ピックアップシェフ

牧島 昭成 ピッツェリア トラットリア チェザリ 笑顔でピッツァを作り、人々を幸せにする職人でありたい。

ピッツァだけでなく、ナポリの全ての魅力を伝えるのが僕の役目。

1日300枚以上のピッツァを一人で焼き続け、職人としての成長していった。

伝説のピッツァ職人、イスキア島のガエターノさんの店『Da Gaetano』を訪れたのは2006年。素性も良く分からない若い日本人の僕を温かく迎えてくれました。
ナポリでは誰もが知っている有名な名門ピッツェリアでもあり、師匠のガエターノさんはピッツァ職人として尊敬を集める人物です。その年から4年連続で修業に行きましたが、ガエターノさん、そして彼の義理のお兄さんのパシュクアーレさんの2人の大師匠から直々にピッツァを教えてもらったのは、すごく幸運だったし、僕の財産になりました。技術的なことを学んだというより、人間としての懐の深さや、今現在の僕の座右の銘である「ピッツァは心で焼くこと」を教えてもらいました。
毎日熱心に働く僕を見て、親方の仕事であるカウンターで生地を伸ばしトッピングする仕事をやらせてくれましたし、修業を終了した年の帰国のときはガエターノさんから家宝であるガエターノさんのおじいさんが使っていた銅製のオイル差しやピッツァの保温器をいただき、パシュクアーレさんには「オレの名前を名乗っていいぞ、今日からお前は日本のパシュクアーレだ」と(笑)。すべてが身に余るほどの光栄なことですし、今後はナポリピッツァの伝統の保護と日本での普及活動を、真剣にやっていかなくては心に誓いました。
ナポリのピッツァ職人の技術が優れているのは、やっぱり焼く枚数の差だと感じました。人気店なら一日1000枚、職人一人当たりで300枚以上は焼いています。しかし当時の『チェザリ』で僕が焼くのはせいぜい1日50枚がいいところ。値段をナポリ並の500円位にして、どんどん焼いていかないと店も繁盛しないし、職人としての技術も向上しない。当時はまだ1000円以上だったピッツァの値段をどんどん下げ、ついに500円のワンコインでピッツァを提供するようになりました。これが大評判になり、1日に300~400枚という注文が入るように。目のまわるような忙しさです。同時にナポリピッツァ職人としての技術もどんどん向上していく手ごたえを感じていました。

1日300枚以上のピッツァを一人で焼き続け、職人としての成長していった。

4回目のチャレンジでついに世界チャンピオンに。会場を大いに沸かせた。

『ピッツェリア トラットリア チェザリ』は、「正式なナポリピッツァ 世界チャンピオンのお店」と自信を込めて謳っています。『Da Gaetano』で修業を始めた2006年から毎年『ナポリピッツァ職人世界選手権』に出場し、特別賞・外国人部門準優勝・ピッツァナポレターナS.T.G.(メイン)部門世界第3位という成績を3年連続でいただきました。そして最後に挑んだのが2010年大会・ピッツァナポレターナS.T.G.部門。この部門で優勝し、世界最優秀ピッツァ職人になりました。大会では自分でプレゼンテ―ションを行い、審査員と質疑応答をするコーナーがあるのですが、通訳を入れずにイタリア語でやってみました。2010年はこれをナポリ弁でやったんですよ。審査員は見に来ているお客さんも入るので、どうすればアピールできるか考えて立てた作戦です。若い日本人が一生懸命ナポリ弁でアピールする姿、かわいく見えたんじゃないかな(笑)。例えれば、大阪のたこ焼き選手権で、外国人の参加者が大阪弁でプレゼンしているような感じ?おかげで会場から大勢の声援をいただき、昨年の3位からついに世界チャンピオンを受賞することができました。
翌日の新聞の見出しは「ピッツァが日本語を喋った!!」でしたよ(笑)。そしてナポリピッツァを日本に広めた功績が『ナポリピッツァ職人協会』より認められ、日本人で唯一ナポリピッツァ世界大使に任命されたほか、2013年にはナポリ市長より『ナポリのピッツァと文化の親善大使』に任命されました。 なお、13年一緒に働いてきたスタッフの太田真代が、昨年ナポリで開催された『ナポリピッツァ職人世界選手権』クラシック部門で見事優勝しました。日本人女性としては初の快挙です。僕だけではなく、この店からいい人材がどんどん育っているのは、すごく嬉しいことなんです。

