名店のまかないレシピ

土方康彦 / ナーガ・ラジャ 定番にんじんのポタージュをアレンジ お野菜ゴロゴログラタン

久里浜駅から程近い、その地の風景になじんだ店構えでこだわりのインド料理を提供する名店「ナーガ・ラジャ」。会社員を経て料理の道へと転身したという土方康彦シェフが提供するのは、5カ月間に及ぶインドの長旅で味わったインド料理の魅力と、底知れぬ探求心が生み出すオリジナルの妙技が合わさったここでしか出会えない味です。現地から持ち帰った本のレシピを一つ一つ翻訳し、実験のように試作を重ねてメニューを開発してきたという土方シェフにとって、「まかない」は新たな料理の世界に出合える奥深い“遊びと学びの時間”だそう。さて、今日はどんな献立を思いついたのでしょうか。

まかない作りで世界の料理に出会う

まかない作りで世界の料理に出会う

海軍にいた祖父の影響で、幼い頃から洋食のおいしさに触れる機会があり、食べるのも作るのも大好きでした。流通関係の仕事に就き、会社員生活を送っていた私がこの店を開いたのが25年前。インド料理が特別に好きだったというよりも、たまたま旅をしたことやもともと東洋医学に興味があったこと、当時はインド料理店が珍しかったことなどいくつかの理由で、自然とインド料理の道に進むことになりました。
最初は現地から持ち帰ったレシピを忠実に再現することから始めましたが、そのうち自分なりの工夫を加えて、オリジナルの料理を作るようになりました。「こうでなければ」にとらわれず、常に仮説と検証を繰り返していけば、「これだ」という味に辿り着ける。インド人が作る料理を目指すのではなく、自分がいいと信じられる料理こそ、うちで出すべきものなんだと考えられるようになってからは、真っすぐに自分の味を追求できるようになりました。
料理というものは、人類が何を考え、何を食べ、どう生きてきたかという歴史そのもの。探求はまだまだ尽きません。世界中の料理を学び、実際に作ってみることで、壮大な歴史のロマンに触れられるのがとても面白いんです。
だから、うちのまかないはオールジャンル。イタリアン、スパニッシュ、和食、中華、タイ、ベトナム料理……。本当にバリエーション豊かですよ。Facebookに写真をアップすると「お店で食べたい!」とおっしゃってくださる方がいて、嬉しくなってつい本当に提供しちゃったり。麻婆豆腐なんて、インド料理じゃないんですけどね(笑)。でも、料理人というのはやっぱり「おいしそう」「おいしかった」と言われるのが本当に嬉しいんですよ。

震災を機に生まれた名物ポタージュ

震災を機に生まれた名物ポタージュ

まかないを作り始めるのはいつもランチタイムが落ち着いてからで、食べるのは15時くらいになりますね。もちろん、私が自分で作ります。その日の朝の買い出しで安くて面白そうな食材を見つけたら、「さあ、これで何を作ろうか」とあれこれ考えます。基本的にまかないというのは、低コストで時間をかけずに作るものですから、料理の練習にもなりますね。
今日作ったのは、ヘルシーで見た目も楽しめる野菜が主役のグラタン。肉や魚介が入っていないから、ストレートに野菜のうまみを味わえるんですよ。ベースソースとして使っているのは、うちの店の定番メニューになっている「にんじんのポタージュ」。このポタージュ、実は2011年の東日本大震災の時に自分なりにできることはないかと考えて開発したものなんです。安心・安全で、誰でも簡単に作れて冷凍保存もできる料理はないかと何度も実験を重ねて完成したレシピには、ポタージュ作りでお決まりの面倒な行程は一切ありません。味にももちろんこだわりました。
災害時の非常食として作ったものですが、最初に役立ったのは長年勤めてくれているスタッフのお母さんが病に倒れて食事が十分にできなくなってしまった時です。スープなら飲めると聞いてこれを試してもらったら喜んでもらえて、「飽きないように」とカボチャ、ジャガイモ、ホウレン草、黒ゴマとバリエーションを考えていくうちに、お店のメニューも増えていったんです。おいしいと言ってもらえることが励みになって、私自身も楽しい。「誰かのために」と始めたことが、いつのまにか「自分のために」なっていたんですね。
「おいしい」を超えた「感動」を与えられる料理を提供できるよう、まだまだ勉強を続けていきたいと思います。

お野菜ゴロゴログラタン と プーリー

お野菜ゴロゴログラタン と プーリー

コツ・ポイント

お野菜ゴロゴログラタンは、肉を入れずに野菜の味を主役にした料理。ベースにするにんじんのポタージュには、野菜からとっただし(ブロード)を加えることで風味豊かに。
プーリーは材料を捏ねて寝かせる工程を丁寧に、1時間ほどかけてやることで生地がおいしくまとまっていきます。

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  • 文:宮本恵理子
  • 写真:平瀬夏彦