名店のまかないレシピ

落合務 / ラ・ベットラ・ダ・オチアイ シェフもリピート!の定番料理 豚の生姜焼き

「おーい! 飯はまだ? みんなで早く食おうぜ!」。落合務シェフの元気なかけ声で、イタリアンの名店「ラ・ベットラ・ダ・オチアイ」の厨房から次々に今日のまかないが運ばれてきます。

お皿に山のように盛られたのは、落合シェフが大好きだという豚の生姜焼きとキャベツ。ご飯、味噌汁、納豆も並んで、20人ほどのスタッフの皆さんが着席したら、「いただきまーす」。落合シェフを中心に、和気あいあいと会話を楽しみながら進む様子は、まるで大家族の食事風景のよう。和食の献立ながらフォークとナイフでいただくのは、イタリアンレストランならではです。食事が終わる頃には、レストランの熱気が一段とアップ。エネルギーをたっぷりとチャージして、お客様をお迎えする準備が始まります。

「好きなものを食べて楽しむ それが料理の基本

好きなものを食べて楽しむ それが料理の基本

外での仕事も多いから、僕が店のみんなとまかないを一緒に食べられるのは月に1~2回くらい。でも、店に寄れない日でもLINEでまめに連絡は取り合っていますよ。だいたいの情報は把握しているつもりだけど、直に顔を合わせる時間というのも大事だね。「俺の顔、覚えているか?」なんて冗談言ってね。一緒に飯を食いながら「最近、どう?元気か?」って聞くと悩みを話してくるやつもいますから、貴重なコミュニケーションの場になっていますね。

まかないに関して厳しく予算を決める店もあるようだけど、僕はうるさく言わない。好きなもの食えって言っています。だって、自分が好きなものを食べて楽しむのが料理の基本でしょう。料理人は普段は仕事としてお客様用の料理を作っているわけだから、まかないの時間くらいは自由に好きなものを食べたいもんですよ。そうやって、「素直に好きなものを食べる」という時間を持つことは、世間の味の常識を知る機会にもなるでしょう。

献立については、うちの場合は、開店前の朝にはパスタを食べることが多いから、ランチタイム後のまかないはパスタ以外の献立が多いんじゃないかな 。僕は肉が大好きだから、豚の生姜焼きやトンカツをよくリクエストします。今日のまかないもうまかったなぁ。

変わらぬ信頼のために 常に変わり続ける

変わらぬ信頼のために 常に変わり続ける

「予約が取れないレストラン」「行列が絶えないレストラン」といった称号は、周りの皆さんが作って下さったものだけれど、17年間値段を上げずにお客さんに喜んでもらえる店であり続けるっていうのは、常に努力と進化が問われるもの。「変わらない」ためには、「変わらないといけない」ってこと。

店を代表する立場としていろいろと仕事はさせてもらっているけれど、店をまとめるという点では現場を仕切るみんなに任せていますよ。ただ、この「任せる」には絶対的な信頼関係が必要で、その信頼関係は、僕自身が常に自分を磨き続けていないと成り立たない。僕自身が常に信頼される存在でいなければ、「叱る」という行動も相手に響かないんですよ。だから、今でも緊張の連続です。30年前くらいに先輩に言われた言葉が最近になってわかってくるようなこともありますからね。僕はあと50年は生きようと思っていますから、これから理解できることも多いでしょうね。まだまだ勉強中の身です。

本を監修させてもらう時も、読者の気持ちになって「何を知りたいかな?」と徹底的に考えます。なぜこれくらいの塩を入れるのか、といった理屈も含めて疑問に答えると、理解もしやすいでしょう。他人様に向けてのマニュアルを作るというのは緻密で難しい作業ですが、一つひとつ真面目にやっていくのが大事なこと。その積み重ねで、仕事ってつながっていくものだから。

無論、店にはマニュアルはないですよ。店の味というのは常に100点以上のものを目指さないといけませんからね。

豚の生姜焼き

豚の生姜焼き

コツ・ポイント

ごく薄の豚肉を使うことで、タレがからみやすく、食べやすくなる。ショウガは仕上げに絞り汁だけを加えることで香りを活かし、食感が上品に仕上がる。

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  • 文:宮本恵理子
  • 写真:平瀬夏彦