お酒と料理

小田島大祐 / 割烹 小田島 日本のオレンジワインを簡単つまみで

ワイン好きならば「割烹 小田島」の名前を知らない人はいないだろう。フランスでの修業を経た父・小田島稔さんは、帰国後に和食とワインのマリアージュを提案した先駆的な割烹「有栖川」をオープン。その後、いくつかの変遷を経て、六本木に「割烹 小田島」をオープンした。淡く炊いた大根の上にフォワグラのソテーをのせた「フォワグラ大根」はあまりに有名だ。
息子の大祐さんも「割烹 小田島」大学卒業後から、一緒にカウンターに立つ。イタリアとフランスに2年間ワイン研修で留学し、ソムリエの資格も持つ大祐さんが選んだ日本のお酒は、オレンジ色のワインでした。

甲州ブドウの酸やほのかな苦味が、土のニュアンスがある食材に合う

甲州ブドウの酸やほのかな苦味が、土のニュアンスがある食材に合う

今回選んだのは、栃木のココ・ファーム・ワイナリーで造られた「甲州F.O.S.」です。ここ数年でオレンジワインの人気が高まっていますが、ココファームはいち早く、甲州種ブドウを「醸し」発酵させたこの商品を完成させていました。濁りもなく、綺麗なオレンジワインですね。当時の醸造長だったブルース・ガットラヴさんの先見の明や技術の高さ、そして現在の醸造の確かさが感じられます。

甲州種ブドウの特徴は、グレープフルーツを思わせる柑橘系の爽やかな香りです。ワインは軽やかになる傾向が強く、もう少し厚みが欲しいなと思うこともあります。その点、この「甲州F.O.S.」は、赤ワインの醸造と同じように果皮を一緒に漬け込み発酵させることで、ブドウの香りや成分を液体に移しています。ある程度の酸やほのかな苦味も感じられ、立体的な味わいがありますね。

食材のもつフレーバーで、こうしたワインの酸や香りを一層引き出すことができます。今回のワインの場合は、ワインから感じるほろ苦さに合わせる、土のニュアンス。酸には柑橘を合わせて、それぞれ作ってみましょうか。

1.オレンジワインにオレンジを。『鶏もも肉幽庵焼き マーマレード味噌和え』

軽やかな「マーマレード味噌」を作りましょう。作り方はとても簡単で、お使いの味噌に、ポン酢とマーマレードを混ぜるだけ。もちろん、全部市販のものでいいですよ。

1.オレンジワインにオレンジを。『鶏もも肉幽庵焼き マーマレード味噌和え』

鶏肉はフライパンで焼きます。皮目はこんがりと色がつくまでしっかり焼くのがポイント。香ばしい香りもワインに合いますね。この「マーマレード味噌」は、鶏肉だけではなくて、豚肉やお魚と合わせても美味しく食べられます。味噌で和えたら、すぐに食べることもできるし、作り置きしておいて、冷たいまま召し上がっていただいてもよいのではないかと思います。

甲州ワインの特徴である柑橘系の香りを、マーマレード(オレンジ)の程よい苦味や爽やかな香りが引き立たせてくれ、味わいの幅を広げてくれると思います。最後に、香ばしさをプラスするためにゴマをひと振り。これもちょっとしたポイントです。

2.土のニュアンスがポイント『簡単ヘルシーがんもどき 香味野菜刻み』

次はがんもどきを作りましょう。作るのが難しそうですか? 実はとても簡単、がんもどきのタネで使うのは、お惣菜のきんぴらごぼうと木綿豆腐、それに山芋です。

2.土のニュアンスがポイント『簡単ヘルシーがんもどき 香味野菜刻み』

この料理のポイントは「土のニュアンス」「日本のハーブの香り」「揚げた時のフレーバー」です。使うお惣菜は、きんぴらごぼうの他、レンコンの炒めたものなどでもいいですね。ひじきの煮物など、海藻のもつヨード香も合うかと思います。そうしたお惣菜を買ってきて、ちょっと余ったらリメイクするくらいの気軽さで作れます。お惣菜に味が付いているので、味付けも不要です。
薬味は数種類使ってみてください。西洋ではハーブを数種類同時に使うことが多いのですが、その考えを応用しました。食感も多彩になり、香りにも幅が生まれます。

