食材と生きる

岡山県備前市日生頭島 リストランテ テラダ 寺田真紀夫

岡山の食材を使って風土を表現すること。僕の思う料理人の理想はそこにある。

岡山県産の食材を使い、この土地でしかできない料理を創造する「リストランテ テラダ」。寺田シェフが大切にしていることのひとつは、生産者との関係づくりだ。

「地方だからできない」なんてことはない。ただ、時間はかかる。

生産者さん回りを始めたのは、2000年。お店を開店した直後です。

親や親戚が農家というわけでもないので、当時、生産者さんとのつながりはほとんどありませんでした。休みのたびに車を走らせて、たまに直売所を見つけて、その野菜を食べて、生産者さんの名前と連絡先を知っていく。そんな地道な作業からスタートしました。

東京だとあまり感じることはないかもしれませんが、地方はまだまだインターネットに出てくる情報には限りがあるし、例えば目の前に話をしたい人がいたとしても、直接アクセスしたのでは関係づくりがうまくいかないこともある。その人にどういうルートでたどり着くかも考えないといけないですね。

地方だからできない、ということはないと思っています。クリエイティブな料理は地方では理解されない、なんてことももちろんない。ただ、時間がかかることは確かです。店や料理を知ってもらうにしても、人との関係づくりにしても。

そんななか、自分がラッキーだったのは、早い時期に地元で独立できたこと。今では人が人を紹介してくださる形で、たくさんの生産者さんたちとお付き合いさせていただけるようになりました。

今日これから向かうのは、日生(ひなせ)という場所の漁協です。そこは競り場がありますが、僕は競りができないので、お付き合いのある魚屋さんから買い取ります。欲しい魚を伝えて競り落としてもらうこともあれば、珍しいものを持ってきてくれることもあります。

年を重ねるにつれ、瀬戸内海の魅力を強く感じる自分がいます。とくに瀬戸内の魚への思いは強まり、近々魚だけのコースを作ることになりそうです(笑)。

瀬戸内海は、景観も素晴らしく、豊かな海。一級河川が3本流れていて、山の恵みが川の水に乗って、たっぷりと瀬戸内海に注ぎ込まれています。岡山の料理をイメージするとき、海のものと山のものが渾然一体となっている感覚が僕にはあり、料理の要素として海の食材と山の食材の両方を必ず入れるのですが、それはこうした理由からです。

岡山市内から東に車で1時間、海岸線を走ると日生(ひなせ)漁港がみえてくる。兵庫県との県境も近い。「セイロ」とよばれる容器に獲れたての魚が入れられ、競りにかけられる。

▲岡山市内から東に車で1時間、海岸線を走ると日生(ひなせ)漁港がみえてくる。兵庫県との県境も近い。「セイロ」とよばれる容器に獲れたての魚が入れられ、競りにかけられる。

現場の「テンション」を料理に移す

日生漁協には定期的に来ています。日生の魚の素晴らしさは何と言っても環境と鮮度。メバルのような小魚やガラエビなど、味に深みのあるいい魚が生きたまま競りにかけられています。中央(卸売市場)に行くと、すでに死んでしまっているでしょう。生きたままの新鮮な魚を仕入れて、自分で締める。そうすることで味も状態も随分と違うものになります。4月中頃から5月にかけて、日生はサワラが非常にいいですね。

「つぼあみ漁」といって、スズキなどを捕るとき、魚の通るルートに網を張り、一度入ると出られないようにして獲る漁法があります。こうすることで魚の身を傷めずに獲れるそうです。牡蠣の養殖も盛んで、通常は食べられる大きさに成長するまで2年かかると言われていますが、ここ日生は1年で大きくなる。それだけ肥沃な海です。

独特のだみ声で競りは行われ、10数社の仲買人の指の符牒が飛び交う。日生漁港の競りは朝7時半から始まり、15分もすると終わってしまう。競りが終わっても、魚はまだ口をパクパクさせている。

▲独特のだみ声で競りは行われ、10数社の仲買人の指の符牒が飛び交う。
日生漁港の競りは朝7時半から始まり、15分もすると終わってしまう。競りが終わっても、魚はまだ口をパクパクさせている。

魚は日生のほか、寄島漁協にも行っています。寄島はワタリガニが非常に有名なんですよ。あとは岡山の中央卸売市場。使う魚種は固定していません。僕のするべきことは、瀬戸内で上がってくるものをどう料理するか。リストランテという形態で、ディナーは1万円でさせていただいているのですが、そのやり方を選んだのは、食材をある程度自由に選べるから。とことん挑戦ができます。

