名店のまかないレシピ

原田慎次 / アロマフレスカ イタリアンの定番をアレンジ ミートソースカレーうどん

銀座中央通りに面したビルの12階。そこに広がるのは、五感を高める贅沢かつ洗練された空間。イタリア語で「フレッシュな香り」という店名のとおり、98年のオープン以来新鮮さを絶やすことなく、訪れる人に感動を与え続ける名店「アロマフレスカ」。幅広くレストランのプロデュースも手掛ける原田慎次シェフにとって、まかないには特別な意味があるのだそうです。

シェフとしての引き出しを増やす「鍛錬」の場

シェフとしての引き出しを増やす「鍛錬」の場

まかないはランチ営業とディナー営業の間の16時に。1週間の営業日の中で月水金はイタリアン、火木土はフリースタイルの献立と決めています。

パスタのまかないはある程度しっかりとしたものを作りますよ。皆イタリアンの腕を磨きたいと思って働いているはずですから当たり前ですよね。まかないだからと手を抜かずに、お客様に出してもいいと思えるものを、と伝えています。僕もだいたい一緒に食べるようにしていて、美味しいと思ったら褒めるし、まずいと思ったらちゃんと指摘します。

まかないを作るのって決して簡単ではないんですよ。うちは20人くらいですが、決められた時間に合わせて多人数分の料理を一度に作るには、段取りが重要。2、3人前では大したことのない味付けの差が、20人分にもなると大きな違いになったりする。だから手を抜けないし、“まぐれ”はない。3年作り続ければ、それだけ腕も上がる。

僕自身も10代の頃からまかないを作ってきた経験があります。当時働いていた「ヂーノ」という店では一度に5、6種類くらいのパスタを毎日作っていました。それで随分鍛えられたし、まかないの味で(ヂーノ・シェフで師匠である)佐竹さんに認めてもらえた部分もあると思います。

何でも自由に挑戦しようという空気

何でも自由に挑戦しようという空気

パスタ以外のまかない料理を作るフリースタイルの日には、作ったことがないメニューはないくらい何でも出ます。今日のようなうどんは麺から打つこともありますし、とんこつラーメンはだしからとりますし、変わったところではたこ焼き。これは初回は失敗したんです。20人分で200個くらい焼くのに時間がかかり過ぎてしまって、「おい、ディナー営業始まっちゃうぞ」って(笑)。2回目以降は多めにたこ焼き器を持ち寄って早めに焼き始めました。イタリアンの厨房でたこ焼きをつついているなんて、意外かもしれませんね。

ときには「これはお金を出してもいい」と思える秀作を味わえることもありますよ。最近のヒットは冷やし担々麺。作り立てのラー油の香りが最高でした。時には僕のポケットマネーで贅沢も。海鮮丼とか、一年に何度か楽しんでいます。今日のカレーうどんは、僕が自宅でミートソースを試作した後、「イタリアン以外の料理が食べたいな」と考えて生まれたレシピ。絶妙なとろみが美味しいんですよ。

まかないは僕以外全員が順番で作っているのですが、フリースタイルの献立は基本的に担当者の発想に任せています。こうお話ししていると、わりと自由に何でも挑戦しようという空気を、大切にしてきたように思えますね。やっぱり料理人としてチャレンジ精神は大事にしたい資質ですし、だからこそ引き出しが増えていく。僕自身もプロデュースを手掛けている店のメニュー開発をするときに、まかないの時間に得たアイデアが活きることがあるんです。アメリカ料理の開発に携わっていた時には、ハンバーガーをバンズから焼くまかないをリクエストしたりしました。

普段、若いスタッフに伝えているのは「素材をよく見ろ」ということです。同じアマダイでも1日目と2日目では状態が変わる。つまり最適な調理法が変わるんです。素材にしっかり向き合えば、答えは見えてくるし、磨くべき技が分かる。そんな姿勢を教えているつもりです。

ただ、伝え方は昔に比べて柔らかくなったと思います。次世代のシェフを育てるためには、叱られて育った僕たちの時とは違うコミュニケーションが必要。皆が力を発揮しやすいような空気づくりを、気づかれないかもしれないけれど、日々大切にしています。

ミートソースカレーうどん と きゅうりとキャベツ、バジリコとミントのサラダ

ミートソースカレーうどん と きゅうりとキャベツ、バジリコとミントのサラダ

コツ・ポイント

ミートソースカレーうどんの、おいしさの決め手はやっぱりミートソース。ひき肉ではなく薄切り肉を使い、しっかり煮込むことでふわふわの食感に。

きゅうりとキャベツ、バジリコとミントのサラダは、袋の上から素材を叩くことで味が染みやすくなり、フレッシュな香りも素材に移る。30分ほどで味が染みる浅漬けなので、調理の最初に仕込むといい。

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  • 文:宮本恵理子
  • 写真:平瀬夏彦