名店のまかないレシピ

古賀純二 / ビュッフェ形式でわいわいと キーマカレー

正統派フランス料理店として1984年、京橋で開店したシェ・イノ。国内外のシェフから尊敬を集める井上旭オーナーシェフが大切に守り抜いてきた美食の真髄を継承し、料理長を務めるのが古賀純二シェフです。ステンドグラスがきらめく華麗な空間に、柔らかな温かさを吹き込むようなシェフの笑顔も、お店の魅力を高めています。ランチタイムを終えてディナーの仕込みが落ち着いた頃の16時半、テーブルを並べてまるで晩餐会のような光景の中、いつものまかないの時間が始まりました。

反省から釣りの計画まで。貴重なミーティングの時間

反省から釣りの計画まで。貴重なミーティングの時間

まかないは1日2回。ランチタイムの前とディナータイムの前にいただいています。ホールも厨房もスタッフ全員20人くらいで一緒に食べます。作るのは新人の役割で、先輩に教わりながら作ってもらっています。

ジャンルは和洋中問わず、みんなが食べたいものを。若い子は揚げものが好きなので今日みたいなフライのメニューはよく登場しますね。カレーも週に1回は出ますよ。好きなだけ食べられるよう、ビュッフェ形式にしていて、ワンプレートでいただくんです。今日のフライのタルタルソースとキーマカレーは、お皿の上で混ざった味もなかなかおいしかったですよ。付け合わせのサラダに使う野菜は、お客様に出さない根元のほうを使っています。ランチタイム前のまかないは軽めで、パスタなんかが多いですね。

まかないを食べる場所に実はこだわっているんです。うちはクロスをきちんとかけたテーブルとテーブルを付けて、お客様をお通ししているホールで食事をします。実際にお客様が食事をしている空間で食べることで気づくこともあるかもしれませんし、よりおいしくいただけますから。

食事の時間以外は全員顔を合わせてミーティングをする時間がないので、まかないの時間は貴重なコミュニケーションの機会にもなっているんです。その日いらっしゃる予定のお客様の情報を共有したり、反省すべき点を話し合ったり。雑談もしますよ。今度の日曜に有志で釣りにいく予定なんですが、そんな計画をみんなで立てるのもまかないの時間です。

家族や友人に作るように、愛情をかけた料理を

家族や友人に作るように、愛情をかけた料理を

開店当時から入って気づけば30年が過ぎました。一つの店でずっとやっていくつもりが最初からあったわけではないのですが、様々なタイミングや縁が重なって今に至っています。フランスで修業をして、自分の店を持って・・・と夢を描いていた時期もありましたが、今は店と共にキャリアを積み重ねてきたからこその財産があると感じています。一番大きいのは、お客様と共に月日を歩み、関係を築いていけること。長年お付き合いいただいているお客様の存在はとてもありがたいですね。

若い人たちが気持ちよく働いていい料理を作れるようになるために、自分が駆け出しの頃に感じていた気持ちを思い出すようにしています。腕を上げるために必要なつらさはありますが、無駄なつらさは極力排除できるように。料理長という立場である私が「昨日遅かったんだから、今日は早く帰れよ」と言ってあげれば、新人も帰りやすくなるでしょう。

私自身の経験を振り返ると、はじめの5年はつらかったですね。修業が厳しい時代でもありました。でも、自分の料理をお客様に召し上がっていただけるようになると、やりがいが持てて仕事が格段に楽しくなったんです。修業中のシェフも、「料理をするのが楽しい」という気持ちを大切にしながら育ってほしいと思います。

日ごろ厨房でよく伝えているのは、「自分の家族や友人に作るように愛情をかけて料理しよう」ということ。「料理は愛情」という意味は、きっとこういうことなのだろうと確信を持てるようになりました。私たちが提供している料理は、お客様にいただく代金に見合うだけの価値を作りださなければならない。そういった高い意識を常に持ち続けることも、正統なフランス料理を追求し続けている井上オーナーシェフから受け継ぐべきバトンなのだと考えています。

キーマカレー と フライのタルタルソース

キーマカレー と フライのタルタルソース

コツ・ポイント

キーマカレーは、大きめのみじん切りにした香味野菜を多めの油で炒めて火を通し、カレー粉を加えたらしっかりと炒めます。合びき肉は別に炒め、一度ザルにあけて余分な脂を切るのもポイント。

タルタルソースは、マヨネーズを手作りするだけで、フレッシュで豊かな風味のソースに。多めに作って冷蔵庫でストックしてもいい。卵は少し奮発して、良質な卵を使うのがおすすめ。

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  • 文:宮本恵理子
  • 写真:平瀬夏彦