僕が産地に行くのは、もちろん生産現場や生産者さんのことをもっと知りたいから。ここの漁協の雰囲気、競りの勢いも、すべて感じて料理に表現し、お客様に楽しんでいただきたいと思っています。自分のために作ってくれたお米や野菜、お肉、そして自分のために漁に出てくれたり競り落としてくれた魚、そうした現場で感じたテンションが料理に表れるものだと思っています。

野菜は15軒の農家から直送してもらっている。肉は鹿と牛を使う。牛は1軒の決まったところから。

▲野菜は15軒の農家から直送してもらっている。肉は鹿と牛を使う。牛は1軒の決まったところから。

地元の料理人として、生産者にできること

料理人として、農家さんにできることは2つあります。1つは野菜を買うこと。もう1つは、買った野菜を料理に変えること。食材をいただく以上、いい料理に変えなくてはなりません。そしてその変化を見てもらうことも、僕の役割のひとつだと思っています。

僕がいつも使っているお米の生産者さんが、先日、ご家族でフェアに来てくださったんです。そのときに「我が家の米をリゾットという形で初めて食べました。食感や味に感動しました」と言ってくださいました。こういうときが、料理を作っていてよかったと思う瞬間です。農家さんにとっても刺激になれたら嬉しいですし、僕もそれに負けない料理を作り続けたい。こうして密に生産者にフィードバックができるというのは、地元の料理人ならではの関係性だし、役割だとも思っています。

お付き合いをする中で最も重視するのは、その方の情熱とか、フィーリングの相性といったようなところですね。

最近出会った生産者さんに、オリーブオイルを作っている西山さん、武さんという方がいます。昨年から始めて、まだ年間20数リットルしかありません。それが、すばらしいオリーブオイルなんです。

西山さんと武さんは造園業を長くなさっていて、オリーブ苗を販売していたのだそうです。ですからオリーブ栽培に適した環境、生育の方法を知っている。確かな経験と知識があり、オリーブ栽培にかける熱い情熱をもっている。野菜にせよ、加工品にせよ、作り手の思いは出るものですね。料理に彼らの作ったオリーブオイルをかけるとき、僕は香りや味わいというよりも、オリーブ作りの情熱をかけているような気持ちになることもあります。

圃場には定期的に足を運びます。圃場を見れば、どのような姿勢で野菜づくりをしているかわかるようにもなりました。畑で生産者さんと話をして、その情熱を受け取って、料理に生かす。そうして進化していったのが、「リストランテ テラダ」の料理です。

地元の料理人として、生産者にできること

先にも話しましたが、地方の料理人がどうあるべきなのか、というのは僕がずっと考えているテーマです。地元の食材の良さを、料理として表現していくことのほかに、すべきこと、できることはまだある。

生産者さんたちからは、新鮮な食材と一緒に、新鮮なお悩みもいただくんです。

新種の野菜を作ってみたけれど、どう食べるのがいいか? どんな野菜を植えたほうがいいか? 産地ならではのこうした悩みも、料理人として役に立てるのならば答えていきたいです。自分の店の予約をいっぱいにするだけが自分のすべきことではない。料理人としていかにお役に立てるのか、料理人としての知識や経験をどう生かせるか。それをひっくるめて、食材の産地の近くで生きる料理人の役割じゃないかと、最近強く感じています。 (終)

黒毛和牛の煮込み マッシュルーム風味

黒毛和牛の煮込み マッシュルーム風味

特長

「リストランテ テラダ」で使うのは、岡山県で30カ月以上飼育された雌牛。国産マッシュルームの主要産地・牛窓産のマッシュルームの香りが、穏やかな牛肉の味わいを優雅に引き立てる。

コツ・ポイント

煮込むと柔らかくなる牛すね肉をコトコト煮込みます。魚介の旨みを入れるのは、ブイヨンを使わずに少ない材料で奥深い味わいを出すため。マッシュルームは、半分はしっかり煮てソースの旨みとし、半分は仕上げに加えて具材として食感と香りを楽しむ、という2種類の使い方もポイントです。

レシピを見る

リストランテ テラダ

リストランテ テラダ

〒701-3204

岡山県備前市日生町日生2766-3(開店準備中)

TEL 0869-92-4257

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  • 文:柿本礼子
  • 写真:株式会社スタジオヱヴィス