ピックアップシェフ

橋本 宏一 セララバアド 目指すものは日本の食材が織りなす四季の情景。 驚きも交えながら、料理で表現したい。

『エル・ブリ』で新しい技術を、『Noma』でナチュラルに回帰する料理を教わった。

石垣島を出て、いよいよスペインでの研修がスタート。

初来日したフェラン・アドリア氏の講習会は、予想以上に素晴らしいものでした。計画通り、スペイン語で書いた手紙と履歴書を渡そうとしたのですが、応募期間に送ってほしいと言われ、あえなく門前払い。募集を待って再度トライしましたが、残念ながら受からなかったんです。しかし捨てる神あれば拾う神ありのごとく、同じサンセバスチャンにある『レストラン・マルティン・ベラサテギ』から「研修として受け入れる」という返事をもらい、ついに住み慣れた石垣島を去ることになりました。
夢見ていた国に来たものの、スペイン語がほとんど喋れなかった私は、研修が始まる前に、市内の一つ星レストランで短期間働きながらバルセロナの語学学校に通いました。バイト先の人達はとても親切で、厨房にある道具や料理に関するあらゆる用語を、スペイン語で教えてくれました。それだけでなく「そんな弱気な態度じゃマルティンでは通用しないから、強気な態度で行け」とか、「キツイから行くのやめちゃいなよ」とか(笑)、そんなありがたいアドバイスもたくさんもらいました。
当時の『マルティン・ベラサテギ』は世界中から研修生を受け入れていた時代で、キッチン下には2段ベッドがダーッと並んでいました。半年は勤務するという条件でしたが、仕事が辛くて、半年もいない人が多かったですね。私は唯一の日本人だったからか、割とよくしてもらったと思います。その後働いた『エル・ブリ』を紹介してくれたのも、マルティンさんですから。ずっと「『エル・ブリ』で働きたい、お願いします」と頼んでいたら、「お前は何度も何度うるさいな。明日、フェランと飲むから頼んでやる」と言ってくれて(笑)。そんなありがたい手助けもあり、『エル・ブリ』での研修が決まりました。

石垣島を出て、いよいよスペインでの研修がスタート。

『エル・ブリ』で体験したものは、すべてが新しかった。

今なら多くの人に知られていますが、当時はエスプーマ器や液体窒素、アルギン酸ナトリウムなどを使う調理法など、日本には全くありませんでした。さらに店での作業システムや厨房のデザインなど、すべて目新しいものばかりだったので、毎日ワクワクしながら働いていました。とくにラッキーだったのは、エスプーマ器や液体窒素などを使う部門に配属されたことです。いちばん知りたかった分野だったので、新しい技術をどんどん吸収していきました。そこで扱った食材、調理法、機材はすべて写真に撮って記録しています。同僚たちには、『エル・ブリ』の本でも作るつもりか、とよくからかわれましたね(笑)。ただ、その楽しさの一方で、正直、これを自分の料理として落とし込むにはどうすればいいのか、難しいんじゃないか、という不安も感じていました。
『エル・ブリ』で学んだテクニックと感性がうまく動き始めたのは、帰国後『マンダリンオリエンタルホテル』のモダン・スパニッシュの店『タパス モラキュラーバー』からでした。ご存知の方も多いと思いますが、『タパス モラキュラーバー』は、サイエンティフィックな手法を使い、コースの全ての料理に驚きがあるパフォーマンス性の高いレストランです。帰国後に働いた他の店では、なかなか取り入れられなかった『エル・ブリ』仕込みの技術やセンスが、ここで発揮することができたと思っています。ただ、料理長として、毎月新しいメニューを考えるなか、サプライズ面を強く求められるようになり、それに応える感覚が鍛えられたものの、それとは逆行するように、もう少しナチュラルな方向に軌道修正したくなってきたんです。その思いが強くなったので、独立することに決めました。

『エル・ブリ』で体験したものは、すべてが新しかった。

新しい日本の情景を表現する料理を目指す『セララバアド』

独立オープンする前に、コペンハーゲンの『Noma』で研修をさせてもらいました。「世界ベストレストラン50」で4回世界の頂点に輝いたというドキュメンタリーが上映され話題となる前のことです。シェフのレネ・レゼピ氏は、『タパス モラキュラーバー』にも何度か来てくれていたので、快く研修を受け入れてくれました。短期間でしたけど、研修中は楽しかったですね。お皿の使い方や盛り付けの工夫など、学ぶべきことがたくさんありました。スタッフと一緒に店を出て、野草を摘みに行ったこともあります。私がそのとき模索していたナチュラルに回帰する料理へのヒント、アイデアをたくさんもらった貴重な時間でした。

『セララバアド』は2015年1月、代々木上原の駅から離れた住宅街にオープンしました。いま思えば、冒険的な場所ですが、とても気に入っています。季節ごとにメニュー内容を変え、12皿ぐらいのコースで料理をお出ししています。日本各地の食材を使い、今まで私が培ってきたテクニックを生かしながら、新しい日本の情景を表現する料理を目指しています。毎シーズン、新しい料理が生まれるソースイメージは、食材からのこともあれば、日本の美しい自然の風景、季節の彩りからなど、様々な要素です。それらに刺激され、悩み、考え、試行錯誤し、作り上げてきました。おかげさまで毎シーズンの料理を心待ちにしてくださる方が多いのは幸せなことです。開店以来、そんな調子で長い休みも取らずに店に集中してきましたが、元来の旅好き、放浪好きな性格は変わっていないので、そろそろ旅に出たい気分もあります。ブータンとか、行ってみたいなぁ。未知の場所を訪ねた後には、また新しい料理のイメージが湧くことでしょう。 (終)

新しい日本の情景を表現する料理を目指す『セララバアド』

攪拌するとふわふわ食感に『パイナップル100%のふわふわシャーベット』

『セララバアド』2017年夏、コースメニューの冷たいデザ―トとして、パイナップルのアイスクリームをお出ししています。店では液体窒素を使って冷やし固めていますが、ご家庭でも作れる方法でレシピを考えてみました。ふわふわ食感のアイスクリームは、アイスクリームメーカーがないと難しいと思われていますが、不思議なことに、パイナップルだけはハンドミキサーでふわふわになります。そのほかの果汁ではできないので、パイナップルだけの特性なんでしょうね。あまり知られていないと思うので、この機会に取り上げてみました。ハンドミキサーを使い、高速で時間をかけて泡立てれば、凍らせても口の中でふわりと溶けるシャーベットになります。ラムとココナッツミルクをソースにするので、ピニャ・コラーダ風の大人のデザートといった味わいです。

パイナップル100%のふわふわシャーベット

パイナップル100%のふわふわシャーベット

コツ・ポイント

パイナップルは、ハンドミキサーがあれば、ふわふわのシャーベットができるフルーツです。よく熟れたパイナップルを用意しましょう。 ボウルを氷水で冷やしながら、ハンドミキサーの高速回転で、じっくり時間をかけて果汁に空気を含ませていくのがポイントです。

レシピを見る

  • facebookにシェア
  • ツイートする
  • googleplus
  • はてなブックマークに追加
  • 文:北條尚子
  • 写真:キッチンミノル