「甲州F.O.S.」が持つ、酸化熟成による酸、果皮と発酵させて醸成された上品なほろ苦さに、土の香りや揚げた時のフレーバー、そして香味野菜の爽やかな香りが混じり合い、口中での味わいや食感の変化をワインとともに味わうことができます。

ワインを飲むときは、喜びしか存在しない

ワイン、好きですね。一通り飲みますが、やはりワインを飲む機会が圧倒的に多いですね。
一人で飲むことはほぼないです。特にワインは極力、複数人で飲むものだと決めているんです。ワインは友達と集まったり、何かを祝ったりする場、ハレの日に似合うお酒。せっかくだからこれを開けようかとか、デートした時に彼女の生まれ年のワインを開けてみようとか。ワインを飲むときには、喜びしか存在しないと僕は感じています。
料理を持ち寄って、みんなでワイワイと飲むことが多いですね。特にマリアージュを考えて料理を持っていくということはしないですが、やっぱり同業者の仲間も多いので、その場でこんな香りを足したらいいんじゃないとか言い合って、アレンジすることもあったりします。

父が料理人だったので、物心ついた時から料理人以外は考えていませんでした。高校の時から父の店で皿洗いのアルバイトをさせてもらって、そのなかで沢山のお客様と出会い、ワインと食事を合わせているシーンを目の当たりにして、楽しい仕事だなと思うようになりました。高校を卒業してすぐに働いたり、調理師専門学校に行くことも考えたんですが、父からは「定年で終わりという職業ではないから、焦らずにまずは進学して、友達や知り合いを作りに行けばいい」と言われました。本当は嬉しかったかもしれませんが、「あまり勧めはしないよ」と。
自分に子供ができた今は、当時の父の気持ちがなんとなくわかる気がします。僕も子供に同じように言うだろうな。もっと稼げる職業もあるぞ、とか(笑)。
でも、収入よりも何よりも、僕自身はこの道に入ってよかったと思いますね。毎日、楽しいことを経験させてもらっています。大学を出てしばらくしてから、イタリアやフランスにも留学に行かせてもらって、ワイナリーも随分回りました。

今も父と一緒に料理を作っています。緩やかな変化としては、何かこう、重ねたような味を作るのではなく、シンプルに食材を使いつつ、そこに香りを添えるという構成を意識するようになりました。引き算をできるところは、どんどんしていきたい。
食材に関しては、日本の食材以外でも取り入れられるものは積極的に取り入れています。フランス料理やイタリア料理は、いろいろな食材を自由に使っているけれど、同じことを日本料理がしようとすると「創作料理」にカテゴライズされてしまいがち。そうではなくて、日本料理の枠の中で、もっと自由に、もっとシンプルに調理していきたいと思っています

鶏モモ肉幽庵焼き マーマレード味噌和え と 簡単ヘルシーがんもどき 香味野菜刻み

鶏モモ肉幽庵焼き マーマレード味噌和え と 簡単ヘルシーがんもどき 香味野菜刻み

コツ・ポイント

鶏もも肉の幽庵焼きは、皮を色づくまで焼くことがポイント。裏返したら蓋をし、蒸し焼きにすると短時間でできます。
がんもどきに練り込むお惣菜は、根菜系のものか、ひじきなどの海藻系を。

2014 甲州F.O.S.

2014 甲州F.O.S.

分類:白ワイン(オレンジワイン)

葡萄の品種:甲州

生産地方:山梨県甲州市勝沼町 秋玉園

味わい:辛口ミディアムボディ~フルボディ

アルコール分:12%

ココ・ファーム・ワイナリー/1950年代、栃木県足利市の特殊学級の中学生たちと担任教師によって開墾された、急斜面の葡萄畑がその始まり。知的障害を持った人たちとワインを造るため、1980年に父兄たちによって有限会社ココ・ファーム・ワイナリーが設立、84年に最初のヴィンテージができた。1989年には、米カリフォルニアから醸造技師ブルース・ガットラヴ氏を招聘。高品質なワインは、2000年の九州・沖縄サミット、2008年の北海道洞爺湖サミットでも使われている。

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  • 文:柿本礼子
  • 写真:牧田健太郎