名店のまかないレシピ

工藤敏之 / ラ・ロシェル ムッシュ坂井から受け継ぐ伝統のロールキャベツ

“鉄人シェフ”としてフレンチをお茶の間に浸透させた「ムッシュ」こと坂井宏行シェフが東京・青山、山王、福岡に開いたレストラン「ラ・ロシェル」。その精神を引き継いで、現在3店舗74人のスタッフを率いるのが総料理長の工藤敏之シェフです。

ランチ営業を終えた時間、窓際の日当りのいいテーブルに総勢21人が集合。工藤シェフの元気な「いただきます!」の一声で、賑やかで笑顔の絶えないまかないの時間が始まりました。

スタッフ全員揃って食事をする時間が、笑顔溢れる空間をつくる

スタッフ全員揃って食事をする時間が、笑顔溢れる空間をつくる

そもそも飲食店にとって「まかない」というのは、食材のロスを極力なくすためのものであり、新人にとっての修行の機会になるものです。うちの場合は、もう一つ、「コミュニケーション」のためという意味がとても大きいですね。 営業中はフロント、ホール、厨房とそれぞれに持ち場があって真剣勝負だから、お互いの存在は意識しても交流は難しい。けれど、レストランはスタッフみんなで作る空間で、そこには笑顔がなければいけないと思うんです。笑顔溢れる楽しい場に、人は集まるのですから。だから、より多くのお客様に来ていただくためにも、優秀な人材を集めるためにも、「全員で一緒に楽しむまかないの時間」は大事にしています。ここ山王店にはキッチン11名、ホール7名、フロント3名のスタッフがいますが、できる限り全スタッフの時間を合わせて、一緒に「いただきます」ができるように心がけています。職場は1日のほとんどを過ごす場所ですし、1年のほとんどを過ごす場所。だったら、毎日来たくなる雰囲気にしたいじゃないですか。もちろん、厨房ではしっかりと指導しますよ。でも、まかないの時間は新人もベテランもリラックスして、ワイワイガヤガヤと食事を楽しめる時間にしたい。すると、自然に「先輩、今日の下ごしらえのことなんですけど」って質問もしやすいでしょう。

同じものを全員で同時に食べるということは、「店の味を守る」ということにもつながります。例えば、今日のまかないはムッシュも一緒に食べましたけれど、一口食べてすぐにムッシュが「ちょっと上品過ぎるかもしれないな」って言ったんですね。「おいしい」という味覚は人それぞれに違うものですが、うちの店にとっての基準は何かを全員が同じものを食べながら確かめ合える貴重な時間になっている。まかないは、“レストラン内の食育”だと思っています。

ムッシュから受け継いだ50年ものの味、そして人を率いることの本質

ムッシュから受け継いだ50年ものの味、そして人を率いることの本質

そんな工藤シェフにとって、特に思い入れ深いまかないメニューは、「ラ・ロシェル伝統のロールキャベツ」。ムッシュから25年以上前に教わったという思い出のつまった逸品です。

このロールキャベツは、肉のつなぎとして冷ご飯を使うのがポイント。ふっくらと柔らかく仕上がっておいしいんです。評判がいいのでランチメニューにも出していました。ムッシュに教わって作り始めたのが25年くらい前で、ムッシュも修業時代から作っていたそうですから、もう半世紀は続いている味ということになりますね。

この時間の積み重ねを思うと、師匠であるムッシュから教わってきたことの奥深さをあらためて感じます。どんなに偉くなっても閉店後の掃除まで付き合って、皆と一緒に笑顔で帰る。そんな姿勢を見てきたから、私も自然と受け継いでいます。「料理は、技術と知識、そして、人間性である」ということを背中で教えていただきました。人生において大事なのは「どんな師匠に出会えるか」だと思っていますが、私の場合はムッシュの弟子になれたことが最大の幸運でした。人間としての魅力を磨き続け、これからも皆さんに愛され、食文化を発信できるレストランでありたいと思っています。

ラ・ロシェル伝統のロールキャベツ

ラ・ロシェル伝統のロールキャベツ

コツ・ポイント

肉のつなぎに使うのは、水洗いをした冷やご飯。チキンブイヨンを混ぜ入れることで、ジューシーでふっくらとした食感に。チキンブイヨンや冷やご飯は冷やしておくことで、肉の脂が溶けずにうまみが凝縮されます。

スープは、干し椎茸やベーコンでうまみたっぷりに仕上げましょう。

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  • 文:宮本恵理子
  • 写真:平瀬夏彦