名店のまかないレシピ

山根大助 / ポンテベッキオ お母さんのような心で作り継ぐ伝統の味

1986年、「理想の店をつくりたい」と夢を抱いた若かりし山根大助シェフが開いたイタリアンレストラン「ポンテベッキオ」。その料理は、イタリアの権威あるレストランガイドブックで日本国内の最高得点を何度も獲得するなど、確かなものとして知られています。味のみならず、料理を彩る食器や空間まで、細部にまでこだわる総合演出として料理の可能性を高めてきた山根シェフ。どんなに忙しくなっても、店でスタッフと一緒に食べるまかないの時間は大切にしたいのだと語ります。厨房の調理台にほかほかと湯気のたつおでんを並べて、「いただきます!」と和やかなひと時が今日も始まります。

食べて健康になる。それが飯屋の基本

食べて健康になる。それが飯屋の基本

僕が大阪の本町に初めて店を出したのは1986年、今から数えると29年前。今日のまかないの「キムチおでん」は、その頃からずっと作ってきているうちの伝統の味なんです。当時はスタッフも少なかったから、僕が毎日まかないを作っていましたよ。仕入れでお世話になっていた八百屋のおっちゃんから「キムチでおでん作ったらうまいよ」って教えてもらってね。具を自分でアレンジして完成したのがこれ。朝オーブンに入れたら昼頃にはうまくなっているから、手間いらずでまかない向きなんですよ。それに煮込み料理ってなんかほっとするでしょ。

まかないは店の経営にとって、とても大事なものだと僕は思っています。

第一義は、しっかり栄養をとるため。ホールも厨房も、レストラン経営の一番の資本は体です。スタッフがきちんとした食事をとって健康であることは店の基盤になります。だから、うちはまかないを開店前、昼休憩、営業後の1日3回出すし、献立は野菜たっぷりが基本。おかずがトンカツの時は、生のキャベツの千切りだけでは野菜の量は不十分だから、焼いたり蒸したりしてできるだけ量をとれるようにしたりね。肉も意外と量をとれていないことも多いから、たんぱく質のバランスも考えて。まるで“お母さん”のような気持ちで考えていますよ。

僕がいっぱい食べさすからかな。うちに入ってきたら、みんなちょっとずつ太ってきよるねん(笑)。でも、飯屋が痩せ細っていくよりいいでしょ。食べて健康になる。そのためのまかないであることが一番大切です。

その次にある第二義が、料理の勉強のため。まかないを作る当番は3番手から下の料理人が順番でやっていますが、まかないを担当するという役割はいわば“料理長の練習”なんですよ。仕入れの交渉から、調理の段取りまで全部自分で考えてやる。炒め物を20人分、時間までに完成させるのは、簡単じゃないですよ。材料ごとに仕上げて最後に合わせるか、とか工夫を凝らして、全体を設計する。この設計する力を鍛えることが、僕が日ごろから言っている「最適調理」という考え方にもつながるんです。

最後に、第三義として考えているのは、店としての共通認識のため。おかげさまで店舗数も増えてきましたが、その分、僕の料理に対する価値観や微妙な味の決め方をスタッフ間ですり合わせていくことには神経を使わないかんと思っています。週に一度、各店の料理長を集めての会議もやっていますが、やはり大事なのは味を提供する現場の共通認識。まかないというのは、「店のスタッフ全員で同じ料理を食べる」という唯一といってもいい貴重な機会だから、その日のまかないについて「これはうまいね」「ちょっと味が濃過ぎないか」「前回のおでんのほうがうまくいった。何でやろ?」とか意見を言い合うというのはすごく大事。そんなふうにまかないに対して積極的になれる料理人は見込みがあると思うし、どんどん意見したほうがいいと伝えています。

情熱を絶やすことなく料理人として力を磨いていきたい

情熱を絶やすことなく料理人として力を磨いていきたい

料理人の心得として、日頃スタッフに伝えているのは、「素材を大事にする」ということです。いい素材を選び、その素材を隅々まで活かして、おいしい料理を完成させる。とてもシンプルなことですが、繰り返し伝えなければ徹底されないことだとも実感しています。

食材は生き物。命ある食材を、ロットごとに品質がまったく同じの工業製品のように考えてしまってはいけない。そういう考え方を丁寧に伝えています。

僕自身は20代で店を持ち、理想をもってひたすら仕事に明け暮れてきました。ありがたいことに、今では調理場の外でも料理について伝える役目もいただく機会が増えました。だんだんと自分の立つステージが変わってきたなと感じながらも、いつまでも料理人として力を磨いていきたいという情熱は絶えません。僕がかつて教えたことのあるシェフが40代になって活躍をし始めているのも嬉しいですね。そんな彼らと一緒に同じ時代を走れていることも、僕の誇りです。

牛すじ肉と大根・煮卵のキムチおでん と 夏野菜とじゃこの焼きびたし

牛すじ肉と大根・煮卵のキムチおでん と 夏野菜とじゃこの焼きびたし

コツ・ポイント

牛すじ肉と大根・煮卵のキムチおでんは、牛すじ肉と下茹でした大根を調味料で煮るだけ。煮詰まりすぎたらお湯を足して調節を。最後にキムチを煮合わせて完成です。

夏野菜とじゃこの焼きびたしは、野菜を同じ大きさに切り分けることと、蓋をして昆布水を含ませながら蒸し焼きにするところがポイントです。ぽん酢をかけてさっぱりとどうぞ。

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  • 文:宮本恵理子
  • 写真:平瀬夏彦