ピックアップシェフ

吉武 広樹 Restaulant Sola paris  多彩な経験で得たエネルギーを「料理」という形に。「料理」は自分の生き方そのもの

自分の原点である故郷「日本」を胸に、パリから更なる世界を目指す。

これまでの概念や先入観を覆す、パリで出会った衝撃的な感性とそのアプローチ。

世界周遊中に目にした未知の料理や異次元の厨房に刺激され、約1年後の2008年、パリに再び舞い戻りました。1つ星獲得直前のスペイン料理店「フォゴン」やゴーミヨー誌でその年の「顔」に選ばれたウィリアム・ルドゥイユシェフの「ズ・キッチン・ギャラリー」、3つ星を獲得して勢いに乗るパスカル・バルボシェフの「アストランス」などで修業し、各店の「流行の理由」を分析しました。「エル・ブジ」と同じ流れで趣向を凝らし、よい立地条件でリーズナブルに提供していた「フォゴン」、アジアのスパイスを巧みに織り交ぜ、シンプルに効率よく短時間で仕上げる「ズ・キッチン・ギャラリー」は、パリの美食家に愛されるていると感じました。
衝撃を受けたのは「アストランス」です。初めて料理を前にした時、僕の理解力がまだ不十分だったため、素材を切ってお皿に盛るという大変シンプルなものに見えたからです。食事代は決して安くないので「お客様にとってこれでよいのか?」と頭の中が混乱しました。ところがパスカルシェフと接していくうちに、彼の料理が「厨房からお皿の上に乗せるまでの行為」でなく、それよりずっと以前の、「どうやってその素材が作られて今ここにあるのか」というところから始まっているのだと気づいたのです。彼は毎週、夜明け前の市場に買い出しに行き、どこの誰がどういう想いで作ったか、各素材を見極めています。他に何も足す必要がないほどの、完成度98%の素材が、切って100%になるのであればそれも料理として成立するのです。パスカルシェフのアプローチに触れて、これまでの既成概念が崩されたのと同時に、少し肩の荷が下りる思いでした。手を加えるだけが料理ではなく、他にも素材と向き合う方法や付加価値を高める方法があるのだと、気づいた瞬間でした。

これまでの概念や先入観を覆す、パリで出会った衝撃的な感性とそのアプローチ。

パリで改めて意識する自分の独自性。それは「故郷」そして「日本」。

パリでの修業中、シンガポールの食イベントに参加するチャンスも到来しました。あらゆるシェフから学んだ集大成を出し切ったこのイベントでは高く評価され、シンガポールでのレストランオープンの話もいただき、とんとん拍子に進みました。しかしオープン直後の現実は厳しく、これまでは単純に料理が美味しければ集客できると考えていましたが、友人知人のいないシンガポールでの最初の1か月は、お客様がゼロ。料理の美味しさをきちんと伝えて広めていく宣伝活動やマーケティングの重要さを思い知らされました。
シンガポールでそんな苦労を経験しているところに、現共同経営者であるパリ時代の知人から「パリで一緒にやらないか」との連絡が。物件を見つけて1年後の2010年、再びパリへ戻り現在の「Sola」を始め、徐々にお店を作り上げてきたかたちです。今4年が経ちますが、オープン後1年で1つ星をいただき、次第に注目され、新たな期待が寄せられるなかで、少しずつ変化を重ねてきました。当初は化学的な料理、その後「ノーマ」のような北欧系と、その都度流行りを意識してきましたが、最近は、果たしてこの後自分が目指す料理はいったい何だろうと思い悩んでいます。「エル・ブジ」や「ノーマ」がこれだけ一世風靡したのは、誰かの模倣ではなく、世界の知識を踏まえた上で、彼らの故郷から、それぞれの環境や文化に根差した料理を発信したから、人はそういうものに魅力を感じるのではないかと。そして僕自身を振り返ってみて、改めて「故郷」、「日本」を意識するようになったのです。

パリで改めて意識する自分の独自性。それは「故郷」そして「日本」。

琴線にふれるのは「問いかけ」のある料理。人生を咀嚼し、お皿の中に反映する。

「原点回帰」、「故郷」という言葉は、昨秋、グランプリを獲得した若手料理人コンクールREDでもテーマにしました。僕にとっては超えるべき一つのハードルだったこの大会で、タイトル獲得以上に、心に響いたことがありました。それは大会後にいただいた数多くのメールに、「お料理の映像を見ただけで涙があふれました。」と書かれていたことです。食材はすべて故郷である佐賀県産のものを使用し、お水も同じ地域の湧き水を汲みに行って完成させた料理で、大会会場では作る過程もスクリーンで紹介されました。その映像を見ただけで、食べなくとも、僕の一皿に涙した方がいらっしゃったのです。これは恐らく、僕がアストランスのパスカルシェフの料理に触れた時のように、皆さんが僕の料理に対する理念に共感してくださったからだと思います。
これまで僕にとって印象に残った他のシェフの料理も、美味しかったものというより、「なぜこの料理なのか」という問いかけのあるものでした。単純に「美味しい」というものは、そのジャンルは異なりますが、高級レストランでなくても見つかります。その単純に「美味しい」という枠を超えて重要なのは、なぜその料理に行きついたのかというシェフの哲学で、人が深く感銘を受けるのはその部分だと思うのです。そして今長い目で考えた時に、僕はこのまま最先端を目指し続けることができるのか、果たして十数年後の自分が今と遜色なく労力を費やすことができるのか、どこかでシフトチェンジするべきなのかと、自問自答を繰り返しています。このままこだわり続けて2つ星や3つ星を目指すのか、今あるお店のブランド力を高めて世界各国で多店舗展開するのかなど、この先向かうべき方角と超えるべきハードルを模索しながら、今後も僕自身が咀嚼する経験を料理に反映させていきたいと思います。 (終)

琴線にふれるのは「問いかけ」のある料理。人生を咀嚼し、お皿の中に反映する。

フランスと日本の融合『キノコの炊き込みごはんとフォアグラ・半熟卵』

これは本当に美味しいですよ。家族や親友、とても親しい人が来た時に振舞う一皿です。フランスらしい食材を使って、重くなく気軽なものをと考えているうちに、フォアグラのどんぶりシリーズみたいに、いくつかのアレンジが出来上がりました。フランスならではのフォアグラと日本の炊き込みごはんを合わせたのは、今の僕の料理のルーツとも言えるかもしれません。もともとフォアグラとリゾットのレシピはあったのですが、フォアグラの油もとってくれるし、リゾットよりさっぱり食べられるだろうと思い、炊き込みごはんの上に乗せました。
ごはんに入れるキノコ類もフォアグラとよい相性です。今回使用したのは、シイタケとマッシュルーム、ピエ・ブルー、ピエ・ド・ムートンの4種ですが、シメジやエリンギでもいいと思います。上に乗せる半熟卵は茹でるのでなく、フライパンで白身の部分を黄身に被せるように半生の状態で折り畳みながら焼きました。こうすると茹でる手間もかからず、目玉焼きのように白身と黄身が別々にならず一緒に食べられます。あっさり食べたい時は、卵でなく、大根おろしを乗せても美味しいです。

キノコの炊き込みご飯とフォワグラ・半熟卵

キノコの炊き込みご飯とフォワグラ・半熟卵

コツ・ポイント

炊き込みご飯は炊きたて、フォワグラは表面はカリッと、中はとろっとした状態で。 今回はキノコの炊き込みご飯ですが、栗ご飯や、タケノコご飯など、キノコ以外でも楽しめます。

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