ピックアップシェフ

野永 喜三夫 日本橋ゆかり 食卓を幸せにするみそ汁と肉じゃがを、もっとおいしく食べて欲しい。

日本が誇る調味料、醤油、みりん、日本酒で煮る代表的煮物、肉じゃが。野永流レシピは今までの作り方が一変する方法。おいしくなる秘密を解き明かしながら、その手順を伝授して下さいました。

みんなに愛される家庭料理、肉じゃがは日本を代表するおふくろの味

和食の中でも、いちばん愛されている料理といえば、肉じゃがじゃないでしょうか。煮物料理の代表格だし、誰が食べてもホッとする味で、冷めても温かくてもおいしく食べられるおかず。おふくろの味といえば、肉じゃがをいちばんに挙げる方も多いと思います。
ご存知のように、日本料理は世界中から注目されています。そのいちばんの理由は、世界一の長寿国を支える「食」と「健康」についても興味が、とても大きいからでしょう。食べて健康になり、長生きできる理由は、やはり世界に誇る発酵調味料、味噌や醤油、みりんなどの効能が大きい。日本人の知恵と風土の中で生まれた調味料とともに、日本料理の伝統は守られてきたし、この伝統は未来にも繋ぐべきものだと思っています。その数あるメニューの中でも、肉じゃがは日本を代表する、おふくろの味であると思っているんですよね。
僕の料理について、外国の方に説明を求められたとき、自信を持って「日本料理」と答えます。というのも、江戸料理も京料理も踏まえた料理で、誰が見てもきれいで、旬の食材で季節感を感じてもらえ、食べて健康になる料理をお出ししている、という気持ちでいつも説明しています。

みんなに愛される家庭料理、肉じゃがは日本を代表するおふくろの味

我が家の子供たちもそうですけど、肉じゃがと同じ材料で何か別のものを作るなら、ホワイトソースとか、トマトソース、デミグラスソースを入れて煮込んで、シチューにしたほうが絶対に好きなんです。またはカレーとかね。でも、日本には、もともと醤油、みりん、日本酒しかなかったから、その風土の中で生まれた料理が、肉じゃがなんですよね。そういう由来を考えると、究極の家庭料理と言ってもいいんじゃないでしょうか。
毎日遅くまで仕事していますので、子供たちと自宅で夕食を食べるのは月に二回ぐらいしかないんですが、そのときは私の仕事柄、シチューのような洋食よりも和食を作ってあげたいな、と思いますので、肉じゃがを作ることもあります。このレシピのように、ウインナーソーセージを入れるのは、子供たちを喜ばせるためでもありますけど(笑)、ソーセージからいいうまみが出ますので、ひと味違ったおいしい肉じゃがになります。

おいしくなる"科学"を意識すれば、料理はもっと楽しく。

僕の作る肉じゃがは、冷たいだしの中に調味料を全部入れ、しゃばしゃばした合わせだしの中に、材料をまとめて入れて作ります。前回お教えしたみそ汁も煮物、煮魚でもそうですが、すべて冷たいところから調理を始めるのは理由があるんです。肉や魚はタンパク質のかたまりでしょう。冷たい合わせだしの中に、肉や魚をいれて煮込んでいくと、だんだんに濁ってきますね。タンパク質は62~63度で凝固し始めるので、あのにごりは肉や魚からうまみがとけ出しているものなんです。
肉じゃがを作るとき、先に肉を炒めてから野菜を入れて煮込んで作る方が多いと思いますが、無駄な油を足して炒めてしまうと、どうしても肉が硬くなります。でもこのように最初から一緒に煮込むやりかただと、食材から旨みがでて肉は柔らかく仕上がりおいしく食べられます。

