お酒と料理

吉田勝彦 / 吉田風中国家庭料理 ジーテン 故郷のりんごからできたシードル、温故知新の味

「吉田風」中国家庭料理という肩書きを持つ「ジーテン」。過度な油を使わず、食材の味をストレートに生かした料理の数々は、食べているうちにじわじわと体に活力がみなぎるようだ。薬膳の考えを生かした、ヘルシーな料理のスタイルは、その後に続く中国料理の料理人たちを大いに刺激してきた。

店主の吉田勝彦さんは岩手県出身。最近は岩手食材を選ぶことも増えたという。今回セレクトいただいたお酒は、岩手のワイナリー「エーデルワイン」が造るリンゴ酒「星の果実園シードル」。故郷の味への思いと、お酒や料理について聞いた。

料理に砂糖は加えず、シードル(りんご)の甘みでバランスをとる

料理に砂糖は加えず、シードル(りんご)の甘みでバランスをとる

僕は岩手県奥州市の出身です。お店ではよく、岩手の食材を使っています。

若い頃は郷里にそこまで思い入れがなく、上京してしばらくの間、故郷に目を向けていない時期が続きました。東京でがむしゃらに働いて、帰郷するのも1年に一度、あるかないかでしたね。

岩手に目を向けるようになったきっかけは大きく2つの理由があるかな。

ひとつはSNSが発達して、故郷の人とも交流が深まったこと。それでどこか、里心がついた気がします。そしてもうひとつは震災です。震災後は、向こう(岩手)とやりとりすることが増え、そうしているうちにやっぱり、岩手を盛り上げなきゃという、使命感のような気持ちが生まれました。岩手に行く機会も増えましたね。

子どもの頃は野菜はあまり好きじゃなかったんです。だいたい僕らの子ども時代は、1シーズン毎日、ずっと同じ旬野菜ばかり食べさせられるんですよ。そんなこともあって、岩手県産野菜にあまりいい印象を持っていませんでした。

でも、料理人の修業を東京で重ね、改めて故郷の野菜を食べた時に、ああ、岩手の野菜は東京で売っている野菜とはこんなに味が違うんだ、ということを感じました。もっと食べておけばよかったな、なんて思ったりして。散々食べて飽きていたのに(笑)。そこから、各地域の食材についての興味が広がり、意識的に見たり使ったりしています。岩手産以外で最近よく使っているのは、徳島県の神山町で取れるすだち。とても重宝しています。

今回は、僕の地元の岩手のワイナリーのお酒を選びました。「サンふじ」から造るシードルです。比較的甘口のシードルなので、料理に砂糖は加えず、素材の甘みだけでバランスをとりました。とはいえ、甘さが際立つ訳ではないので、ドライな印象を受ける方もいらっしゃると思います。

1.酸に辛味を掛け合わせ味の調和をとる『イワシの南蛮風 すだちとキノコのソース』

このシードルは、白ワインに合う料理と同じように考えられると思います。ですので2品とも魚介類を材料に選びました。1品目に使ったのはイワシです。

1.酸に辛味を掛け合わせ味の調和をとる『イワシの南蛮風 すだちとキノコのソース』

三枚に下ろしたイワシを揚げて、刻んだ舞茸のソースをのせます。ソースには、すだちと米酢の2種類の酸を使っています。でも、これだけでは酸が立ち過ぎてしまいますね。

ここにラー油を合わせることで、酸味の尖りをカバーしています。酸味の尖った味に、辛味の尖った味をと合わせると、2つの味覚の山ができる。どちらが目立つということなく、いいバランスの味になるのです。

とはいえ、味はそこまで酸辛ではありません。シードルの柔らかな甘みや、爽やかな酸と相性の良い、穏やかな旨味を持った料理です。

2.食感豊かで、優しい甘みがじわり。『ホタテと百合根の蒸し物』

2品目の魚介はホタテを使い、百合根と合わせました。百合根は薬膳ではせき止めとして使われているもの。蒸すとホクホクとした食感が楽しめます。

2.食感豊かで、優しい甘みがじわり。『ホタテと百合根の蒸し物』

蒸し物は好きな調理法の一つ。お店ではいつも寸胴鍋いっぱいにお湯を沸かして、大きなせいろをのせています。

ここでのポイントはホタテを手でちぎること。包丁のスパッとした切れ目と違い、繊維に沿って手で裂いた断面からは味がしみ込みやすくなるので、オススメです。

「シャクシャク」と「ホクホク」の中間あたりの百合根、ねっとりと弾力のあるホタテ、どちらからも、違うタイプの旨味や甘みがじわじわと感じられて、シードルの印象ととても合うのではと思います。

「同じ土地のもの」で合わせる

東京だと様々な地域の食材が入りますが、最近は魚にしても野菜にしても、「地のもの」と「地のもの」を合わせると、しっくりと馴染む味になるなあと感じています。

これはどういうことなのでしょうね。気候や、土など、考えられることは色々とありますが、最近僕は、特に「水が一緒だからかな」と思うようになっています。

岩手は短角牛や八幡平サーモンなど、美味しい食材がたくさんありますから、この岩手のシードルを飲む時に、そうした食材と合わせて、試してみてくださいね。

イワシの南蛮風 すだちとキノコのソース と ホタテと百合根の蒸し物

イワシの南蛮風 すだちとキノコのソース と ホタテと百合根の蒸し物

コツ・ポイント

イワシは2度揚げを。1度目は170℃、2度目は200℃に上げるとサクッと仕上がる。

ホタテの蒸し物は、繊維に沿って手でさくこと。そして蒸し器に入れ過ぎず、レアに仕上げるのがポイントです。

星の果樹園シードル(スパークリングワイン)

星の果樹園シードル(スパークリングワイン)

分類:シードル

りんごの品種:サンふじ

生産地方:岩手県奥州市江刺区

味わい:甘口

アルコール分:9%

エーデルワイン/岩手県花巻市大迫のワイナリー。前身は町役場と農協が中心となった「岩手県ぶどう酒醸造合資会社」。風土に適した品種の選定や栽培を心がけている。「星の果樹園シードル」は、奥州市江刺区のりんご(サンふじ)を使った、りんごのスパークリング。りんごそのままをぎゅっと絞って詰めたような、素直な美味しさがあるシードルだ。

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  • 文:柿本礼子
  • 写真:牧田健太郎