名店のまかないレシピ

湯浅博司 / ジョーズ シャンハイ ニューヨーク 銀座店 修業時代の“負けん気”の賜物 皮から作る水餃子

洗練された銀座の一角、地下へと続くアプローチを抜けると、そこはシャンデリアきらめく別世界。高い天井にゆったりとくつろげるソファ、そして気分を盛り上げる音楽。贅沢な空間で味わえるのはニューヨークで3店舗展開し、「ザガットサーベイ」などで受賞歴豊富な中華料理の名店「ジョーズ シャンハイ ニューヨーク」の銀座店。名物の小籠包を筆頭に多くのファンを惹きつけてやまない店の厨房を任されている湯浅博司シェフは、自ら腕をふるってまかないを作ることも多いのだとか。修業時代の思い出とともに語ってくれました。

「悔しさ」を乗り越え、料理の道にのめり込んだ

「悔しさ」を乗り越え、料理の道にのめり込んだ

まかないはランチ前の朝の時間とランチ後の1日2回。朝は簡単に麺類で済ませることが多いけれど、昼はなんでもあり。若いのもベテランもみんな交代で作っていて、私もよく作りますよ。「今日はこれが食べたいな」という時にはすぐ自分で作っちゃう。献立は中華に限らず、野菜をたっぷりすり下ろして作るカレーとか、最近ではカツ丼やハンバーグ、スパイスをたっぷり効かせたフライドチキンなんかも。僕、肉が好きなんですよ(笑)。ほら、今日のまかないでも肉が食べたいと思ったから、豚の角煮と餃子。みんな大好きでしょ。餃子の中身は野菜が多めだからバランスも悪くないんですよ。
餃子にはね、修業時代の思い出が詰まっているんですよ。もともとはスポーツの道に進むつもりだったけれどケガで断念して恩師の紹介で料理業界へ。大手レストランチェーン店に入社して初めて配属されたのがたまたま中華の店でした。当時は先輩後輩の序列が厳しくて、初日からいきなり怒られてばかりでね。悔しくてしょうがないんだけれど、まだ何もできないから従うしかない。毎日辞めたいと思いながら、逃げるのも悔しいからなんとか1年半くらい頑張って。そしたらちょっと包丁が扱えるようになってきて、急に料理が面白く思えるようになったんですよね。ある程度できるようになってきた時、より成長できる場を求めてホテルに転職。でも、行ってみたら香港人のシェフと2人だけ。広東語を1日2語ずつ覚えて何とかコミュニケーションをしていったら、いろんな餃子の作り方を教えてくれるようになったんです。

「点心ばかりじゃダメだ」まかない作りで腕を磨く

「点心ばかりじゃダメだ」まかない作りで腕を磨く

その頃、中国料理のシェフ同士の横のつながりもできてきたんですが、ふと「点心ばっかりやってちゃダメだ」と。広東料理はどうしても点心がメインなので、自分で積極的に他の料理を覚えようとしなければ成長できないなという危機感をもっていました。もっと鍋を頻繁に扱うにはどうしたらいいかと考えた結果、まかない担当に手を挙げて、1日3食作らせてもらうようにしたんです。まかないなら、いろんなメニューを作れるじゃないですか。自分の仕事を全部済ませてから宴会の仕事も手伝ったりして、調理のバリエーションを広げる機会を作ろうとしていましたね。でもそればっかりやっていると、香港人シェフから「半人前なのに鍋ばっかり握ってないで、もっと点心を真剣にやれ!」と怒られて、また点心作りに励んだり。あの頃は寝不足も苦に感じずに毎日一生懸命でした。そうやってずっと地道にやっていると、ある日突然、昨日までできなかったことが急にできるようになることがあるんですよね。その繰り返しで今があるんだと思います。
先輩に伸ばしてもらった僕ですが、今の店の若いスタッフには「先輩の顔色ばかり伺うな」と言っています。料理店にとって一番大事なのは、当たり前ですがお客様です。先輩に怒られないように、という気持ちで仕事をするのではダメで、「お客様のためにできることは?」という姿勢が大事。若い頃、僕自身も勘違いしそうになった時期があって「いや、違う」と考え直した経験があるんです。
お客様のことを考えてやることだったら、多少型からはみ出していてもいい。大事なのは気持ちなんだぞ。そう伝えています。

皮から作る水餃子 と 豚の角煮

皮から作る水餃子 と 豚の角煮

コツ・ポイント

皮から作る水餃子は、具材はさっと混ぜる程度でOK。練り過ぎると野菜から水気が出て食感が損なわれます。皮は少しずつ水を足して調整しながらよく練り、約2時間ねかせてなじませます。
豚の角煮は、豚バラ肉をゆでる前に水にさらして血抜きをするのがポイント。雑味やアクが出にくくなり、上品な味に仕上がります。

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  • 文:宮本恵理子
  • 写真:平瀬夏彦