おいしくなる"科学"を意識すれば、料理はもっと楽しく。

もうひとつのポイントは、一旦煮た肉じゃがを、冷まして再加熱すること。鍋が冷えていく過程で、合わせだしに溶け出したうまみが、じゃがいもや野菜にすーっと入り込んでいくんです。3時間ぐらいは、冷ましたほうがいいかな。そうやって鍋が冷えたら、汁を味見してもまだ薄いと感じますが、それでいいんです。「あ、薄い、醤油を足しちゃおう」という方が多いですが、それはダメ。もう一回煮込むときに、味を確認しながら煮つめていき、お好みの味になったら火を止めればいい。それで出来上がり。うまみが最大限に溶け出した煮汁によって、おいしい肉じゃがに変身するんです。
肉じゃがは、朝、家族が出かけたあとに材料を切って、火にかければいいんじゃないかな。その間、掃除や洗濯をしていれば、半分までできちゃうでしょう。そして夕方、うまみが十分に染みこんだ肉じゃがを、丁寧に仕上げていく。家族の大好きな煮物料理が完成します。言ってみれば料理は“科学”なんですね。毎日やっていることだから、あまり気にしてないだろうけど、鍋の温度が何度になるとタンパク質は凝固し始めるとか、鍋の中で材料を冷ましている間も、調理が進んでいる…ということを意識しながら台所に立つと、もっともっと料理は面白くなりますよ。

子供たちに一生記憶に残るような"うちの味"を作って欲しい。

僕が料理人として鍛えられたのは、京都『露庵 菊乃井』での修行時代のまかないです。肉じゃがも、けっこう作りました。ただ、関西の肉じゃがは牛肉を使うんですよね。まかないの予算は限られていますので、安い切り落とし肉や箱買いできるじゃがいもや人参を買ってきてね。経済的な材料で誰もが好きな肉じゃがを作っていたのも、いい思い出です。

子供たちに一生記憶に残るような"うちの味"を作って欲しい。

まかないの煮物料理で、あれはうまかったなぁ、と記憶に残る料理があります。京都の料理屋は、京野菜を作っている農家さんから直接野菜を買うので、修行中、何度も畑まで行きました。そこで野菜を生でかじって味をみたりしながら、京野菜について教えてもらうことも、大事な京料理の勉強なんですが、あるとき、これを持っていけ、と大きな聖護院大根をもらいました。千枚漬けにする丸い蕪ではなく、大根のほうです。タダでもらったものだけど、これでまかないを作ろうと、魚のアラと一緒に、ゆーっくり時間をかけてだしで炊いて、まかないに出したら、師匠にも先輩たちにも絶賛されました。言ってみれば、全くお金のかかってない料理なんですが(笑)、厳しい審査員たちに褒められたことは、若かった僕の自信につながったと思います。
「日本橋ゆかり」は、僕で三代目です。祖父や父とは違う、僕自身の日本料理を確立しようと、日々努力していますが、唯一、煮魚の味だけは祖父、父が守ってきたうちの味を受け継いでいます。料理長がつくったものを、必ず最終的に僕が味をチェックしてからお客様にお出しします。そのためにうちは、鰻屋さんのたれのように、煮魚のたれをつぎ足しつぎ足しして、昭和10年からためて使っているんですよね。その話をすると、大概驚かれますが、うちの店の“宝”ですからね。大事にしています。
まぁこれは、ご家庭ではできないことですけど、各家庭にも“うちの味”、“おふくろの味”があるべきだと思います。それは家族にとって大事なもの、一生記憶に残るものです。うちのみそ汁、うちの肉じゃががいちばんおいしい、あれを作って、と家族が何度もリクエストするような、うちの味が完成するよう、僕のレシピがお役に立てば嬉しいです。

肉じゃが (子供がよろこぶウィンナーソーセージ入り肉じゃが)

肉じゃが (子供がよろこぶウィンナーソーセージ入り肉じゃが)

コツ・ポイント

・日本料理の基本は、煮ふくめる! ・時短で美味しい煮物は出来ません ・食材は油で炒めません! ・食材のうま味や香りやだしを引き出すためには、  食材は必ず冷たい状態から全てを加えてから煮て行きます

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