ピックアップシェフ

高橋 義弘 瓢亭 本店 京料理を牽引する老舗の15代目として、 国内外に向けて和食の魅力を発信。

海外で得た新しい味も取り入れ、ゆっくりと進化していきたい。

お客様、店のスタッフ、どちらとも家族のような関係を大事にしている。

『瓢亭』15代目としての重みについては、取材などでよく聞かれます。私も年を重ね、経験を積むにつれて、そういうものなのかなと、徐々に分かってきました。祖父が若くして亡くなったので、親父は28歳で『瓢亭』を継ぐことになり、様々な苦労があったと思います。しかし私は、ありがたいことに20年間、親父の隣で仕事を見て過ごしてきました。
時代を超えて、南禅寺の前にいつも『瓢亭』があるということは素晴らしいことだと思います。またお客様から「昔ここで結婚式を挙げさせてもらったので、今度娘もお願いいたします」というように、皆様の大事なライフイベントや特別な時間と共に『瓢亭』がある、つまり、皆様の《家族》のように付き合っていただいているのは、本当にありがたいことと感じています。
15代続く店ですので、受け継ぐものも多いです。でも折に触れ、新しいことも加えていかなくてはならないと思っています。料理については私に任されている面が多くなりましたが、決定する前に必ず料理長や同世代の料理人を交えて相談しています。一代で築かれた店のご主人なら、その方のカラーを全面に出していいと思いますが、『瓢亭』は長い歴史があります。
親父の代から、何でも言える環境を大事にしながら料理人それぞれが持つ考えを尊重し、常にみんなの意見を求めて仕事の進め方を決めてきました。おいしいものをお出しする、という気持ちは一致しているので、みんなで相談したことを一致団結して新しいことを始めたりすることがよくあります。私が主人となった今、スタッフの意見も取り入れながら、常に風通しよく、家族的な職場であることを心がけています。

お客様、店のスタッフ、どちらとも家族のような関係を大事にしている。

京都ならではの茶事、仕出しなどの仕事で、店以外の経験ができる喜び。

京都に店がある、というのも恵まれていると感じます。というのも、この店の仕事だけでなく、様々な場所で経験を積ませていただいてきた歴史があります。茶道の先生のお宅で初釜のお料理をさせていただくこともあれば、大きなお茶会の仕出しもあるし、お茶屋さんの台所に入って料理を作ることもあります。または海外からの国賓の方が京都迎賓館にいらっしゃればお料理をさせてもらうこともありますし、御所での仕出しも、担当させていただいております。このように、店以外の環境で料理を提供する機会をいただくのも、長年京都で店をやってきたからだと思いますので、本当にありがたく感じています。
また、親父は若い頃『菊乃井』のご主人・村田吉弘さんのお父さんの薫陶を受け、その後は親父が村田吉弘さんに助言する機会が多かったそうです。そして今度は私が村田さんにお世話になり・・・という関係性が受け継がれ、ずっと続いているのも、京都の料理界の良き伝統というか、ここにしかないことだと思います。そういう繋がりはありがたいし、ほかの地区の料理人によく羨ましがられますね。
そういうお付き合いがあることで、お互いの店のスタンス、スタイルもよく分かっていますし、お客様にも伝わりやすい。うまく住み分けができていると感じます。京都には数え切れないほど日本料理屋がありますが、あれが食べたいならあの店へ、とお店の特徴が明確で選びやすい環境にあるかもしれませんね。

京都ならではの茶事、仕出しなどの仕事で、店以外の経験ができる喜び。

時代に合った『瓢亭』の料理をめざし、ゆっくりと進化していきたい。

親父の代から『瓢亭』は出汁を鰹節から鮪節に変えました。料理屋が出汁を変えるというのはものすごく大きな変化ですし、私自身も鮪節の出汁の味が大好きです。そうした中で、いまはさらに昆布と鮪節以外の出汁のレパートリーも増えています。うちの店らしい一番出汁もあれば、様々な素材から出汁をひきますし、それに伴って料理の種類も自然に増えてきましたね。見た目は一緒やけど、食べると全然違う。そういう料理が増えてきました。
例えば《トマト出汁》は、私の代になってからはじめたものですが、きっかけは海外での料理イベントでした。外国に行くとその土地の食材を活用することが良くあります。数年前、フランスのレンヌ市からの依頼で料理をさせていただいたとき、オマール海老でお椀を作らせていただきましたが、そのとき昆布+鮪で取った出汁とオマール海老の殻+焼いたトマトで取った出汁を合わせて吸い地を仕立てて提供したところ、とても喜ばれました。トマトは世界中にある面白い素材で、フレッシュなトマト、焼いたトマトで全く違ううま味と香りが出るんですよ。トマトという、とても身近で慣れ親しんだ素材から生まれる新しい味を考案するようになったのも海外での経験があったからで、そういう機会に恵まれるのはありがたいなと感じます。
以前は、若いうちに海外で修業したかったなと、悔やむこともありましたけど、ここのところ日本料理の料理人として招聘される機会が増えて、年に1、2回は外国に行き、日本料理のプレゼンテーションの場をいただいています。逆に海外の有名店のシェフを『瓢亭』で受け入れることもありますね。そうやって新たな繋がりが生まれ、外国のお客様も増えました。世界に広がるネットワークは、私にとっても本当にありがたいことなんです。
いろいろな料理人の方との出会いを通して感じるのは、料理のジャンル分けが、もうあまり意味を持たないのかな、ということです。それよりも自分のアイデンティティを料理に表現する方が増えてきているのが面白いな、と感じます。まぁ『瓢亭』でいきなりフォアグラやトリュフの料理をお出ししてもびっくりされると思いますが(笑)。でも依頼があれば、やるかもしれませんよ、うちらしいやり方でね。大事なのは柔軟な姿勢だと思いますので、お客様が求めるもの、感動するものを『瓢亭』らしいかたちで表現していけたら、と思っています。(終)

時代に合った『瓢亭』の料理をめざし、ゆっくりと進化していきたい。

根菜だけで炊き上げる『野菜の筑前煮』

修業時代も、うちの店でも、厨房のまかないでひんぱんに登場するおかずといえば、筑前煮です。数え切れないほど食べていますが、この料理ほど作る人の個性が出る料理もないのではないでしょうか。野菜の切り方も味付けも、その人の料理に対する考え方やクセが出ていて、食べていて楽しい料理だと思います。このレシピは、通常入ることの多い鶏肉を入れない、野菜だけの筑前煮です。もちろん鶏肉が入るとボリュームも出ますし、おかずとしてもおいしいのですが、野菜全体に鶏の味ばかりついてしまう気がするんですよね。それであえて野菜だけで炊く筑前煮をお教えしたいと思いました。この作り方だと、野菜それぞれの味がよく分かります。季節的にはもう少し先になりますが、根菜が旬を迎える秋口から冬にかけて、ぜひ作ってほしいと思います。ごはんもおいしく食べられますし、冷めてもおいしいのでお弁当のおかずにもおすすめです。肉じゃがのように、ご家庭それぞれの特徴のある味になると思いますので、ぜひ、こまめに作って、我が家の味にして欲しいと思います。

野菜の筑前煮

野菜の筑前煮

コツ・ポイント

野菜それぞれを食べやすく、火が通りやすい大きさに切ること。切った野菜はまんべんなく炒めて水分を飛ばし、香りを引き出します。 加熱が不十分だと、味が良く染み込みません。煮詰める時も野菜の形がくずれないよう丁寧に炊き上げてください。 ※調理時間は、干し椎茸を戻す時間を含みません。

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  • 文:北條尚子
  • 写真:キッチンミノル