4回目のチャレンジでついに世界チャンピオンに。会場を大いに沸かせた。

社会のパーツとして人々のために意味のあることをやり続けたい。

2010年にレストラン部門と、新たに立ち上げた飲食プロデュース部門を合わせた新会社の社長になりました。やはり世界チャンピオンになったことが大きな自信になったし、新たなスタートになりました。
僕がピッツァ作りで長年こだわっているのが「ナポリと同じ材料を使う」、「ナポリと同じ作り方、スピードで作る」、「ナポリと同じ価格で提供する」ということ。以前店にはイタリア国旗を飾っていましたが、いまはナポリの旗ですし、全てのディスプレイはナポリのもの。テーブクロスまで取り寄せています。僕は何度もイタリアに行っていますが、心底ナポリが大好きなので、ナポリ以外の街は、ほとんど行ったことがないんですよねぇ(笑)。たぶんナポリのほとんどの人は僕と同じように決して裕福でない家庭で育ち、それでも日々一生懸命生きている人情に厚く、懐の深い人が多いんですよね。そういう部分や僕と生い立ちまで似ているナポリ人に惚れこんでいるので、人々の魅力や独自の文化、つまり料理のレシピだけでないナポリのストーリーごと日本に伝えたいと思っています。名もない日本人に最高の名誉を与えてくれたナポリの人々への恩返しも含めてね。
仕事の他に、僕が被災地や養護施設でのボランティア活動を積極的に行っているのも、ナポリの人々の影響です。災害が起こるとピッツァ職人たちが集まって、被災地の炊き出しなどに、すぐ行動する人たちです。僕もただ単に飲食店をやっているだけじゃなく、社会のパ―ツのひとつとして、意味があることをやっていきたいんですよね。お金だけではこんなにふうに動けないし、もっと上手な儲け方もあります。しかしそれ以上に価値があることをやらせてもらっている気がするので、僕自身は納得しています。
振り返ればピッツァ職人になろうとしていた人生ではないけれど、なんか頑張っちゃいましたね(笑)。ここまで僕を育ててくれた地元・名古屋のためにもっともっと貢献したいし、自分を認めてくれたナポリに恩返しできる様、正しいナポリピッツァを世界中に広めていきたいと思っています。 (終)

社会のパーツとして人々のために意味のあることをやり続けたい。

さくっ、ふわっ、もちっという食感の揚げピッツァ『モンタナーラ』

今回お教えする「モンタナーラ」というピッツァを初めて食べたのは、2007年にイタリアで修業をしたときでした。休日にナポリまで遊びに行ったとき、この街で一番流行っている店のピッツァを食べようと思い、訪れたのが『ピッツェリア・スタリータ』でした。
どこがナポリでナンバ―ワンかと言うと、観光客ではなくナポリの人々が行列を作っていたからです。おすすめをください、と注文すると出てきたのがこれ。揚げピッツァですよ、衝撃的でした。それまでピッツァと言えば、クラシックで王道のマルゲリータとマリナーラが最高、と考えていたので、面食らってしまったんです。
その後調べてみたら窯で焼くピッツァは500年ほどの歴史ですが、揚げピッツァ「モンタナーラ」は千年以上前から作られていたとか。そのピッツァがナポリっ子にいちばんの人気と聞き、凝り固まっていた僕のピッツァ感を一気に変えてくれました。ピッツァの奥の深さと、自由さ、許容範囲の広さを知らしめてくれたありがたい存在なんです。ご家庭で作れるピッツァということで、ぜひこの「モンタナーラ」を再現していただきたいと思いました。ピッツァ生地は揚げると一段とおいしくなるんですよ。さくっ、ふわっ、もちっとした3つの食感が楽しめます。トッピングはマルゲリータにしましたが、ご家族がお好きなトッピングでぜひ作ってみてください。大きいままでなく、生地を直径5センチ位のミニサイズに成型するとフィンガーフード風になってお子さんでも食べやすくなりますし、パーティなどにうってつけの料理になります。前回お教えした料理『パッケリ アッラ ジェノベーゼ』のお肉ソースを乗せてもおいしいですよ。冷めないうちにアツアツのところを召し上がってください。

モンタナーラ (揚げピッツァ)

モンタナーラ (揚げピッツァ)

コツ・ポイント

ピッツァの元祖は揚げピッツァ。 ピッツァ生地は市販の冷凍の玉を発酵させて使用してもいいです。高温で揚げるのは、一気にふくらませ軽さをだすため。素揚げした生地はとても焦げやすいので、チーズが焦げる程度で取り出してください。※調理時間は発酵時間除く

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