで季節の香味をプラス。白味噌は焦げやすいので、火加減に気をつけて絶えず鍋底からすくうように混ぜてください。味噌くらいのかたさになったら火を止め、しばらくおくと程よくしまります。揚げ焼きしたなすに塗り、オーブントースターで表面を香ばしく焼いて完成です。

なすの田楽 鶏そぼろ味噌焼

なすの田楽 鶏そぼろ味噌焼

コツ・ポイント

淡白ななすは、その持ち味を引き出すため高温の油で揚げ焼きし、水分を保ちながら美しいなす紺を引き出します。七割方火が通ったら取り出し、白味噌や練りごまで炊いた肉味噌を塗ってオーブントースターで表面を焼き上げます。仕上げに青柚子の皮を散らすと香りよい夏の一品になります。

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調理法2. 炊く:強火で煮汁を対流させながら炊き、冷やして味を含める

煮る前に冷水につけてパリッとさせる

POINT.1 - 煮る前に冷水につけてパリッとさせる

鮮度の良いなすが手に入ったら、ぜひ作ってほしいのが丸炊きです。まず、煮汁の準備から。鍋に煮汁の材料を入れて沸いたら火を止め、干しえびの風味を浸透させておきます。なすはヘタを落として縦に8本ほど切り込みを。浅めに、皮だけ切るようなイメージです。これで味の出入りがしやすくなります。そうしたらすぐ、冷水につけてください。時間は10分ほど。青菜と同じで、火入れ前にパリッとふっくらさせることで細胞がイキイキとし、火を入れたとき柔らかくなりやすい。このひと手間が大事です。

2本ずつ入れて、沸騰を保ちながら炊く

POINT.2 - 2本ずつ入れて、沸騰を保ちながら炊く

煮汁を再び強火にかけ、煮立ったらなすをまず2本入れます。なすを包み込む煮汁が、常に熱々の状態であるように再沸騰したらまた2本と、一気に入れず少しずつ入れていきます。湯温が低いと味がぼやけておいしさが半減し、色もきれいに仕上がりません。すべて入れ終わったら落としぶたをして中~強火で、ぷくぷくと沸騰している状態を保ちながら20分炊きます。火を止めて冷まし、容器に汁ごと移して冷蔵庫でしっかり冷やしてから食卓へ。おろししょうがはぜひたっぷり、あとは好みの香味野菜を添えてどうぞ。

なすの丸炊き

なすの丸炊き

コツ・ポイント

なすは縦に8本ほど切り込みを入れ、冷水に10分ほどつけてパリッとさせてから炊きます。用意しておいた煮汁を火にかけ、煮立ったらなすを入れます。一気に入れず、2本ずつ入れることで常に熱々の状態で炊きあげましょう。容器に汁ごと移して冷蔵庫でしっかり冷やし、好みの香味野菜を添えてどうぞ。

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ちゃんと作るとちゃんとおいしい。素材と真摯に向き合って。

ちゃんと作るとちゃんとおいしい。素材と真摯に向き合って。

焼いて、炊いて、揚げて、漬けものにしてもおいしい「なす」。店では、6月頃から賀茂なすをお出ししていますが、今回はご家庭で手に入りやすい一般的ななすを使って2品ご紹介しました。なすの鮮度の良さは、トゲがある、切り口の色なども言われますが、袋に入っているとわかりにくいので、皮にツヤがあってハリがあるものを選ぶとよいでしょう

夏はさっぱりしたものを好みがちですが、コクのあるものが食卓にあると味わいに強弱が出ます。焼きなすの田楽はそんなときに便利。丸炊きはたっぷり作って冷やしておくと、例えばささ身に合わせてオリーブ油をかけた小鉢や、そうめんのつけ合わせなどにも応用できます。真夏のバーベキューに持っていけば、こってり料理の合間に人気の一品となるでしょう。

なす自体は淡白ですが、味が控えめな分、ほかの味を引き込みやすいのが特長。相性のよい具材、調味料を合わせると、おいしさが膨らみます。まずは、作る料理をしっかりイメージし、レシピ通りに丁寧にやってその柔らかな味を感じとってください。目分量で作って「なんか違うな」という仕上がりは「全然違う」のといっしょ。ベースをきっちりやることで、うまくいかないときにも原因が見え、次の改善点がわかります。おいしくできたら、好みに合わせて調整していく。それが、あなたの家庭の味になります。

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  • 文:須永久美
  • 写真:キッチンミノル